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眠れる睡蓮

海に還っていったものがいた。
哀しみに満ちた、諦めにも似た
笑みを浮かべて涙をひとすじ流すと、
目を閉じて海に潜っていく。
海底に咲く花はどんな色をしていたろうか。
深い深い海の底に着くと
砂が水に舞い上がる。
海面の光は遠く届かぬ深海で
底のない海溝に沈み行くは
心かその身か。


不意にこちらを見て問うてくる。
『怖がれと言わんばかりにそうして見てくる
あなたは、私に怖がれと言うのですか。』
少しの沈黙のあと、言葉を返す。
『この姿を見て怖がらないものはいない。』
そう言ったことに、はね返すように返ってきた答えは想定外だった。
『どのような姿をしていても、変わりはありません。』
と、まっすぐに見て言った。
渦を巻き取るように流れに逆らわず
巻かれながら巻き取っていく。
これが、受け入れるということか。

静まり返った社に響くは鈴の音
誰かの嘆きの涙と
いまはもう目には映らぬかつての姿
変わりゆけども変わらぬかの景色は
紅と宵闇の間
月の平行線にある水面に足をつけ
歩き行く先は月の道、海の道
流れを現し、満ちては干いていく。

それは、流れとともに振るわせ集束させていく。
故に流れるは世の常。
ここであってここでない場所で深海へ還るものの話。




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