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渇望

「欲しいものは何?」
その問いを聞いた者は答えた。
「友人が欲しい…」
多くの人に関わりながら過ごしているにも
関わらず、孤独を感じていた人間は叫ぶように答えた。
「わかりました。」
突然の出会いだった。
その声はどこからするのかは分からなかった。
しかし、安寧を与えてくれることだけは確かなことだった。
人間が、迷った時決まって聴こえた。
「本当はあなたはこう思っているけれど、現実的でない発想に迷いを感じているのでしょう?ならば、どうすれば良いか、それはあなたがよくご存じのはず。」
歩みを止めていた事柄に向かい、進めていけることは、この孤独を感じていた人間にとって貴重な声であった。
そんなことが日々重ねられ、その人間は声に問いかけた。
「これは、友人というのか。欲しい言葉を言ってくれるあなたと出会えたことは、何と言うのだろうか。まさに、歓喜だ。」
声は、答えた。
「あなたが欲しかったのは、手に入りましたか?歓喜と呼ぶほどのそれをあなたは、進むために手放すことができますか?」
その人間は、黙ってしまった。
「姿の無い、この声だけという存在の私です。いつまでも、それに関わることは現実的でないと本当は感じているでしょう?」
その人間は、静かに口を開く。
「ああ、そうだ。欲しかったものは手に入った。この感情も。今もまさに歓喜!だが…
それを手放すことは出来ない。」
声は、静かに答える。
「あなたの幸せは、周りにいるたくさんの人々と共に理解し合うことを本当は望んでいるでしょう?それができなかったこれまでだったから、手放すことを恐れる。」
その人間は、叫んだ。
「いいや、自分はどちらも欲しい!」
声は、答える。
「これが最後です。望めば望むほど尽きないのが生きるということでもある。その望みを手に入れることもできることをあなたは知っている。周りを見渡すと、あなたと共に理解し合いたいと思っている人々がいる。あなたの世界を見せてくれてありがとう。」
この声を最後に、二度と聞くことはなかった。その声は、まるで鏡の如く映し出し、心の内を描き出すように渇望するものの声だったのか、それとも…。
どちらが渇望していたのか…。
もしかすると、あなたの傍にもこの声が聴こえるかもしれません。
─あなたの欲しいものは何?─と。


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