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津の奥山の銀の狼─湯屋娘─

津の奥山の隠れ家 そこは鏡の様な水の豊かな地。
津の奥山からは、夜毎狼の咆哮が聴こえる。
その咆哮は、悲しみを帯びては山に響く…。
そこには、かつて人が『神』と呼んだものが居た。彼女は元は人であった。

そして、もうひとり、はにかむ様な
笑顔の歳若い娘。
彼女は、小さな湯屋で住み込みで働く娘だった。

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ある日、村では毎年歳若い娘の中から
巫女をする娘を選び、奥山の大神に
舞を捧げていた。
このようになったのは、熊や狼から
守る為だった。
その年は、襲われた者がいない珍しい年であった。
選ばれたのは、湯屋の娘だった。
娘はこう言った。
「狼は何もしていないのに、どうして…。」
呟く言葉は誰にも届かず、娘の舞が捧げられる日が近づいていた。
娘は、これまでも時々山に行き、山菜を
採りながら、見かける狼に話しかけたりしていた。
狼からは、何も言葉は返ってこないが、
ある、銀色の透明な蒼い瞳の狼だけは、
話しかける娘をじっと見ては、山奥へ
戻っていることが度々あった。
娘も、この銀色の狼は何か違うように
感じていたようだった。
「今日も、いたのね。」
ふわり、と柔らかな風に娘はふと我に返り
慌てて、山から降り、湯屋へ戻った。

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          ─続く─

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