アートボード_1

『Midsommar』

こんなにも観なければよかったと後悔した映画はない。
一緒に鑑賞した友人も「つまらない映画を観た方がまし」と言っていたけど、その通りだと思う。

批判しているわけではないのだ。
ただとてつもなく胸糞悪くておすすめできないというだけ。
そして、そんな感想こそが本作および監督への賛辞になるとも思ったので書き綴ることにした。


フローレンス・ピュー演じるダニーには双極性障害を患う妹がいて、無理心中を図ったことにより家族を失うところから物語は始まります。

えっと、これまだスウェーデンにも行ってないんですよね。
冒頭のカットから不穏な空気が漂ってると思ったら、序盤にしてこれ以上ないくらいのどん底に突き落とされる。
ダニーの悲惨な泣き声が部屋中に響き渡るシーンとか、ほんとにしんどいです。

で、こういうときって恋人に頼りたくなると思うんですけど、倦怠期の恋人クリスチャンはどうやって別れを切り出そうか友人に相談しているところでした。
なんて不遇なタイミング。

たしかに男友達とたむろしてるところにも現れる依存症気質な彼女がいたら同情しますけど、別れさせようとする友人マークが絶妙にうざいんですよ。
「ダニーみたいにすぐやらせてくれる女に乗り替えろよ」とか「スウェーデンに行ったらやりたい放題だぞ」とか。
このシーンも伏線になってくるので重要なんですけど(マークの動機は完全にそれだったと思う)、女性の立場からすると苦痛でしょうがなかった。


なんやかんやあって、スウェーデンの僻地にある村へダニーも連れて行くことに。
その村はクリスチャンの友人ペレの故郷で、90年に一度の祝祭があるからおいでよ、とのことでした。

ダニーのことを鬱陶しく思っているマークやジョシュとは対照的に「一緒に来てくれて嬉しい」と伝えるペレ。
ん?こいついい奴だな?と思ってると、彼女に起こった悲劇を慰めるつもりが心の琴線に触れてしまい、ダニーはトイレに篭って泣き出してしまいます。

なんというか、ペレは優しいんだろうけどたまに無神経な危うさがあって、感情が溢れ出そうになってるにもかかわらず話を続けようとするところとか違和感を覚えてたんですけど、のちにこの違和感が重要になってきます。


とにかく救いのなかった日常から、ペレの村の手前に到着しました。
一行はペレの弟イングマールからマジックマッシュルームを勧められます。

精神的に落ち着いてからにしたいというダニーに合わせて我慢するクリスチャンでしたが、「ここでキメなきゃ違うトリップ(旅行)になっちまうぞ」とマーク。
おいマーク、そういうところだぞ。
結局吸うことにしたダニーはバットトリップ状態になり、妹の幻覚を見て咽び泣きます。

この映画、終始ドラッグをキメまくるんですがハイになるわけでも陶酔するわけでもなく、個人的に気持ちのいい描写ではありませんでした。
これも胸糞悪さのひとつ。


6時間ほど眠っていたダニーが揃ったところで、ようやく村へ歩き出します。
スウェーデンに降り立ってからというもの、画面が燦然と明るくて恐怖に駆られるんですよね。
美しいのに、怖いっていう未曾有の感覚。

村人に歓迎されたあとは、クリスチャンがペレの妹マヤに気に入られてちょっかいをかけられたり、誕生日だったダニーはペレから似顔絵を貰ったり、そんな彼女の誕生日を忘れていたクリスチャンは一切れのケーキでお祝いしたりして初日を終えます。


2日目。72歳を迎えた老人が崖から飛び降りるアッテストゥパン(Ättestupa)という儀式が執り行われます。
もうほんと意味がわからないんですけど、依然として画面が明るいので描写がえぐい。
このあたりから監督の人格を疑い始めます。

アッテストゥパンに立ち会ったダニーは帰りたがるんですが、ペレが引き止めます。
「君に起こった不幸だけど...」
「なんの話?」
「家族n「あ"あ"あ"あ"ぁぁぁーーーーーーーー(過呼吸)」
ダニーが苦痛に顔を歪ませてるにもかかわらず、ペレは自身の両親も焼死したこと、そしてコミューンが家族となってくれたことを話し続けます。

ここで違和感の正体がわかるんですよね。
ペレとは根本的に価値観が合わないというか、話が通じないタイプだったという。
ダニーも諦観して彼の言葉を反芻しているようでした。


一方、マヤに気に入られたクリスチャンは昼食のパイに陰毛を見つけます。
よく見たらレモネードも1人だけオレンジ色です。
これはタペストリーに描かれていた「夢占いをしたあとに自身の陰毛を食事に混入させ、それを食べた2人は結ばれる」というラブストーリーと一致しており、明らかにマヤのもの。

わたし映画の食事シーンが好きなんですけど、ここでも不快な描写が挿し挟まれるなんて...もう辞めたいよ...


なんやかんやでマークもジョシュも殺され3日目。
(ちなみにマークは全身の皮を剥いで、ジョシュは頭部をぶん殴られて殺されます。)

ダニーは村の女性たちに誘われ、象徴的なメイポールを囲って踊るダンスコンペティションに出場します。
ドラッグ入りのお茶を飲んで覚醒した彼女は、踊りながらスウェーデン語が話せるようになり、遂にメイクイーンに選ばれます。
心から通じ合ったような感覚を得た村人たちに祝福されるあいだにも、サブリミナル的に妹や両親の幻覚を見るダニー。


同じくドラッグを摂取したクリスチャンは、セックスの儀式に連れて行かれます。
マヤが裸で寝そべり、周りには12人の女性が裸で並んでいるというカオス空間。
ある女性は「こうやって振るのよ」と言わんばかりにクリスチャンの腰を掴み、ある女性たちは喘ぎ声を大合唱すると(?)それに倣ってマヤも喘ぎます。

いや、なんというカオス。
劇場ではかすかに笑い声が漏れてたんですけど、わたしは監督の人格を疑ってたので笑ってたまるかと対抗心を燃やしてました。

そんなセックスの儀式を覗き見してしまったダニーはパニックに陥ります。
するとさっきまで一緒に踊っていた女性たちが、今度は一緒になって泣き叫んでくれる。
ダニーは寄り添って激情をも共有しようとする「家族」に居心地のよさを覚えはじめ、また行為を終えて我に返ったクリスチャンは裸のまま逃げ出そうとしてたところで気絶させられます。


目が醒めると、クリスチャンは動けず口もきけない状態で車椅子に座らされていました。
ミッドサマーの儀式には9人の生贄が必要だということでペレは友人を招いてたわけなんですが(諸悪の根源につながりましたね)、マークやジョシュたちなど訪問者4人の死体とコミューンの老人2人、志願者のイングマールを含めた2人が生贄になることになりました。
あと1人を選ぶのはメイクイーンであるダニー。

そして最後の生贄として選ばれたクリスチャンは熊の皮を着せられ、8人の生贄とともに閉じ込められた神殿には火が放たれます。
微笑みながら、ダニーはかつての恋人にさよならを。


と、胸糞悪さを書き綴ろうとしたら長編のあらすじになってしまったんですけど、この映画にラブストーリーを見出せるひとは純粋にすごい。

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