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アート好きが多い日本のアート市場が小さい理由

私が、アートとマーケティングを関連づけて考えるきっかけになった動画を最初に紹介しようと思います。それは、アーティストの村上隆さんと、実業家の堀江貴文さんの対談動画です。この動画で私は村上隆という人物の視点を知りました。

この記事は前回からの続きです。

忙しい人向けのまとめ

村上隆はアートを明らかにビジネスの視点から分析しマーケティングを行なっている。すでに実践した上で成功している先例があるので、アートにもマーケティングは通用する。
バブル時代に日本人は価値があろうとなかろうと、アート作品を大量に購入した。バブル崩壊後にアート資産をお金に変換しようとしたところ、価値がない作品を購入してしまっていたことを知る。資産を失った経験により、日本人はアート作品を所有する行為から距離をおくようになる。
日本のギャラリーも国内より海外の方がビジネスチャンスが多いことが分かっているので大手は海外進出している。海外コレクターは香港などで日本のトップレベルのアート作品が購入できるので、わざわざ日本で買う必要がない。

堀江貴文さんと村上隆さんの対談動画

この動画のなかで印象に残ったのが、

村上隆の作品は99%が海外のコレクターが所有している。
村上隆の死後は、彼の作品は海外に行かないと見ることができないだろう。
日本のマーケットは大した事ないので、アーティストはどんどんグローバルに進出している。

アーティストはブルーオーシャン。
日本国内で認められなさすぎるので、ちょっとの頑張りで目立つことができる。

この辺りです。

アートに投資してお金を失ったバブル時代

日本のアートマーケットはバブル崩壊とともに縮小していきました。私はバブル崩壊より数年早く生まれましたが、バブルもバブル崩壊ももちろん記憶にありません。今の学生の方々は、バブルという言葉は聞きつつも、それが何なのかいまいち知らないというケースもあるようで。軽く紹介します。

1980年代後半に日本の地価が異常に高くなりました。不動産や株に投資すれば一攫千金のチャンス。そんな異常な状態だったので、多くの人が投資に熱狂しました。どれだけ働いても残業代が出る時代だったので、エナジードリンクのCMには「24時間働けますか?」というキャッチコピーも現れました。タクシーを捕まえるのに1万円が必要。日本全体の地価の合計がアメリカ全体の地価の4倍に。

現在の感覚から考えると、明らかに狂っている。そんな時代が日本にあったわけです。当然、成金な人も一時的に増えたのでアートに投資し始める人もいました。この頃に高値で取引されて話題担ったのがゴッホの「ひまわり」です。

1987年3月3日、安田火災海上保険が58億円で落札しました。

バブル期の日本人は、何でも高値で買い取ってくれる最高のカモ状態だったので、いろんな物を高値で売りつけられていました。だから、大した価値がない作品でも、印象派の作品や、ポップアートなどが大量に日本に流入することになります。資産投資としてアートを買おうとしたのに、何の調査もせず買ったために実は価値がほとんどない。そんな作品が日本には溢れました。

バブルが崩壊して、不景気になるとアート作品を買った人たちはセカンダリーマーケットに出品してお金に変えようと試みます。セカンダリーマーケットとは、オークションのことです。中古扱いになった作品を売り買いする場です。それに対してギャラリーから新品の状態で買う場はプライマリーマーケットと呼ばれます。

高値で日本人に購入されたアート作品ですが、大して価値が無いものを高値で買っただけです。セカンダリーに出品しても評価されないので、誰も入札しない。落札されません。

そもそもは、調査しないで買った当人が悪いのですが、
この経験のせいで、
アートは購入しても再販ができない。
値段がつかない。
こういう認識が日本の富裕層の間で広がることになりました。

バブル期に買ったアート作品は、お金に困った時に売れなかった。
この経験のために、日本の富裕層はその後、アート作品の購入をためらうようになります。

売れないラッセン作品

日本の富裕層は価値のないアート作品を買って、損失を被ったために日本にはアートの買い手がいなくなってしまいました。次に目が向けられたのは、一般の人達です。

インテリアアートと呼ばれる作品を買う人達が急増します。インテリアアートはリトグラフやシルクスクリーンといった技法により、同じ作品を何個も作ることができます。

アートとして価値を持たせるには、
シルクスクリーンながら1点だけ作成する。
10点だけ、など作成する点数を絞る。
という様に、作品の数を制限することで価値を保とうとします。

日本で有名なクリスチャンラッセンの作品は、
何百点、作品によっては何千点と刷られ、大量生産されました。
大量生産により価値が下がった作品が、
対面営業によって何十万という金額で強引に売られる。

インテリアアートを購入した被害者が数多く生まれました。
資産価値がない作品なので、セカンダリーマーケットに出品しても買い手は現れません。価値がないことがアート業界のプロには広く知られているため、出品を断られることもあったはずです。

インテリアアートによって、一般の人々の間でも、
アートは資産価値を下げるもの。

と認識されるようになります。

このようにして、日本では、
富裕層も一般の人達もアートを所有することから距離を置くようになります。

これが、日本のアート市場が小さい原因と言えます。

美術館に行列を作る日本人

美術館が大混雑で繁盛している。有名作品を見るために何時間も行列を作って見れた時間はたったの10秒。
ニュースでこのように取り上げられることが多かったので、美術館の展示は混んでいる。というイメージが伝わる方は大勢いらっしゃると思います。

日本人には美術好き、アート好きな人が多いから、混雑するくらい人気なんだろう。そのように捉えることもできますが、大々的に広告が打たれる企画展はそもそも混雑させないと利益が生み出せない構造で設計されています。

メディアに取り上げられる企画展はそのほとんどが、新聞やテレビといった大手マスコミが主催しています。自社で企画した展示を自社メディアで盛んに宣伝する。

企画展のテーマを、海外の有名美術館、有名な作家の作品にする場合、
高額なレンタル料を払わないといけません。
アート作品の輸送も専用の梱包で専門の業者に依頼するので高額です。
保険にも加入する必要があります。

この段階で相当お金かけてるだろうな。と分かりますよね?
そうすると、絶対に失敗できないので広告費をかけて盛んに宣伝します。

しかし、入館料は1000円〜2000円程度。
音声解説を追加販売しても500円〜1000円程度。
大した金額は望めません。
単価が低いのならば、数で補わなければいけません。
だから、連日、人でギュウギュウになるくらい詰め込みます。
そのために大々的な宣伝をかけます。

それでも利益が出るところまでは届かないので、
グッズを販売して稼ぎます。

1つの都市だけで展示すると集客力が十分出ないため、
複数の都市で順番に展示をする。

ここまでやって、ようやく利益が出る。
美術館の行列は自然と生まれたわけではなく、
行列を作らないと企画が成り立たないようになっているわけです。

この話をインドの友人にしたところ、
日本人は行列を作る趣味でもあるのか?と笑いながら言っていました。

アートを所有する税金面のデメリット

アートは投資商材の側面もあるので、税金との関連性は非常に重要な要素です。

日本のアートコレクターは税金面で非常に冷遇されています。
アメリカのアートコレクターの場合、
美術館の自身のコレクションを寄付することがステータスになっています。
大きい作品の方が価値がつきやすいですし、美術館に展示してもらうにはそれなりに大きい方が空間に合うという側面もあります。

だから、アメリカでは大きい作品から順番に売れていく。
と言われます。

アートコレクターが作品を寄付するメリットとして、
税金対策の側面もあります。
寄贈するアート作品の金額だけ控除が受けられる。

アートを寄贈するという行為によって、
社会的信用を得ることができますし、その結果、税金面でも優遇される。

このような素地がある国のコレクターは、
アート作品を集めることにメリットがあります。

しかし、日本の場合はそうではありません。
日本の場合は控除される上限が低く設定されているので、
数千万といった価値があるアートを寄贈するメリットが享受できません。

高額なアート作品を寄贈する場合、または寄贈先によっては、逆に税金を納めなければいけないケースもあります。

税金面は詳しくないので文化庁から引用します。
美術品等に係る税制
1.所得税
(1)譲渡した場合:非課税または1/2課税
(2)寄付した場合:当該年度のみ上限付きで控除。ただし、高額なアート作品の場合控除されない場合あり
2.法人税
時価相当額が損金として控除される
3.相続税
(1)譲渡した場合:国に寄付の場合は非課税
(2)物納の場合:金銭納付が困難で、税務署長の許可が出た場合に物納できる。ただし、適用された実例は1件。

文部科学省、文化庁もこの状況を把握しているので、
改善しようと動いてはいるみたいですが、現時点では実現していません。
現在の日本でアート作品を投資対象と見る場合、
メリットは無いといえます。

相続する場合は、手続きが難しすぎて悲惨な状況になるかもしれません。

ちなみにですが、博物館や美術館は文化庁の活動範疇に入ります。
文化庁は文部科学省の外局です。

世界のマーケットから孤立している日本のアートフェア

日本のギャラリーは国内マーケットが小さすぎるため、海外の顧客をターゲットにしています。国内はそもそも相手にしていないということです。そのため、日本で一番大きいアートフェアイベントである、アートフェア東京にそこまで注力していません。そもそも、アートフェア東京は海外から注目されていません。

150ほどのギャラリーが出展するアートフェア東京は一応、国際イベントと位置づけられています。しかし、実態はほぼ国内イベントです。出展しているギャラリーの85%は日本国内で活動しており、海外拠点を持っていません。残り15%の内の半分ほどは、日本と海外に拠点を持ちつつも、メインの拠点は日本。海外からわざわざアートフェア東京に出展するギャラリーは10にも届かないくらいでしょう。

海外から日本に出展してするギャラリーは本当に少ないのです。

なぜか。

日本で売るよりも他のアジア諸国で売る方がチャンスがあるから。

日本のマーケットは完全に出遅れています。香港、韓国、台湾、シンガポールなどのアジア諸国と比較してもアートマーケットの発展は遅れています。

このような状況ですと、
海外コレクターもわざわざ日本に来て作品を購入する必要がありません。

もっと大きいイベントが香港で行われますし、
日本のギャラリーは一番いい作品を海外のアートフェアに持ち込みます。

日本のアートフェアでは、英語や中国語でコミュニケーションを取ろうとすると間違いなく苦労するでしょう。香港で開催されるアートフェアならばそのような心配をする必要もありません。

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