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シーリングライトに捕食されたムカデの話
我が家は田舎の中にあるので、家には虫がよく出る。
特によく出るのは蜘蛛とかで、みんなのきらいなGを食べてくださるありがたい生き物とのことなので、僕自身は特に気にならない。
やっかいなのがムカデで、こいつに刺されるととても痛い、ということで、ムカデ専用の殺虫剤が常備してあるぐらいには警戒の対象になっている。
家の中で見かけることはそんなに頻繁にはないのだが、出てきたときには「うわぁ、出ちゃったか~」という感じで割と困っている。
そんなムカデが先日も我が家に出現した。
出現したのだが、その場所が意外なところだった。
普通はその辺の床とか、壁をなんとなしに這っていたりするのだが、なんとその日は天井のシーリングライトの中に入っていたのだ。
よく見たらなんか照明の中で動いてるものがある……ということで、よく見てみるとムカデだった。
たしかに単にカバーを留め具に引っ掛けているだけなので、上から入る隙間はある。
ムカデも何も考えずに、天井を這っていたらなんか入れそうだから入ってみたというだけなんだろうと思うが、こんなこともあるんだなぁと思った。
そのムカデは、カバーの外に出たいみたいだった。
カバーの底から必死に登ろうとしていた。
しかし登りきるまで力が持たないのか、途中まで登ったかと思ったら底まで滑り落ちていた。
登っては落ち、登っては落ち。それを何度も何度も、繰り返していた。
確かに、入ったはいいが食べるものも無いし、飲むものも無い。
こんなところにずっと入っていても何にもならないんだから、出ていきたいのは当然だ。
しかし、出られない。
照明のカバーはよくある普通のやつで、球体の下2~3割くらいを切って天井にくっつけたみたいな形になっている。
シーリングライトで画像検索したらいっぱい出てくるような感じのあれだ。
材質はよくわからないけど、ポリカーボネートっぽい感じで、ほどほどに丈夫さというか、しなやかさみたいなのがあるような印象がある。
以前触ったときの記憶では、確かに内側の表面は結構つるつるしていたような気がしたのを思い出した。
ムカデが出た場合は、ムカデには悪いとは思うが危険は危険なので、いつも殺虫剤をかけている。
その日は出現場所が天井の照明の中なので、直接噴射できなかった。
夜中に這い出てきて刺されるかもしれないという懸念もあったが、今目の前で動いているわけだし、カバーをはずした拍子に脱出されるやぶへびになる可能性も捨てきれなかったので、とりあえず今は出られないみたいだし、様子を見ることにした。
結局その日は、寝るときになっても、彼(彼女?)は出られないままだった。
次の日の朝、起きてから件のカバーの中を見てみたが、彼はまだ中にいた。
昨日と同じように、登っては落ち、また登っては落ちていた。
見失うことにならずにすんで、とりあえずはほっとした。
そのまた明くる日、彼はまだカバーの中にいた。
昨日や一昨日とまったく同じことを繰り返していた。
出してやらないくせに何を言っているんだという自覚はあったが、なんだか少し、そのムカデのことが気の毒になった。
その次の日も、そのまた次の日も、彼は登っていた。
初めて見つけた日から何日か経つ頃には、そのムカデの存在を忘れかけはじめていた。
ある日ふと思い出して天井を見ると、まだ彼はいた。
こころなしか、初めて見たときより元気が無くなっているように見えた。
あのムカデを初めて見た日から何日経ったかわからなくなったころ、あの照明のカバーの中を見ると、何も無いように見えた。
よく見ると、カバーの底でムカデが丸くなっていた。
彼の元気が無くなってきたことがはっきりし始めてから、彼の活動は登る時間と登らない時間の2つに分かれてきていた。
だから、今もまた休んでいる時間なのかなと思った。
それからまた何日か経ったが、そのムカデが動いているところを見ることはついに無かった。
天井からカバーをはずして、やっとカバー越しでなく直接そのムカデを見ることにした。
枯葉のような色で、枯葉のように乾燥したような見た目だった。
砂漠のど真ん中で死んでしまったかのように干乾びきっていたムカデを見て、こんな虫でも水を飲めなくなったら生きていけないんだなと思った。
それと同時に、「摩擦」のありがたさをしみじみと感じた。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。