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アート作家を50年間続けたあとに何が見えるか

毎年2万人が美術大学を卒業し、社会へと旅立っています。「アート作家です」と名乗って堂々と活動している人も少なからずいますが、大半はデザイン業界に居場所をみつけたり、アルバイトをしながら細々と制作活動を続けたり。

私の妻は正社員で社会人として働きながらアート作家として活動をしています。もうすぐ美大を卒業して10年ほどたちます。作家として自立できるほどには売れていませんが、個展を開くと毎回来ていただける方が結構な人数いる。

作家としてバリバリと活動していると言えるほどではないですが、継続して制作活動を続けられています。

展示をするたびに、
フルタイムで仕事をしながら制作活動しててすごい!
元気をもらいました!
私の周りにはダブルワークしている人いないんで尊敬します。

といった好意的な意見をもらえるようです。最近では、会社の同僚が個展に来るようになったり、会社の上司にInstagramのアカウントをフォローしてもらって陰ながら応援してもらえたり。社内でクリエイティブな案件が始まる時に声をかけられやすくなったり。

などなどプラスの効果が以前よりも大きくなってきているように感じます。
配偶者としての私からはそう見えているだけで、本人は全く別の感じ方をしているかもしれませんが。

学生時代、特に美大に通っていると教わることが少ないようなのですが、人と同じような経歴を持つことは、社会に出た時にはまったく役に立ちません。

美大を卒業後に一般の会社に就職し、アート作家としても活動をするという道を選ぶ人は比率としてはかなり少なくなります。学校の先生になる、デザインの道に進む、アルバイトをしながら制作を続ける。この選択肢を取る人が大半です。

正社員として働き、定まった額の収入を得ながらアート作品の制作も行う。金銭的には余裕がでやすいですが、時間のやりくりは少し大変になります。友人が大きな賞を入賞したり、メディアに取り上げられている時には嬉しい気持ちもある反面、焦りや悔しい気持ちも沸き起こります。

今のまま制作活動を続けても大丈夫なんだろうか。

毎年2万人も美大の卒業生がいるのに、その繋がりはあまり広範ではなく、模範にできる相手が存在しない。そういう状況で活動しているアート作家も多数いると思います。

美大を卒業してから10年ほどたつ。これまでは制作活動を続けることができた。これからも続けられるのだろうか。

こんな問いの答えを見つけるためにある展示に行ってきました。
森美術館で開催のアナザーエナジー展です。

アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人

この展示の際立った特徴は、参加しているアーティスト全員が70歳を超えており、50年以上のキャリアを持った女性アーティストであること。

アート作品が展示されているのはもちろんのこと、各アーティストのインタビュー動画がアート作品と一緒に見られる。インタビュー動画は、記者からの質問に対して1問1答形式で答えていく構成になっています。

どんな質問があったかというと、

あなたがアーティストになったきっかけは?
あなたの人生にとってアートとはどんな意味を持ちますか?
制作活動を続ける秘訣は?
若手のアート作家に何かアドバイスはありますか?
絵が売れることについてどう思いますか?

こんな感じです。

今が2021年なので、一番キャリアの短い方でも制作を開始したのは1970年あたり。この頃は現代よりも男社会の傾向が強く、展示ができるのは男性作家だけ、女性であるというだけで展示ができない。女性は家庭に入っておとなしくしておけばいい。

アメリカやヨーロッパでもこのような価値観が強い時代です。アート作家として売れる。という可能性は現代よりもさらに低かったはずです。

女性であるというだけでハンデがある時代から制作活動を続け、50年以上も制作し、活動が評価されるようになる。このような経験を重ねてきた人物たちが「アート作家として生きるとは」という切り口でインタビューに答えている。

それぞれが違った考えを持っているので、共感できる部分、共感できない部分があるはずですが、それでもアート作家として今後も生き残るためのヒントが何かしら見つかることでしょう。

私たちは4月24日(土)の緊急事態宣言直前に訪問することができましたが、それ以降は残念ながら展示が休止されています。森美術館は5月12日(水)から一部営業を再開していますが、アナザーエナジー展は休止のままです。

展示期間は9月26日まであるので、展示が再開したらもう一度、訪問する予定です。作品の良い、悪いを判断できるほどの知識は私にはありませんが、インタビュー動画がもう一度みたい。そのために再訪しようと考えている訳です。

Q:あなたの人生にとってアートが持つ意味は?
A:それに答えられるなら私は制作をしていない。

Q:制作活動を長く続ける秘訣は?
A:どこのギャラリーにも所属しないこと

Q:制作活動を長く続ける秘訣は?
A:自分が楽しいと思ったからやる、興味を持つこと

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ミリアム・カーン(Miriam Cahn)

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カルメン・ヘレラ(Carmen Herrera)

プロフィール写真では怖そうに見える人が、インタビュー動画ではとても優しそうな印象を受けたり、にこやかに受け答えしながら地中海ではたくさんの人が溺れている状況を説明していたり、楽しそうに制作活動について喋っていたり。売れるまでに100年近くも待つことになるなんて思わなかったと何事もなかったかのように答えたり。

このまま制作を続けていてもいいんだろうか。そんな不安を抱いた時に見てみると力が得られる展示でした。

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