マガジンのカバー画像

近江高校コラム

25
これまで書いてきた高校野球コラムのうち、近江高校に関係の深いものをまとめました。
運営しているクリエイター

#コラム

「山田陽翔=びわ湖」。完成を待つ日本一の方程式/高校野球ハイライト番外編・近江

いつからだろう。スポーツを見るとき、心に予防線を張るようになったのは。 応援チームの優勝を願いながら、いつもどこかで「負けるんじゃないか」と思っている。スポーツが全てではない。負けても明日はやって来る。平静を保つための保険は必要だ。 「2018年を越える。記憶にも記録にも残る史上最強のチームになれる」。 夏前の取材。多賀章仁監督の宣言を100%で受け止めなかった自分がいる。滋賀大会を勝ち抜いたあとも、期待より不安が大きくなってきた。 確かに山田陽翔はスペシャルだ。ただ、ワン

衝撃のコールド負け…名門は屈辱を乗り越えられるか/高校野球ハイライト特別篇・近江

後出しジャンケンと言われればそれまでだが、近江の連覇が止まるなら今年かもしれないと思っていた。 おそらくグラウンドへ行った回数は過去1番多い。華々しい栄光の裏側で、苦しむチームを半年間ずっと見てきた。 センバツ甲子園では西山恒誠が169球の熱投を見せるも、延長タイブレークの末にワイルドピッチでサヨナラ負け。熊本国府とは違う、別の何かと戦っているように見えるほどベンチの空気は重かった。「勝つなら1対0。西山の完封しかないという思いにとらわれ、後手後手に回りすぎた」と多賀章仁監

重圧と死闘を越え、横田悟がたどり着いた「5度目」の甲子園/高校野球ハイライト特別編・近江

「近江でまだ誰も成し遂げたことのない5季連続の甲子園。これを達成できる存在が横田だったんです」 多賀章仁監督の願いを一身に受け、近江の主将に就任した横田悟。しかし去年の秋、夢は彦根東に敗れて儚く消えた。 「早い段階で負けて、自分たちが弱いとわかった。これまでは先輩に優勝させてもらっていただけ」 横田が掲げたチームスローガンは「下克上」。あえてチャンピオンのプライドを捨て、一番下から這い上がる気持ちで厳しい冬を越えてきた。 それにしても、本当にしんどい役回りだったと思う。 先

『滋賀の泣き虫』林優樹が渡され、託したバトン/高校野球ハイライト番外編・近江

土田龍空のドラフトは取材ネタの宝庫だった。と言っても、ほとんどが指名会見後の囲みで聞いた話。 『3年後の1軍定着』だった目標が答える度に上がり続け、いつしか『トリプルスリー』になっていたこと。付けたい背番号に現役選手の数字を答え、訂正するかと思ったら「譲ってもらいましょう」と言いきったこと。 最も記憶に残っている話は、指名直後にかかってきた先輩からの祝福電話に「お先に行ってきます!」と返したということ。この先輩こそ、土田の1学年上にあたる林優樹だった。 魔球・チェンジアッ

大きな湖に育ててもらった…山田陽翔がドラフト翌日に語った感謝/高校野球ハイライト番外編・近江

2022年10月21日。プロ野球ドラフト会議の翌日に実施した、山田陽翔選手の単独インタビュー。放送で伝えきれなかった部分を含めてインタビューのほぼ全文を記していく。 塚本:埼玉西武から5位指名。待って待っての指名だった― 山田:うーん…他の選手が指名されていくのを見ながら1時間半ぐらい待っていたんですが、それ以上に長く感じたのが本音です。 塚本:指名された時の心境は― 山田:すごくホッとしたというか。自分がプロ野球選手になることによって両親にも恩返しができますし、学校にいる

絶望と失望を経て、星野世那が照らす日本一への希望/高校野球ハイライト番外編・近江

「あの投球では使えない」。3回途中で降板した八幡商業戦後、星野世那は多賀章仁監督に告げられた。甲子園ベスト4まで進んだ長い長い2年の夏。「ベンチには入れ続けてもらったけど、登板はないだろうと思っていた」。言葉通り、この試合以降のマウンドに星野が立つことはなかった。 出身は草津リトルシニア。滋賀学園の服部弘太郎や比叡山の有川元翔らと全国準優勝も果たした星野は、2018年の林優樹に自分の姿を重ねてブルーのユニフォームに袖を通した。 角度あるストレートや大きな縦カーブだけでなく、

犠牲の先のストーリー~高校野球ハイライト延長戦13日目・近江

3回戦を終えノーヒット。打撃で苦しむ近江の主将・春山陽生は、帽子の裏に大きく『犠牲』と書いた。「結果を出したい気持ちを捨ててチームに尽くす」。準々決勝では安打こそ出なかったが、言葉通りチャンスを広げる死球でガッツポーズを見せた。 「自分たちの代で負けて…1年のほとんどが大変な時期だった」。去年の秋は決勝で敗れ、県内連勝は34で止まった。今年の春は3回戦で敗退し、シード権も失った。全ての優勝旗が学校から姿を消す中で、多賀章仁監督が「重石を取ってやりたい」と話すほどに春山は追い

成長曲線はホームランの如し~高校野球ハイライト延長戦特別編・近江

「新チームの捕手は島瀧悠真」。水口東を破った去年の独自大会決勝直後、近江の首脳陣から聞かされた構想は衝撃的だった。確かに肩は強い。長打力もある。それでも名門で1年生ながら甲子園ベンチ入りを果たした投手だ。1学年下の山田陽翔が台頭してきたとはいえ、「投手・島瀧」を捨ててまでのコンバートには不安もよぎった。 結果的に不安は現実となる。秋は滋賀学園と神戸国際大附属に、春は立命館守山に、いずれも終盤に決勝点を奪われ敗退。チームの成績は捕手の評価に直結する。「経験が少ない。リードでき

「滋賀の星」吉田輝星の右肩に、期待という名の重石を乗せてー

北海道日本ハムファイターズは、滋賀に住む私にとって最も縁遠い球団かもしれない。そもそも距離が遠い。1軍も2軍も阪神とリーグが違う。新庄剛志や坪井智哉も引退したし、モノマネ芸人の今成亮太には生え抜き感しかない。去年は交流戦もなかったので、谷川昌希のトレードを聞いて順位表を見直したぐらいだ。 それでも私には、密かに個人成績をチェックする選手が1人いる。「滋賀の星」こと、吉田輝星である。 一般的に吉田は「秋田の星」と呼ばれている。2018年の夏、金足農業高校のエースとして秋田大

先輩バッテリーの激励が照らす道~長谷川勝紀(近江高校~オセアン滋賀ブラックス)後編

「いや、全く関係ないです」。主将の長谷川勝紀(近江)、エースの荒川翔太(智辯学園)、レフトの國領浩哉(中京学院大中京)、センターの鈴村亜久里(日本航空)。今季のオセアン滋賀ブラックスには、中学軟式チーム・滋賀ユナイテッドJBoy's(当時)の同期メンバーがそれぞれの高校野球生活を経て一気に再結集した。

¥300

番組台本「失意からの躍進~近江高校 準優勝への軌跡~」

場内アナウンス「準優勝校、近江高校!」 第94回選抜高等学校野球大会。近江高校は滋賀のチームとして初めて、決勝の舞台まで駆け上がりました。 市民「すごいです!感動しました」 しかし、滋賀県中が沸いた大会からさかのぼること2カ月。1月28日。校長室の電話が鳴らなかった近江高校には、厳しい現実が突きつけられていました。 岩谷校長「本校は選考されませんでした。本当に残念です」 秋の近畿大会ベスト8のうち、センバツに選ばれなかったのは近江だけ。 多賀監督「決定を聞くまで(選出を)

【アミンチュな日々】いざ、センバツ!

塚本京平です。 3月18日に開幕するセンバツ高校野球に、滋賀県からは近江高校が出場します。びわ湖放送では15日の夕方5時15分から、特別番組「All For No.1」を放送する予定です。 2年前は全国準優勝。今年のサッカー部の躍進も重なり期待値はどうしても上がっていきますが、まずは選手たちに悔いなく戦ってきてほしい、甲子園を楽しんでほしいと思います。 さて、特別番組取材の中では2年前に大活躍した「あの選手」から現役選手へオンラインインタビューを実施しました。現役選手への熱

【アーカイブ2020】エラーを受け止めるという選択肢~土田龍空(近江高校~中日ドラゴンズ)

『1番印象に残っている場面はー』。この質問、記者の想像と選手の答えはほとんど一致しない。だいたい記者は活躍シーンを想像し、選手は成長のきっかけになったシーンを答える。結果と過程。重視するポイントにズレがある。 つい最近、この質問に出くわした。聞かれた選手は近江の主将・土田龍空。想像して聞いていると、答えが土田とピタリと合った。ただ、このやり取りを掲載したメディアはほとんどない。土田の答えは『去年夏の甲子園、東海大相模戦のエラー』。確かに載せづらい。 高校野球でエラーを扱う

【アーカイブ2020】吹奏楽のないスタンド~滋賀大会・夏跡の便り②近江

「目立ってナンボ」に「お客さん第一主義」。芸能界の鉄則のような、近江高校吹奏楽部・樋口心教諭の言葉。2018年のセンバツから野球の応援曲をオール洋楽にリニューアルしたのは野球ファンには有名だが、オリジナリティもルールもない「典型的な応援」を変えた背景には、海外公演にも取り組む革命的な部の方針があった。 今年の高校野球ではスタンドの応援を聞くことができない。打球音や捕球音も確かに重要だが、アマチュア取材が中心の立場からするとスタンド応援がないのは寂しい。吹奏楽もマーチングも大