鈴の鳴る風の音 1話
昼と夜の混ざるような土地
それは誰かと誰かの話が聴こえる。
『何故、ヒトはそこまで必死になるのだ?』
眼前に広がる景色を見ていた狗狛は、
不意に問いを投げかける。
突然の問に鈴音は困惑していたが、答えは
分かっていた為、すぐに言葉を返す。
『生きているからですよ。命あるものですから。』
それを聞いた狗狛は、ため息まじりに呟く。
『また、それを…。私には分からぬと再三
言っているものを…』
そんな狗狛の遠くを見る目を見ながら、
鈴音は笑いながら言う。
『あら、私もヒトですよ。身体に限界と
いうものが…』
そう話し始めた鈴音の話を半ば遮るように、
『わかった、わかった。お前の話は長い…。
お前もヒトだが、私と話せ、触れてもなにも
影響がない。それは、ヒトと言うのか?』
少し怒ったように鈴音は言う。
『ヒト、です!それに、影響がないと言われ
ますが、身体はしっかりと影響があります!
一応!』
しまった、という顔をして狗狛は首を竦めた。
『少なくとも、あなたと会う前は普通の
ヒトでした!』
と、鈴音は続けた。
『そうだったな…』
と、呟くように狗狛は言った。
『何故、ここに私は留まっているのか
他にも場所はあるのに、離れることが
出来ないのかわからない。知った者も
誰もいないこの土地に…。ただ、わかるのは
居られなかったということだけ。』
鈴音は、夜に傾く空を見て言う。
『さよなら。と言ったことだけしか…。』
それを聞いていた、狗狛はゆっくりと
鈴音を見て言う。
『考えなくても良い。思い出すと苦しく
なるようなことかも知れないから。』
鈴音は、目を閉じて言う。
『同じような話をしたことがある…
いつかはわからない。ただ、思い出しては
ならないことには思えない…』
と呟くように話す。
『いつも、そうだな…』
と言った狗狛の言葉は、突然吹いた風に
かき消されていく。
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