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日本にいるアート作家の人数を調べてみる

美大の卒業生は毎年2万人いると言われています。各美大の卒業生は大学毎に発表されているので、全部足し合わせれば正確な数字を把握することができます。ですが、国内の美術大学の数を正確に把握することですら結構な手間がかかるので文献から数値を参照します。

アート業界にいる方が書籍で卒業生の人数を紹介しているので、そちらから数字を拝借しました。MISA SHIN Galleryを運営している辛 美沙さんが出版しているアートインダストリーが引用元です。

アート業界に身を置こうと考えているならこの書籍は読んでおいた方がいいです。アート業界の生態系を網羅的に解説していますし、ギャラリーが目にとめやすいポートフォリオの作り方、経歴書の作り方、展示販売の契約書の作り方、アート作品の値段の付け方。

このあたりで少しでも分からないところがあったら読んでみてください。見本までついているのでかなり参考になります。

アート関連の本を相当な冊数読みましたが、なぜか電子書籍が少ない傾向にあります。本1冊のために1,760円の出費をしたくない人はメルカリで購入するのもありです。数百円くらいは節約することができます。

但し、本に汚れがあったり、曲がっていたり、書き込みされていたりすることがあるので、気になる人は避けた方がいいです。

アート作家の人数を予測する

美大の卒業生が、仮に全員アート作家を名乗った場合にはどのくらいの人数になるのか。

ストレートで美大に入学し、ストレートで卒業すれば22歳です。65歳までアート作家を続けるとした場合、43年間アート作家として活動できることになります。

20,000人×43年=86万人

上の世代であればあるほど大学の卒業率は低いですし、美大の卒業生が全員アート作家になる訳でもありません。卒業生がずっとアート作家を続けるわけでもありません。

では、仮に卒業生の15%がアート作家になるとした場合。
860,000人×15%=12万9千人

12万9千人のアート作家。日本にいるアート作家の人数はこれよりも多いのでしょうか。少ないのでしょうか。

正確な人数を把握することは難しいですが、統計データを用いることである程度は把握することができます。そこで使用するのが国勢調査です。総務省が集計して結果を公表しています。5年に1回の頻度で調査しています。

前回の国勢調査は令和2年に実施されました実はその集計結果はまだ公表されていません。来月の2021年6月に最新のデータが公表される予定です。皆さんは回答したでしょうか。こまごまとした質問に回答しないといけないのでめんどくささを感じますが意外な所で役立ったりします。

あなたの職業はなんですか?
という質問に対して画家という回答が用意されていますので、次回4年後もアート作家を続けられていたらその時は画家と回答しましょう。

アート関連の仕事をしていると回答した人は約30万人

アート関連の仕事をしていると回答した人数は29万5600人でした。これはいろんな業態を含んでいます。彫刻家、画家、工芸美術家、デザイナー、カメラマン、映像撮影者。

これを全部含めて約30万人です。多いと感じるでしょうか。少ないと感じるでしょうか。次に、実際にアート作家と回答した人数を確認していきます。

アート作家は彫刻家、画家、工芸美術家が対象として集計されています。

写真家、映像作家の人口

日本国内にいる写真家、映像作家は63,950人です。この業態は全世代に一定の人数がいるのが特徴です。

写真家の人口

デザイナーの人口

日本国内にいるデザイナーは193,830人です。アート関連で働いている人の大多数がデザイナーです。デザイン業務は応用芸術と呼ばれることもあります。35歳~39歳の人が最も多く、それより上の年代ではだんだんと人数が減っていきます。

デザイナーの人口

デザイン業界は安月給で激務と言われています。キャリアアップが見込めないためにデザイナーを途中で辞める人が多いのでしょうか。通常であればデザイナーが行う仕事が、日本の場合は広告代理店に奪われているために給料が低いという実態があります。

日本出身、ニューヨークで活動しているアートディレクターが書いた書籍にこのことが紹介されています。

アート作家の人口

日本国内にいるアート作家の人数は37,820人です。ここからは何歳の人が何人くらいいるのかでグラフを作りましたのでそれぞれ見ていきます。彫刻家、画家、工芸美術家が最も多いのは30~34歳の範囲の人です。この年齢バンドに4,980人います。我が家もこのバンドに入っています。

美大卒業直後の25歳~29歳が感覚的には一番多いように思うのですが、国勢調査の結果ではそのようになっていません。むしろ、もう少し上の年代と比べても少ないです。

国勢調査の結果は、あくまで「あなたの職業はなんですか?」という質問に対してアート作家ですと回答した人数です。これは完全に推測ですが、アルバイトで生計を立てているので作家として回答していない人数もいるのではないかと思っています。

もし、一度もアート作家ですと名乗ることなく引退する人が数多くいるとしたら悲しいことです。あくまでも私の推測なので妄想です。

画家の人口

日本のアート業界には波が来つつある

アート業界の書籍を調べるたびに日本のアート市場は小さすぎるという嘆きを目にしてきました。私自身もアート市場の規模についてnoteにまとめたことがあります。日本で高額のアートを購入することは税金でもメリットが少なく富裕層の動機付けとしては弱いです。

しかし、最近は国がアートを盛り上げようとしており、保税地域を設けて国内外にアート作品を流通させるのを促進しようとしています。国をまたいでアート作品を移動させる場合には一度税金を納める必要があるのですが、それを省略しようという動きです。

Art Fair Tokyo2020の販売金額が過去最高だったことが最近ニュースになりました。Art Fair Tokyo2021はもっと好調な販売成績を収めることになるかもしれません。

現代アートの中心地はニューヨークですが、これはアメリカが国の方針としてアートを盛り上げ、世界への発信力を高めようと国策で動いたことが大きいです。その土台はJ.F.ケネディ大統領の時代に行われた調査です。1960年頃が境目です。

そのためニューヨークのアートは1960年以降の動きが注目されていますし、現在のアート業界に大きく影響を及ぼしています。オークションハウスのクリスティーズが現代アートと定義しているのは1960年台以降の作品です。

アメリカという国がアートを盛り上げる方針を出し、アート業界と協力した。現在、日本にも同じような動きが起こりつつあります。将来的に日本の発信力が下がることを懸念している。海外の富裕層マネーを取り込むためにアートを盛り上げたい。香港がアジアの保税地域として最大規模を誇っているが中国情勢の問題から香港離れが進んでいる。

このような複数の状況が相まって日本のアート業界を盛り上げようとしています。チャンスが降ってくるかはわかりませんが、試してみる価値はあるかもしれません。




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