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1点10万円の絵画を売って600万円の売り上げが出る場合を考える

先日に公開した記事で日本のアート市場で売れやすい絵のサイズと値段について紹介しました。

売れやすい絵のサイズは4号〜50号、売れやすい値段は10万円前後、実際にオークションで取引された金額の中央値は126,000円でした。

今回は実際にアート作家として絵画作品を売って生計を立てる場合、どのくらいの出費があって、どのくらい手元に残るのかを考えていきます。

10万円の作品を売って600万円の売り上げが出る場合を考える

アート作品を1点10万円で売るとした場合、600万円の売り上げを出すには60点売る必要があります。

年間で60点売るというのはペースが分かりづらいと思うので1ヶ月あたりにしてみると、1ヶ月の間に作品を5点売る必要があります。1週間に1点売ったとしてもペースとしては間に合いません。

アート作品を一年間に60点売るということは、最低でも60点は制作する必要があります。まだ、売れていない状況の作家だと作った作品が全部売れるというのは考えづらのです。仮に制作した半分の作品が売れると考えます。

実際は作品の半分が売れるというのは、比率が高い状況にあると感じています。先日、作家としての活動歴が10年強の方の展示を見にいってきました。まだ展示して数日目という状況でしたが、その時に売れていた作品数は14点中、2点でした。

制作した作品を売り切るという段階まで持っていくには、売れていないという状況をどうにかして打開する必要があります。強い運を持っていたり、営業能力が高かったり、マーケティング能力が高ければこの段階を素早く切り抜けることができるかもしれません。

しかしながら、大半の人はそこを打開するのに苦労します。楽観的な
シナリオで考えた場合に制作した半分が売れるとする。この場合、60点を年間で売るには120点も作る必要があります。3日に1作品仕上げるペースです。

小山登美夫が書いた「その絵、いくら?」という本では、アート作家が一年間に大体何点ほどの作品を作っているのかが紹介されています。この書籍で紹介されていた制作ペースは一年あたり50点程です。

次に進む前に、ここまでの状況を整理します。
1点10万円の作品を売って600万円の売り上げを出す。1年間に60点の作品を売るペース、月あたり5点。全部売り切るのは難しいので半分が売れるとする。年間に必要な制作数は120点、3日に1点仕上げるペース。

この制作ペースと販売ペースが実現できそうだ。という人は何人くらいいるでしょうか?結構難しそうに感じるんじゃないでしょうか。私は正直、このシナリオを達成するのは無理そうだなと直感で思います。

ですが、特に落ち込んだり暗くなったりする必要はありません。あくまでもどのくらい売れば、どのくらいの利益が出るのかというのを考えるための材料です。

売るペースと制作するペースについては一旦は考えたので次はどこで売るかを考えます。

ギャラリーで絵画を売る

作品をどこで売るのか。そう考えた時に一番最初に思いつきやすいのはギャラリーです。個展を開催して作品を販売する、というケースが一番多いのではないでしょうか。

個人の作家が、展示の企画を立てて、集客をして、営業をかけて、販売して、売れた作品を発送して。これを全部やるのは現実的ではないのでギャラリーと協力することになります。

ギャラリーと売上額を折半する方法、お金を払ってギャラリーという場所を借りる方法がありますが今回は前者を考えます。

ギャラリーは展示している作品または取扱作家の作品を顧客に売ることで収益を上げています。大半のアート作家が作品を売り切るだけの集客力を持っていることは稀ですので、ギャラリーの営業力に頼って呼べるお客さんの数を増やさなければ作品は売れません。

アート作品が売れても半分はギャラリーの手元に

営業成果としてアート作家は作品の売り上げの半分をギャラリーに支払うというのが一般的な取り分です。1点10万円の作品が60点売れた場合は、作家側の売り上げが300万円、ギャラリー側の売上が300万円になります。

売り上げの半分を渡すだけの働きをしてくれるギャラリーなのか。長く付き合いを続けていきたいギャラリーなのか。その辺りをよく見極める必要があります。複数のギャラリーで展示をすると、実は作品を購入しているのはその作家のファンで、ギャラリーの固定客ではない。という事に気づくケースもあります。

先日、Twitterで有料部屋の機能、Ticketed Spacesの実装がニュース記事になっていますが、金額の取り分は、
Creator:56%
Apple/Google:30%
Twitter:14%
となっています。

アート作家が売り上げの50%を支払うだけの仕事をギャラリーはしてくれているのか。一度考えてみる材料になるかもしれません。

送料と画材は意外とコストがかかる

制作には画材が必要なので、どこかから購入してくる必要があります。個人の趣味レベルで作る分には大した量にはなりませんが、アート作家として事業にする場合にはそれなりの量を消費するので意外と出費があります。

制作した作品全てが売れるわけでもないので、売れなかった作品の画材はまるまる作家の持ち出しになります。

また、送料も結構かかります。ギャラリーで展示した作品が売れた場合、送料はギャラリーが持つのか、作家が持つのか、購入者が持つのか。今回、考えるケースでは作家負担として検討してみます。

売れなかった作品があることも考えて、画材費用は売れた作品1点あたり5,000円。箱代と送料を合わせて5,000円。計10,000円の出費と考えます。

作品が1点10万円で売れていますが、ギャラリーの取り分が50,000円でした。画材費用と送料が作家負担として考えると、
50,000(作家取り分)ー5,000(画材費用)ー5,000(送料)=40,000

作品1点あたり、50,000円から経費を引いて40,000円が作家の手元に今あります。60点売れた場合で考えると2,400,000円です。ですが,出ていくお金はこれだけではありません。次は社会保険の費用を見ていきます。

社会保険の費用は思っているよりも高い

アート作家として生計を立てていく場合,多くの人は個人事業主として活動するケースが多いと思います。社会保険の費用というのは結構かかります。

ですが,税関係は正直詳しくないので,どのくらい支払う事になるのか書籍から引用します。

収入が300万円の場合の社会保険費用の例として月の負担金額は4万円と紹介されています。年額にすると48万円です。

実際に手元に残るお金は少ない、ただし自由に使える金額ではない

600万円の売り上げからギャラリーへの支払い,経費を引いて2,400,000円が残っている計算です。ここからさらに480,000円が引かれますので手元には1,920,000円残っていることになります。

では,この192万円が自由に使えるお金なのかというとそうではありません。所得税はまだこの計算に含まれていませんし,住民税もあります。家賃の支払いもありますし,水道光熱費の支払いもあります。

お金の計算はしていて楽しいものではありませんが,アート作家としての生存確率を上げるためには必要な事です。

前回のこちらの記事では、やめてしまう理由のほとんどが金銭の問題とメンタルの問題であることを紹介しました。

アートの制作活動を続けるモチベーションというのは外部からもたらされるものではなく,作家の内部からもたらされるものです。この内発的動機というのはモチベーションを維持する一番強い原動力でもあります。

しかし,お金やメンタル面の問題によって自分自身のためにしていた制作活動を稼ぐ手段に変えた瞬間にモチベーションは消えてなくなります。そのような目に遭う確率を下げるためにアート業界の研究やマーケティング手法について個人で研究しています。

次回は90歳まで作品が売れなかったキューバ出身のアート作家について紹介しようと思います。

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