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2020年のアートマーケットと2021年のアート活動戦略


2021年にアート市場でどんな活動をするか。その方針を探るために、年末年始はアートマーケットの記事やレポートを調べたり、本を読んだりして過ごしました。

非常に多くの情報に触れたため、どのように方針をまとめていくか悩みに悩んだのですが、ある程度まとまってきたので私自身の頭の整理もかねて、2021年のアート活動戦略を記していきます。

2020年のアートマーケットレポートの正式版はまだどこからも発表されていませんが、速報版であればいくつかのレポートが出ています。

世界のマーケット全体と合わせて紹介します。

忙しい人向けのまとめ

2020年の世界経済はGDP成長が-5%という予測値が立てられていた。
アートマーケットの成長は-66%くらいと見込まれている。
アートフェアの売り上げは激減したが、ギャラリーの頑張りが目立った。
中国人コレクターの増加。
ミレニアル世代のコレクターが増加。
若い世代がアート作品を購入する動機は作品が好きかどうか。
第一印象は0.01秒で判別できるので、アート作品の画像撮影や演出がより重要に。
海外のアートプレイヤーはオンライン上でのアート体験の向上させるトレンドにある。
海外のトレンドを日本にいち早く持ち込めば、活躍できる確率が上がる。

2020年の世界経済の状況

世界銀行が2020年6月に発表した予測値をベースにしています。
全体の平均ではGDP成長-5.2%の見通し。Resessionの状況にあると明記されていますので、明確に2020年は不況だと結論づけられています。

先進国の方が経済へのダメージが大きく、
アメリカ、ヨーロッパ、日本の先進国に限った数値ではGDP成長-7.0%。

先進国以外に分類した場合、
GDP成長-2.5%。

中国単体の数値ではGDP成長+1.0%。
中国については私個人の体感ですが、知り合いの中国人は8月頃から仕事が一気に舞い込み、仕事が多すぎて断っていました。製造業に広く関わる仕事をしている人なので、中国の経済状況が他国と比べて好調な状況にあるのは間違いなさそうです。

オークションハウスへのインタビュー記事でも中国人のコレクター比率が増えたと回答しているので、アートコレクターという視点で分析しても中国は他国より経済的にはマシな状態にあると言えます。

アート市場の傾向は世界の経済と相関するので、2020年のアート市場は間違いなく縮小しました。どのくらいの程度で縮小したのかを見ていきます。

2020年のアートマーケット

The Anvil Newsがまとめたアートマーケットの速報では、
2020年のアート市場は2019年比で3分の1にまで縮小したと紹介しています。

GDP成長-5%に対して、アート市場成長-66%であれば、比にならないくらい影響を受けています。ここで一点大事なことに触れておきます。

3分の1に縮小したというのはあくまでも取引額です。
アート作品自体の価値が下がっている分けではありません。
アート作品の価格は経済の影響を受けにくいのですが、取引量が減った。

そのために2020年はアート市場が縮小しているという特徴があることです。
経済が回復基調になったタイミングでは、アート作品の取扱量も一気に回復するという特徴があります。

作家によるアート制作は進んでいます。
作品は作られながらも、市場に登場していないだけなので、
経済や人の移動が回復するタイミングで相当数のアート作品が市場に流れ込むことになりそうです。ギャラリーもこの動向を予測しているので、出来がいい作品のストックを増やしているとインタビューで回答している記事が複数ありました。

アートフェアが最もダメージを受けた

アートフェアは国際イベントなので、開催する国だけでなく国外からも人を招待して成り立つアートのお祭りです。人を集めなければ成立しないイベントのため、大多数のアートフェアが開催できませんでした。

アートバーゼルマイアミビーチのアートフェアではオンラインの活用を試みていましたが、売り上げを回復するほどには至らなかった様子です。

アートドバイ、アートバーゼル香港、アートフェア東京は、
現時点では2021年春の開催を諦めていないので、
これらのイベントが開催できるかが、2021年のアート市場に大きく影響を及ぼしそうです。

美術館もアートフェアと同様に苦戦しているところが多いです。

オークションハウスも苦戦

2020年12月下旬に大手のオークションハウスの売り上げ予測値が公開されました。
サザビーズが12%下落の50億ドル
クリスティーズが22%減の45億ドル
フィリップスが11%減の6億4600万ドル

アートフェアほどではありませんが、セカンダリーマーケットのオークションハウスもダメージを受けています。

中国人コレクターの台頭

2020年は、アジアのコレクターがオークションハウスで数多くの作品を落札しました。
クリスティーズでは歴史上はじめて、アジア人コレクターが、米国のコレクターを上回りました。
サザビーでは、オークションの売上高の3分の1以上をアジア人が占める。落札金額トップ20の内、9点はアジア人による落札です。

フィリップスが2020年12月に香港開催したオークションでは、奈良美智の「Hothouse Doll」が1330万ドルが落札されたのも含めて、落札金額トップ10内の5点がアジア人による購入でした。

精力的なアジアのコレクターは、
Eddie Martinez
Nicolas Party
Dana Schutz
Titus Kaphar
Amoako Boafo
といった、世界が注目している新星アーティストの作品に熱狂している様子です。

オークションハウスはインタビュー記事でアジア人と回答していますが、記事をよくよくみるとそのほとんどが中国人と伺えます。

ミレニアル世代の特徴的な購買行動

ミレニアル世代とは、1981年~1995年生まれの人を指します。
私もミレニアル世代です。ミレニアル世代のど真ん中の年に生まれました。

サザビーズのファインアート部門の会長であるAmy Cappellazzo氏によると、40歳以下のコレクターの数は昨年の2倍になったと述べています。
その多くはテクノロジー業界に身を置いています。
ミレニアル世代の購買行動の特徴は、
アプリでオークションに入札すること。
もっと上の年代のオークション参加者は電話での参加を好んでいます。

また、作品の状態を説明したコンディションレポートを見ません。
自分がその作品を好きと思うか。
感性で作品の購入を判断しています。

人の脳は画像の認識に0.01秒しか要しません。アート作品実物でなく、アート作品の画像が最初のタッチポイントになるので、画像撮影や演出によって好きか嫌いかの判断が変わります。

一目見た時に印象に残るか。
印象に残るかどうかで、アート作品が売れるか売れないかの差は、
これまでよりも明確になってくると考えています。

海外のアートマーケットの情報に触れること

私は普段、海外の情報を英語記事から入手しています。ネット上に存在する英語の情報量は日本語の10倍もあるからです。新しい情報が英語で出てくる確率は、日本語の10倍もあるということです。

英語が読めない方でもDeepLという無料サービスを使えば日本語に機械翻訳した文章が読めます。
ArtsyやArt Baselあたりから読み始めるのがいいんじゃないかと思います。

最近、Drue Kataoka(ドゥルー片岡、ドルー片岡)という日系アメリカ人のアーティストを知ったのですが、活動内容がシンプルな英語で簡潔にまとめられているので、見てみるとアートと英語の勉強にもなります。

元々は理系の方で、VRをアート作品に用いたり、Electrochromicという技術を使ってガラスのアート作品を作られたりしています。
TED Talkでの講演、ダボス会議に招待されての講演など、かなりすごい活動をされています。

どこかのタイミングでSTEAM教育、STEAM+D教育、
という教育分野で科学とアートの掛け合わせが注目されていることを紹介しようと思っているのですが、Drue Kataokaさんはその活動もされています。

2020年に海外アートプレイヤーが実践した戦略

海外のギャラリー、オークションハウス、アートフェア、作家。
これらのプレイヤーが実践した活動の中で効果があると紹介されているもの。
これらの活動を日本のアートシーンで2021年中に実行すれば、間違いなく日本では最先端の活動になります。アートに限らず、海外で話題になっているビジネスが日本で本流となるまでには3~5年の遅延があります。

日本では最近、サブスクリプションビジネスモデルがブームになりつつありますが、アメリカではサブスク企業は一旦、成長しきったと言われています。Netflix、Adobeがその代表例です。
アメリカでサブスクビジネスの波が起こったのは8年前です。

では、2020年にアート業界ではどのような活動がされたかというと、
オンラインへの注力が主なトピックになります。

オンラインを使って実現したいことは、
ネット上でアート作品の実態を感じられるようにすること。

そのための具体的な手法を5つに分類してみました。

1.高画質なアート作品の画像を使って細部まで見れるようにする
一眼レフで高画質な画像で撮影する。
高画質な画像を作品紹介としてネット上で公開する。

2.動画で多彩なアングルからアート作品を見れるようにする
制作風景や展示風景を動画で撮影。
動画を編集した上でネット上で公開する。

3.VR空間でバーチャル展示を行う
仮想空間をパソコン上で設計し、展示室をCGで作り込む。
展示室の壁に作品の画像を配置し、VR空間での視聴体験を提供する。
VR用のCGはネット上で公開する。

4.実際の展示をVRで見れるようにする
ギャラリーやレンタルオフィスで作品を展示し、360度カメラで撮影。
展示風景をVR化しネット上で公開する。
個人でやりきる場合はRicoh製のthetaで撮影。
業者に依頼する場合はMatterportのサービスを利用。

5.アート作品を家に飾る様子を再現する
オンライン上ではアート作品のサイズ感が伝わりづらいので、家に配置した場合にどのくらいのサイズ感になるかをCGまたはARで再現する。
クリスティーズはこのアプリを公開しているのでクリスティーズで落札したい商品がある方には有効かもしれませんが高額です。
家庭向けの場合はARTSEEという有料アプリ(540円)のサービスが最近始まりました。

2021年のアート活動戦略

これらの活動を振り返った上で、今年、私が取る戦略を紹介します。

先ほど紹介した、1,2,3を軸にしていきます。

1.高画質なアート作品の画像を使って細部まで見れるようにする
現在、自宅で以下の機材をつかって油絵の撮影しています。

カメラ:Canon EOS Kiss X9
三脚:マンフロット 190go!
カメラ雲台:マンフロット MHXPRO-3WG
画像編集:Adobe PhotoshopまたはProcreate

プロのクオリティを出すのは無理ですが、
実用上は十分な撮影ができています。

現状は自然光で撮影していますが、
写真のクオリティを安定させるために、
照明機材を追加します。

自然光の状態によらない、
安定した環境で撮影ができるようになるので、
写真を使用する範囲を広げていきます。

Instagramへの投稿
Twitterへの投稿
ポートフォーリオの画像に使用
ホームページの画像に使用
VR展示に使用
画集に使用

2.動画で多彩なアングルからアート作品を見れるようにする
現在、動画撮影は以下の機材で行っています。

カメラ:DJI Osmo Pocket
三脚:マンフロット 190go!(画像撮影と同じ)
カメラ雲台:マンフロット MHXPRO-3WG(画像撮影と同じ)
動画編集:Adobe Premiere Pro

昨年は一年間で70本の動画を撮影しました。動画はすべて油絵の制作風景を撮影したものです。ギャラリーや、ホームページ上で、キャンバスの組み立てから、下地の塗布、制作までの流れを紹介する予定です。

3.VR空間でバーチャル展示を行う
今年一番、注力するのはVR空間でのバーチャル展示です。

Unityというゲームエンジンを使用して3D空間を設計しています。
一眼レフで撮影した画像データをUnityに組み込めるので、キャンバスとして実態を表現し、仮想空間内でバーチャル展示ができるようにする予定です。

バーチャル展示はWebGLという形式で出力すれば、ウェブ上で実行できるので、今持っているWordPress制のホームページでも動かせるんじゃないかと思っています。

スマホでWebから体験することを想定していますが、
組み込みが難しい場合は一旦、アプリの形態で公開しようと思っています。

3D空間を一度作ってしまえば、他の作家の展示にも使用できるので、現在、ホームページ制作を請け負っている作家さんの作品から展開していく予定です。

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