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全員選抜と彼女たちの決意表明——櫻坂46 4thシングルC/W『僕のジレンマ』

私が住む町から車で2時間ほど、桜のトンネルの山道を抜けた先にひっそり佇む古寺に、樹齢100年を超えるしだれ桜がある。小ぢんまりとした境内に降り注ぐようにしなだれる枝々に咲く花を見て、私が思うのは「来年もまた見れるだろうか?」だった。

頬を掠めて吹き抜けていく 温度のある風が
世界をもう一周回り ここに戻ってくるまで
僕の決心は揺るがずに いられるのだろうか

僕のジレンマ

「温度のある風」とは春一番だろうか。
渡邉・原田の最後の参加曲として「旅立ち・別れ」の曲であり、発表時期や表題曲『五月雨よ』の季節感もあいまって、「春」「桜」のイメージが漂う。
これまでの楽曲で桜のイメージがある曲といえば、歌詞に「桜」が出てくる『二人セゾン』、まさに卒業ソングの『制服と太陽』あたり。

『二人セゾン』には、対照的な歌詞がある。

生きるとは変わること

二人セゾン

生きるということは ジタバタともがくこと

僕のジレンマ

『僕のジレンマ』は『二人セゾン』のアンサーソング。
『二人セゾン』で歌われていたのは「過ぎた日はもう戻ってこない、その一瞬一瞬の永遠性にすべてをかけたあの頃はもうない(だからこそ美しく儚い)」といった感情だった。
『僕のジレンマ』で大人になった「僕=彼女たち」が選択したのは、永遠回帰のごとく何度も反復される「生」をジタバタもがきながら生きること。周囲からは中途半端に見えたり、八方塞がりに見えたりしてるかもしれない。歌詞も、選択できず立ちすくむダメ男の曲だけど、「温度のある風」を感じる季節が来るたび、自分の決心の確認と選択をせまられる。
「花のない桜を見上げて」想像しなくても、否応なしに「温度のある風」が回帰してくる。いつの日か、みたいな猶予を与えてくれない。自分には(アイドルとしての)時間があまり残されてないことを自覚し表明しているメンバーもいる。この楽曲は、フォーメーション的には渡邉・原田を送り出す形になってはいるものの、実際には送り出した側への問いかけになっている。

この場所で、彼女たちはもがき続ける。そして、次の春も、その次の春も花を咲かせる——。これが、櫻坂46の選んだ道なのだろうか。カップリングだけど、4thにしてようやく、自分たちが「櫻坂」であることの決意表明、だからこその全員選抜なのだ、と。

渡邉・原田卒業後、この曲の扱いはどうなるんだろうと思うけど、『東京タワーはどこから見える』のように、全員に見せ場をつくるフォーメーションになると、全員選抜の意味も出てくると思う。


渡邉センターということで、当て書きって感じはあんまりしない……気がするが、

未来に続くのはここにない足跡さ

ここにない足跡

いくつもの足跡をつけて いつの日にか自分の道を見つける

僕のジレンマ

ここの対比は、欅〜櫻をたどった足跡を想起させる。


あと、「今すぐ行かなきゃいけない わかっているのに 足が動かないんだ」というところから、「そこさく」でやってた空中ブランコの唄か? という解釈も可能だ。

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