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日本のアート市場についてマーケティング目線で考えてみる

私は趣味でマーケティングの勉強をしているのですが、アートの分野にもマーケティング技法が使えるのではないかと考えています。

マーケティングとは「売れるものを売れるようにする」という考え方です。

忙しい人向けのまとめ

世界のアート市場規模は6兆4100億円。
GDPが大きい国ほどアート市場も大きいと言われている。
それなのに日本のアート市場は小さい。
日本のアート市場は2590億円くらい。
アート市場の分析で権威のあるArt Baselはレポートに日本を入れていない。無視されるくらいの規模感。
日本は世界で3番目に富豪(資産1億円以上)が多い。
国の経済規模も大きいし、富豪も多くいるのに日本のアート市場が小さいのには何か理由がありそうですね。と気づける。

自己紹介

私は電気電子を生業にしているので、出身大学も仕事もバリバリの理系です。アートの創作活動にはかなり縁遠い人間です。電気電子の修士号を取っているので半分冗談でエレクトロマスターと名乗ることができます。
大学時代に、日本人の画家で知っていたのは会田誠くらいです。知っていた理由も大学時代の友人が会田誠の作品好きで話を聞かされていたから。ちなみに、作品は一度も見たことがありませんでした。

この程度の知識しかないので、海外の画家でも知っていたのは、
ゴッホ、ミュシャ、クリスチャンラッセン、レオナルドダビンチ、ピカソ
もうちょっと知っているかもしれませんが大体この程度。

1~2年ほど前までは、
草間彌生、村上隆、奈良美智、
デュシャン、ウォーホル、ジャクソンポロック
このあたりのアート界だと大御所と言われる人物も知りませんでした。

こんな感じの理系の世界にどっぷり浸かっている私ですが、
油絵を描いている女性と結婚しました。
抽象画と呼ばれるジャンルの絵を描いている様です。
未だに絵の世界の詳しいことは分かりません。

妻の創作活動を通じて、
ギャラリー、コレクター、キュレーター、アーティスト、画家、ミュージシャン、美大生、美術教師などなどいろんな方に会う機会がありました。

会う人、会う人、皆さんから芸術が好きなんだろうな。と感じます。
技法であったり、色使いであったり、解釈だったり、展示レイアウトだったり。創作活動について意見を言い合ったり・出し合ったりして楽しんでいるように見えます。

その一方で、アート作品を売る、絵を売る。
創作活動でお金を得る。
アート作品の値決め。
こういったお金が絡む会話は嫌う傾向があると感じています。

これはおそらくですが、
美大などの機関での教育方針を色濃く受けたものだと考えています。

私は電気電子を生業にしていますので、
工業製品を売って、その対価として収入を得ます。

数百万円のコンピュータに、
数百万のソフトウェアを入れて、
数千万円で売るような仕事です。

アートも同様で、アートを生業にしている人は、
アートを売って、その対価で収入を得ます。

数千円のキャンバスに、
数千円の絵の具を使って、
数万円で売るような仕事です。

普通のことです。
原材料の金額から比べるとぼったくりの金額に見えるかもしれませんが、
そこには人件費がかかっています。

だから値段をつける必要があります。
これまで学んだ知識や技術を注ぎ込む。
それに見合った金額をつける。

あとは、その金額で買ってくれる人がそこにいるかどうか。
その金額で価値を感じる相手がいたら、その相手は買うのです。

このように、アーティスト、芸術家、作家として生きていくためには、
作品を売るという行為は必須です。
しかしながら、教育機関では卒業後にどうやって生計を立てていけばいいのかを教えてくれないようです。創作方法は教えているのに。
むしろ、作品から収入を得ることが悪だと教えられる場合もある様で。

そのような結果、
アート作品を売って儲けるのは醜いことだ。
という認識が広まっているんじゃないかと感じています。

このような思考は、買い手を無視した失礼な考え方だと私は思います。
値段なりの価値を感じなければ買う人はいません。

最終的な購入の意思決定をするのは、
売り手である作者でなく、
買い手です。

アートにも市場があるので、普通にビジネスとして成り立っています。
だからアート作品を売ってお金を得る行為は全く醜いことではありません。
このビジネス視点をアートの世界にも持ち込めないか。

せっかくお金も時間もかけて美大を卒業したのに、アーティストとして活動できない。だから、アルバイトの傍ら制作活動を行う。

そのような苦しい状況から抜け出すのに、マーケティングが使えるんじゃないか。こんな思いから、記事を複数回に分けて書いていく予定です。

アートの市場は実経済のトレンドの鏡写し

アートの市場は実体経済の影響を直接受けやすいと言われています。

そのため、
景気が良い時にはアート市場は大きくなる=取引量が多い
景気が悪い時にはアート市場は小さくなる=取引量が少ない

というように、実態経済の傾向がアート市場と相関します。
これは、アート作品が株のように投資対象の特性を持つからです。

と、市場全体の話から入ってみましたが、
ギャラリーで自身の作品を売るアーティストには、このあたりの話は関係ありません。市場全体は大きい視点(マクロ的)に動きますが、作家個人の作品の販売は小さい視点(ミクロ的)です。

作家個人レベルで活動する場合、
個展を開いたとしても作品は30点程度。
単価も1万円~30万円くらい。

このくらいのレベルに収まるアート作品はアート市場全体には全く影響を及ぼしません。ですが、このくらいの作品が全部売れたら、作家は生活するのに困らないでしょう。
このくらいマクロとミクロの世界はかけ離れています。

自分が丹精込めて作った作品が個展で完売しても、
アート市場には関係がないほど影響が小さい。

こう考えるとアート市場の大きさにびっくりしませんか?

実際にアート市場がどのくらいの大きさなのか、
前提知識として習得するために見ていきましょう。

世界のアート市場規模は6兆4100億円

Art BaselのArt Market Report 2020から引用すると、

1:アメリカ、市場シェア44%
2:イギリス、市場シェア20%
3:中国、市場シェア18%
4:フランス、市場シェア7%
5:スイス、市場シェア2%
6:ドイツ、市場シェア2%

アートといったらフランスとイメージすると思いますが、
アートがよく取引されているのは上位から
アメリカ、イギリス、中国の順番です。

この3カ国だけで全体の8割のシェアを占めています。
フランスは4位につけていますが、シェアは7%しかありません。
日本はランキングに入ってこないくらい市場規模が小さいです。

日本を独自に分析した数値を信用すれば、5位に入る規模のようですが、
正確な位置づけはよく分かりません。

世界全体でのアート市場は64.1ビリオンドル。
1ビリオンは10億なので、641億ドル。

1ドルが100円とすると、
6兆4100億円くらいです。

その内の8割がアメリカ、イギリス、中国の3カ国で取引されているということになります。6兆円がどのくらいの規模が分かりにくいですが、日本のアパレル市場が6兆円くらいと言われています。
日本人全員で服に使うくらいの金額が世界のアート市場で使われている。

頑張ってたとえてみようとしましたけど、感覚つかむのが難しいですね。

アート市場分析の詳細が見たい方はArt Basel(アートバーゼル)とスイス最大の銀行UBSが毎年作成しているレポートがあるので、参照してみると勉強になります。中身は全部英語ですが、グラフ多めなので英語が読めなくても見やすい構成です。

リンク
Art Basel | UBS Market report 2020

日本のアート市場は2590億円くらい

日本のアート市場は残念ながら小さいです。
どのくらい小さいかというと、先ほどのArt Baselのレポートでは、日本の市場規模が小さすぎて記載されないくらいの大きさです。

統計から外しても問題ないレベルの市場ととらえられているのか、はたまた、日本の市場を分析するデータの信頼性が低いために除外しているのか。理由は明らかではないですが、世界全体でのアート市場を分析する場合、日本の数値は出てこないことが感覚的には多いです。

Art Basel以外にも市場分析している所があるので数値を引用します。

Statistaの2019年レポートによると、
日本のアート市場は3590億円
1ドル100円とすると、
35.9億ドル。

Art Stationの2018年レポートによると、
2460億円。
24.6億ドル。

アート東京の2019年レポートによると、
で2590億円。
25.9億ドル。
アート東京はアートフェア東京の主催団体です。

GDPの大きい国ほど、アート市場もでかいと通説では言われています。
3.8~5.8%程度のマーケットシェアしかない日本のアート市場は非常に小さいと言えます。

少し古いデータですが、Worldmetersに2017年の世界のGDPのランキングと世界全体に対する各国のGDP比率がまとめられています。

1:アメリカ、24.1%
2:中国、15.1%
3:日本、6.0%
4:ドイツ、4.5%
5:インド、3.3%
6:イギリス、3.2%

世界の富豪(資産100万ドル以上)の国別比率

日本でのアート市場が小さいのは、日本には富裕層が少ないんじゃないかと思い、その比率も調べてみました。結果としては、日本にいる富裕層の数は多い部類に入ります。世界中にいる富豪(資産100万ドル=1億円)の数を1としたときに、各国に何%の富豪が住んでいるか。

1:アメリカ、40%
2:中国、12%
3:日本、6%
4:イギリス、5%
5:ドイツ、5%
6:フランス、4%

こう見ると、GDPの順位に見合っただけの富豪が日本国内にいることが分かります。それなのに、日本のアート市場は海外の水準と比べると小さい。

何故、日本のアート市場は小さいのか

日本人はアートに興味が無くて、アート市場が小さいんじゃないか。
と考えることもできますが、人口当たりの美術関数は日本は多い模様。

日本人は世界一アートが好き。
と紹介されることもあります。

美術館に行列を作って、数多くの人でごった返す様子は、
海外の人からすると信じられない様です。
美術館に行列を作る程度には日本人はアートが好きです。

それにも関わらず、アートの市場規模は小さい。

日本全体では市場も大きく、アート好きな人も多いはずなのに、
アート市場は小さい。

このような歪な構造になっています。
このあたりの理由を村上隆さん、タグボート代表取締役の徳光さんが書籍で解説されています。

次回はこのあたりを紹介できればと思います。








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