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Insight: (コラム)続→次世代尿検査

11月のInsight、前半は対Covid19の経口薬の状況を特集しました。欧州、米国を中心に着実に承認は進みつつありますが、その一方では更なる感染拡大が進んでいます。北半球では本格的な冬が迫っており、予断を許さない状況が続きます。

Covid19は常に意識しつつも、医療業界全体で考えると、他の疾病に対する対策も進化させることが必要です。11月後半のInsightでは、医療の未来に向けて少し前向きな話題を取り上げます。

今回は、以前も取り上げた「スマートトイレ」に関する新しい情報を取り上げます。スタートアップ大国イスラエルから、光センサーで尿検査を行うことができるトイレの開発が進められています。

尿検査の課題

センシング技術の発達により、血圧、酸素飽和度、そして血糖値など、重要なバイオマーカーは、ウェアラブルデバイスで継続的に測定することが可能になりました。一方、尿検査の課題は「尿を測定しないといけない」という点であり、非侵襲的に継続測定が困難である点にあります。

過去に取り上げたHealthy.ioのように、尿試験紙とスマートフォンで家庭での検査を普及させようとする試みはありますが、やはりその一手間(尿を採取する、自分で測定する、試験紙を廃棄・・・)は今後も普及の課題となるでしょう。

もしトイレに尿を排泄するだけで様々なバイオマーカーの情報を得ることができれば。そして、結果をスマートフォンで管理、解析できれば。そのような思いを抱く医師や企業は多く、実際に、尿量、pHや尿糖など、従来のセンシング技術を応用した、部分的な試みはこれまでもなされてきました。
 TOTO: https://jp.toto.com/products/public_flowsky/
 大和ハウス: http://www.aichidenki.jp/report/27/27_45.pdf

しかし、ただでさえ、食事や水分摂取量などの影響で変動の大きい尿成分を、一部のバイオマーカーを測定するだけでは、あまり臨床的に意味のある情報とはなりません。

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尿を光で分析する Olive Diagnostics社の挑戦

複数の尿中バイオマーカーをどうすれば同時に、簡便に測定できるか。その課題を独自の光分析技術で解決しようとしているのが、イスラエルのスタートアップOlive Diagnostics社です。

彼らが開発したのは、尿分析光学センサー「Olive KG」とその測定データをAIで解析する技術です。Olive KGは「どのようなトイレにも簡単に取り付けられる」としており、家庭はもちろん、会社のオフィスでの福利厚生、高齢者施設での健康管理などの活用も期待されます。実際に、Olive Diagnostics社は、最初は高齢者施設での試用を検討することを示唆しています。

対象の測定項目は未だ明確にはされていませんが、尿に含まれるデータの事例として、尿量に加え、生化学、ミネラル、ビタミン、pHなど、を挙げており、生化学やビタミンに言及している点が、これまでの単純なセンシング技術と一線を画す点です。臨床試験の報告書が提示されるまで確信は持てませんが、着実に資金調達が進められており、今後の成果の発表が期待されます。

医療機器業界にとっての脅威

個人情報の取り扱いに非常に注意を要する昨今、臨床施設での測定データは容易に入手可能なものではなくなりました。そこには医療機器、診断薬を用いて得られた重要な臨床的知見が多く含まれているのにも関わらず、お金と労力をかけて、厳密に倫理委員会を通し、関係者の合意を得たデータしか活用できないのです。

アルファベット(Google)やAppleが、匿名性が確保された(という前提ですが)大量のウェアラブルデバイスのデータをクラウド上に集めているように、もし家庭や高齢者施設から大量の尿検査データを得ることができれば。そこには、これまで見えてこなかった様々な臨床的な発見があるかもしれません。そのデータを握ることは、今後のヘルスケアビジネスにおいて、重要な意味を持ちます。そして、Olive Diagnostics社の試みは、主役の座を奪う道へつながっている可能性があります。

ここまで書いておきながら、筆者自身Olive KGの実力については懐疑的です。ただし、これからのヘルスケアビジネスに打って出るためのアプローチとしては決して間違っておらず、既存のビジネスを破壊する可能性のある存在として無視はできません。今後の同社の成果に注目するとともに、日本の医療機器業界の挑戦も期待しています。

出典:
PR News Link
Olive Diagnostics Link
Healthy. io Link

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