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【読書】~謎解きは面白いけど……。~孫沁文『厳冬之棺』(阿井幸作訳)

謎解き部分は面白かったが、物事の描き方から推察される作者の考えは自分と合わないと思った。ネタバレなしの感想を書く。

上海郊外の湖畔に建つ陸(ルー)家の館で、完全なる連続殺人が!?

『厳冬之棺』帯文より

本作では館で連続殺人、それも密室殺人が起こる。
作中で開示されてゆく手掛かりを集めながら読みすすめた。情報開示はフェアな方だと思う。
意気込んで挑んだけど、どの事件も真相にはたどり着けなかった。負けたぜ……。

面白かったところはミステリーに不可欠な要素である謎解きだ。

ミステリーを読むなら奇想天外なトリックに驚かされたい。でも、あまりにありえないトリックだと冷めてしまうから納得もしたい。
本作のトリックは、反する二つの欲求がバランスよく両立していたと思う。十分に驚かされたし、その筋道もきちんと示されて納得感もあった。
また、犯人を解明する推理も面白かった。
日常の何気ないシーンのうちに事件解明の手がかりになるシーンが何気なく紛れていて、最後はやられたー! と思った。
作者は日常生活で物事を注意深く観察しているんだなぁと思った。

謎解きが面白い一方で、物事の描き方には首をひねるところがあった。

言い換えると、作中で起こる出来事に対する作者なりの正義が見えてこなかった。
見えてこなかったということは、そもそも考えていないのではと思った。

今回の事件が起きた背景には、恐ろしく、かつ、ひどい風習が関係しているのだが、それに対する作者のアンサーが弱い。
いちおう応報があるから正義を示したとはいえ、分量も少ないしあまりにもあっさりしすぎだと感じた。
あれだけ凄惨な風習を描くなら、作者はその風習に対する立場を明確にして、なおかつ正義を示した方がいいと思った。
女性がひどい目に遭うことについての作者の応答もほぼないと言っていい。

また、男性のキャラ同士の距離が偶然近くなっていた場面を目撃した若い女性の反応が納得いかない。「…そういうことに反対の立場ではないですが、会社でなんて……」というセリフがある。反対の立場ってなんなんだ? 反対賛成の話ではないと思うのだが……。
そのセリフのあとに男性二人は、彼女を作れだのという会話でやりあって、そのシーンは終わるのだが、なんなんだこの古臭さは……。

それとは別にSMやオタクの話題が出てくるのですが、これについても作中のキャラがひどいことを言っていて、そこまで言うことないだろ!! と思わざるを得なかった。
人に迷惑かけないなら別によくない? なぜそこまで否定するのか……。

あと、もう検挙できない事件とはいえ刑事が犯罪の証拠を消したらだめだろ……。

正義を示してほしいというのは、私の個人的な思いにはなるんだろうけど、正直かなり気になった。

余談ですが、中国語のタイトルだと『凛冬之棺』らしいです。
凛冬といえばアークナイツのズィマーの中国語名ですが、日本語にすると厳冬になる(場合がある)んだなと思った。

面白い要素となんだかなあという要素が相殺した感じでした。

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