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【怪奇ファイル003】迷宮入りと化した難事件を解決する天才少年の話

その日もスロニートの私はパチ屋の行列に並んでいました。先日仲良くなった棟梁と一緒です。棟梁とは大江山に住む鬼の棟梁の酒吞童子です。『え?』と思っても流してください。

この時期。一人の力で勝ち続けることが厳しくなってきたので、徒党に入れてもらうことにしました。私は酒吞童子一派のパチスロ部隊に配属されました。つまり就職です。私もついにサラリーマンです。

サラリーマンになって生活も変わりました。例えば。毎日開店待ちの時間に起きるのは骨が折れます。しかし今は棟梁が電話で起こしてくれるようになりました。これがチームワークです。私は会社に守られています。

棟梁は無職の私を拾ってくれました。人生の大恩人です。棟梁に一生ついて行こう。何があっても絶対裏切らない。この会社に骨を埋める覚悟です。


そんな充実した日々を送っていた私の平穏を脅かす事件が起こりました。パチ屋の開店待ちで棟梁と『今日何打つ?』みたいな話をしていたら。突然後ろから声がしました。

「皆さん落ち着いてください!」

すぐに振り返りました。すると。そこには天才少年がいました。小学校5年生ぐらいです。カツオくんやのび太くんぐらいです。シンジくんやアムロより下です。コナンくんよりは上です。

ちびまるこちゃんより上です。魔女の宅急便のキキより下です。ジョジョ1部のディオとエレナがズキューンのときよりちょい下です。クララが立った時よりちょい下です。

私は後ろにいた天才少年を見て驚愕しました。なぜなら『パチ屋は未成年の入店禁止』だから。この少年は今パチ屋の行列に並んでいますが。パチ屋に入ることが出来ません。

時計は午前9時でした。パチ屋は10時開店です。すぐに伝えたら一時間の無駄な行動を回避できます。子供はもっと有意義に時間を使うべき。あっという間に大人になります。彼の人生を変えられるのは私しかいないのです。

だから伝えよう。大切なあの人に。気持ちを伝えるのは手紙が一番。心のこもった手書きのメッセージには人を動かす魔法があります。私は急いで筆を走らせました。

とはならない。なぜなら『そんな悠長に構えてられない』から。だって今の私に紙とペンがありません。パチスロには必要がない代物です。つまり。その行動を起こすには、まず筆記用具を調達するところから始まるのです。

しかし時は一刻を争います。この少年が費やすであろう無駄な時間は約一時間です。私が手紙を書いている間に一時間経ってしまったら本末転倒です。

つまり。またいつもの流れです。私にはどうすることも出来ない。いつだって無力です。未来を棒にふることが目に見えている少年がすぐ後ろにいるのに。

正直な気持ちを申し上げますと『リーマンになればこっちのもん』と思っていました。しかし現実は。肩書だけもらって中身は変わらず。勘違いも甚だしい。恥ずかしいことこの上ないです。

私はとんだピエロです。よくない動画の監督で言うと『ピエロ田』です。主にミニ系作品を手掛けています。この少年が『少女』だったら私とお似合いでした。すぐにスタジオを借りて撮影会です。

そんな警察が飛んできそうなことを考えていたら。少年が突然私に話しかけてきました。きっと私が話しやすかったのでしょう。周りの大人は少年を無視しているので。意識しているのは私だけです。

「犯人はこの中にいる……」

なんと。まさか。心を読まれていました。私がピエロになりきってピーエロなことを考えていたのを見抜かれたのです。これが天才の洞察力。IQ200はかたい。私の倍はあります。

つまり。私は犯人だったのです。事件がいつ起こったのかもわからずに。明日には檻の中。中国産の製品加工と味が薄い食事が待っています。先日酒吞童子一派に就職したばっかりでもう退社です。今までお世話になりました。

と観念するのはまだ早い。なぜなら証拠がないから。確かに私は思考を読まれました。しかし記録が残っていません。私は白を切ればいいのです。「証拠はあるのかっ!?」と勢いで押せば私の勝ちです。

だから伝えよう。大切なあの人に。気持ちを伝えるのは手紙が一番。心のこもった手書きのメッセージには人を動かす魔法があります。しかし手紙は無理です。だから言葉で伝えます。口を開こうとしたその時。

「安心してください。犯人はあなたではありません。」

なんと。まさか。犯人は私ではありませんでした。すでに覚悟を決めていたのに。ちょっとだけ悪あがきをしてすぐ観念するつもりだったのに。獄長さんへ持って行くお土産も考えていたのに。

じゃあ。いったい。誰が犯人なのだ。謎は深まるばかり。一旦落ち着いて考えを整理しよう。

まずは「事件の内容」ですが。これが分かっていません。これにて迷宮入りとなりました。お手上げです。事件内容が分からずにこの先の推理が出きるわけがない。

つまり。またいつもの流れです。私にはどうすることも出来ない。いつだって無力です。と言いたいところですが。今回ばかりは違いました。なぜならここに『天才少年』がいるからです。IQが私の倍です。

私では解決できないこの難事件を少年なら解決できるはず。あとは彼に任せて私はこのまま何食わぬ顔でパチ屋の行列に並んで待っていることにしました。

と思ったそのとき。電流が走りました。私は気づいてしまったのです。『犯人が分かったかもしれない……』。一気に汗が吹き出しました。ドキドキしています。こんな気持ち初めて。

でもきっと少年が解決するから余計な事は言わないでおこう。素人が口を出すべきではありません。あとは彼に任せて私はこのまま何食わぬ顔でパチ屋の行列に並んで待っていることにしました。

と書いて終われたらどれだけ楽か。そういうわけには行きません。なぜなら私の推理によると。「犯人は少年」だからです。


それでは解決編と参りましょう。今回の事件の真相を説明いたします。

まず『事件内容』ですが。これは先ほど申し上げました通り。分かりません。私が知らない間に事件が起こりました。本来ならここでお手上げです。なぜなら『犯人が何をしたか?』が分からないから。

しかし逆転の発想。事件が分からなくても『犯罪者』がいればいい。そいつが犯人です。そして『やってはいけない事』をやっている人間がいました。つまり『事件はもう関係ない』のです。何の事件か分からずとも犯人を見つけ出しました。

その犯人は『少年』です。その少年が犯した罪とは。

『未成年なのにパチ屋に並んでいる』さらに『平日の午前中に学校に行っていない』

完全に悪いやつです。見事な悪ガキ。こんなの絶対犯人に決まっている。すべての謎が解けました。さっそくみんなに伝えます。

と思ったのですが。私は自分に自信がないことで今までの人生を損してきた人間です。ホントにこの推理が合っているのだろうか? 当然の疑問です。みんなに伝える勇気が出ません。

でも大丈夫。私には心強い味方がいます。それは『棟梁』です。大江山に住む鬼の棟梁の酒吞童子です。ここは一旦。棟梁に私の推理を聞いてもらうことにします。

と思ったそのとき。電流が走りました。私は気づいてしまったのです。棟梁は妖怪の大群を率いて平安京を壊滅させた過去があります。騙し打ちが得意な悪党です。今も朝から酒を飲んでいます。

つまり。『少年より棟梁の方がよっぽど犯人』なのです。学校をサボるなんて可愛いものです。これで合点がいきました。もつれた糸がほどけました。1000年パズルの最後のピースが上手くはまったのです。

だってもし自分が犯人なら『この中に犯人がいる』なんて言いません。隠しておきたい事実です。しかし言いました。なぜなら自分が犯人じゃないから。犯人は別人です。犯人は棟梁です。


これにて事件解決です。やはり天才少年。パチ屋の開店待ちのちょっとした時間で見事な推理を披露しました。大人顔負け。脱帽です。さすが私の倍のIQを持つ男。

ホッとした私に。容赦なく。次の問題が訪れようとしていました。これって。もしかして。『私も共犯』なんじゃないでしょうか。だって私は酒吞童子一派の構成員です。棟梁が逮捕なら私も逮捕です。

でも大丈夫。関係ないことにすればいい。私はこの人知らないです。解決しました。さあそろそろパチ屋が開く時間です。

そういえば。思い出しました。少年はパチ屋に入れません。これだけは伝えておかないと。『もうパチ屋が開くけど……』と少年に伝えました。

「じゃあボク学校行くね」

そういって少年は走っていきました。どうやら行列に並んでいたわけではないようです。通学の途中でした。そこで事件に遭遇したのでついでに解決していったのでしょう。正義感の強い立派な子供です。凄いと思う。

その後。少年が走っていくのをしばらく眺めていたら。信号待ちのアフリカ象が急にバックしてきてぶつかっていました。


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