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井戸を埋める。

井戸に小石を落としても何も聴こえなくなりました。
いや、それは予想外ではなく、知っていたことなのです。

「これまで通り、送っていいの」
「何も変わらない。返しはしないよ」
「ふぅん、そう」

噴水が西陽に眩しい場所で、そう話したのですから。

そんなことは、知っているのです。
でも、井戸に小石を投げ続けたら、いずれ埋まってしまうのでしょうか。
それとも元々、井戸なんてなくて、底はただの虚なのでしょうか。

小石でも花でも宝石でも泥団子でも、なんだっていいから、いくらだって投げましょう。

ああ、もう何も投げられないかもしれない、と思いながらも、毎日伝えたいことや届けたいこと、見せたい世界が後から後から湧いてきてもう遅い。

湧いてくるものを、そのまま落とします。
わたしは井戸の底の私自身に向かって投げているのかもしれない。

見返すと結構面白いのですが、よくもまぁ2ヶ月過ぎても毎日書くことがなくならないなと、むしろ増えていて、そろそろ井戸は埋まってしまうのではないかと思っています。ほぼ日報。遠い地にいる人が私の心の襞の奥まで知っている。持ちきれないものを預けている貸金庫みたいな気持ちにもなる。

埋まったら、どうしようかな。他の井戸でも、探しますか。新しい井戸を、掘りますか。

「どんなに揺さぶっても、揺れずに壊れないものを探していたの」
「ああ、それなら最適解だね」

なんのこともないように答えたあなたの声が、もうよく思い出せない。

それは些か寂しいこと。
知らないでしょう、開封済みがつくと私がほっとしていること。
知らないでしょう、どうしたら返事が来るか考えながら言葉を紡ぎ、重いカメラを持ち出すことがあること。

それでも、返事を求めているのをひた隠しにしていること。

他の井戸なんていらないの。私の全てを落とすなら、この井戸がいいの。
それは愛とか恋じゃなく、代わりの効かない、かけがえのなさを、十数年かけて知ってしまったから。あなたに読んでもらえるだけで、報われている。

私は、この井戸だけでいいと決めたから。立ち去らないと決めたから。
投げ返してこなければ、埋めて潰して平らかにして、深い森の中に隠して、誰も立ち入ることができないようにしましょう。

それは私の狂気です。嵐の夜に、そんなことを思っていることもまた、あなたには秘密です。

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