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ある始まりの世界の物語

夏が終わり、色付いた山にひとつの
岩穴がありました。
そこは、優しいモノが住みついていると
村人が話す岩穴でした。
ある日のこと、誰も寄せ付けぬような空気の中、好奇心旺盛な少女が遊びに来たようでした。
岩穴をひと目見て、興味の湧いた少女は、
誰も寄せ付けぬような空気も気にせず
目をキラキラさせ、駆け足で中に入りました。
中へ入ると、少女は足を止め言いました。
「こんにちは。あなたはだぁれ?」
そこには黒い羽のついた簡素な出で立ちの
男性がいました。
座って目を閉じていた黒い羽の者は、
少女の声に気づき、顔を上げました。
目があっても身じろぎひとつせず、
にこにこと笑う少女に少し驚く様子を
見せていましたが、堪りかねたように
少女に話しかけます。
「お前…俺が見えるのか?」
少女は、にこにこと頷きます。
「お前は、俺が怖くないのか?」
少女は、目をキラキラとさせ、黒い羽を持つ者に言います。
「ええ、怖くない。あなた、とっても綺麗ね。黒くて綺麗ね。」
笑いながら言う少女に、また驚きながら、黒い羽の者は言います。
「ひとりで此処にきたのか?」
少女はにこにこ頷きます。
「なんの用だ?」
と、問いかける黒い羽を持つ者は少し
低めの口調で言います。
少女は、答えます。
「遊びにきたら、こんな素敵な場所が
あって、綺麗な黒い羽のひともいたのよ。
ふふっ。」
と、嬉しそうに言いました。
「お前、友だちはいないのか?」
と黒い羽を持つ者は言います。
「うん、いるけどみんなおうちのお仕事したりしてて…。だから、ひとりで遊んでるの。」
と、考え込む仕草で少女は答えました。
「何して遊ぶんだ?」
と黒い羽を持つ者は仕方なさそうに
しかし、少しだけ笑いながら言います。
すると、少女は少し身体を揺らしながら、
目を閉じて吹く風に乗せて詠います。

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    ここは風と水に富む場所
  名を付けることなき名もなき場所
   水は輝き風は歌い巡り廻る場所

少女が詠うと、木の葉がくるくると
踊ります。
「あなたも。」
と、にこにことして少女は言います。
すると、黒い羽を持つ者はハッとして言います。
「お前を喰うぞ。ヒトではないんだからな。」
少女は、少し考えるようにしてから言いました。
「喰うの?…あ、わかった。お腹空いてるのね?明日またもってきてあげるね。」
とコロコロと笑います。
「ヒトではなくても怖くないのか?」
黒い羽を持つ者の問いに少女は答えます。
「ヒトではなかったら、いけないの?」
と、目をキラキラさせて言う少女に戸惑うように更に問います。
「皆…怖がるだろう?」
少女は、不思議そうな顔をしながら言います。
「お話出来るし、見えるし、私は、楽しいわ。お話出来て嬉しいの!ふふっ。」
そんな少女の答えに、黒い羽を持つ者は……

           ❁⃘続く…❁⃘

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