金言336:閃き

フランス版田中角栄といわれた仏人政治家がITバブルのひとつ前の80年代バブル期に活躍していました。この人はゴジラのような風貌にもかかわらず、多くの女性有権者の支持を受け、人気がありました。パリでタクシーに乗ったとき、ラジオからこの人の名前が頻繁に流れていたのを覚えています。帰国してわかったのですが、この時ラジオで名前が何回もでてきたのは、人気者だからでなく、現職の国会議員が、原子力関連で注目されている日本の電機メーカーがからむ脱税疑惑とご自身がオーナーであったサッカーチームの八百長発覚で、話題になっていたからでした。

とにかく、この人は、有罪判決で政治生命を絶たれるまでは、右肩上がりの好景気の下で米国のトランプ氏と並ぶ事業家として、とても豪快な生活をしていました。地中海に3本マストの豪華ヨットを浮かべ、もちろん美人の奥様との円満な家庭を営み、事業では次々とM&Aで富を蓄え、政治家としてはミッテラン氏の片腕として大活躍と報道されていました。トランプ氏とは外見が違いましたが、中身は一緒です。

前置きが長くなりました。この人が所有するスポーツブランドのひとつを日本市場で展開することになり、突然、日本企業との交渉窓口としての代理人のオファーがありました。この契約は、エリーゼ宮の近くにあった彼の個人事務所でまとめたのですが、今思えば、無謀でした。事前に、日仏双方の法律専門家の確認をとることもなく、2時間程度で契約書をタイプアップしサインしました。権限をもった人が直接持ちかけてきた案件ですから、その場で意思決定を求められます。法律的な問題は後日金銭で解決すればいいというのが、何でもありの根拠でした。

アシスタントの話によると、この人は四六時中、側近に夥しい数のビジネス案件の実行を指示されたそうです。1000の指示があれば3件程度が実現可能なものだということでした。この人から、金の匂いのするアイデアが次々と噴出してきますが、それを可能にしたエネルギー源のひとつが、ステーキでした。大量の牛肉を瞬く間にたいらげ、摂取したカロリーがとてもおいしいビジネスの閃きに変わりました。

アイデアは常に外部からの刺激(情報)によって生まれるそうです。会議室でのブレーンストーミングという力仕事によるものではありません。政財界の有力者と接触し、いろいろな現場を視察し、南仏プロバンスで日光浴をし、地中海でヨットを浮かべ、シャンゼリゼ通の近くのイタリアレストランで、「いい刺激」を受けたにちがいありません。きっと、たくさんの刺激的な感動に即座に対応することで、巨万の富をもたらすアイデアが次々に閃いてきたのでしょう。

この人は、バブル期のM&Aで使い切れないほどの資金をかせぎ、バブル崩壊後は、払い切れほどの負債を負い、退場しました。盛者必衰。そして、閃きには、たくさんの感動と刺激が必要なのだと教えてくれました。お金で買えない感動です。
余談ですが、ブリュッセルからマルセーユまで小型プロペラ機をチャーターして移動した時、南仏の人の方言はイタリア語の影響もあって、コロコロと可愛い感じとパリジャンに教わりました。

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