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ある始まりの世界の物語 Ⅵ

いつしか少女は、娘となる頃だった。
ある時、突然に見えたものを娘は
自分だけではかかえきれなくなっていた。
「私たちは、山と共に生きてきた。山がここで終わると言うのなら、私たちも共に終わろう。」
先の未来を見た娘に人々は、真っ直ぐな目で
そう告げた。
娘は、見た通りになってしまう未来を思い、
涙を流した。
やがて訪れることを思い、娘は涙を流し言った。
「どうして…」
人々の言ったことは、頭では解っていたが
娘の心は理解することを拒んでいた。
なぜ人々がそういうのかも解っていた。
そのうえで、娘がどのような選択をするのかは
誰も何も言わなかった。
「私は、いいの。みんなが…」
娘は、人々に告げたことを激しく後悔した。
こんなことを言わなければ、人々がそういう
選択をすることをハッキリと認識しなくて済んだからだ。
ズルい後悔だとも感じていた。
人々に告げなければ、人々が知ることもなかった。
激しい怒りが娘の中にあった。
まるで、燃え盛る火のような…。
娘は、川へ向かって走っていった。
我が身を渦巻く怒りを鎮めようとするかのように、川に入った。

キンとした冷たさに少しだけ震える。
「どうして…」
川に身を沈め、娘は尚も独り言のように言った。
激しい怒りは、水に溶けたようでもあったが、悲しみが残る。
誰にもどうすることも出来ない事に、怒りはもう見えなくなっていた。
「ただ、みんなといられたらそれでよかった」
と思いはするが、言えないことだった。

黒い羽を持つ者は、言った。
「仕方ないことだ」
弾くように娘は叫んだ。
「わかってる!何故あなたが言うの!」
少し驚いたような黒い羽を持つ者はため息をつくように息を吐く。
「決まってることだからだ。そうなるだけだ。」
娘は、空から来る異常な様に一瞬たじろいだが、こう言った。
「どうしようもないこともわかってる。
決まってることなのも。でも、あなたが
そう言うのは、絶対に許さない!」
娘は、叫ぶように言ったあと、気を失った。
娘の暮らしていた場所は、跡形もなく消えた。

娘のした選択は、なんだったのか。
そもそも、それは選択肢になっていたのか。
きっと、娘にとっては黒い羽を持つ者が
言ったことも、許さないと言ったことも
一瞬のものだったのかもしれない。
跡形もなくなったあとの娘が、そのあと
何をどうしたかも、一切の記録は娘にのみ
残っている。
いつか、それに出会えるかもしれない。
そう思っても悪くはないはずだから。
そもそも、善悪などなかったこと。
どんなものにも終わりがあるのを娘は
知っていたから。
終わりも始まりも…。

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