配信モデレーターとして大事なこと・必要なこと


1.はじめに

 TIE Ruという配信者のモデレーターになって3年が経つ。モデレーターとしての経験もそれなりにはあると思うので、その経験を踏まえて、配信者のモデレーターについて書いてみようと思う。
 「モデレーターとして活動しているけど悩んでいる」「モデレーターになろうかと思うけど、モデレーターっていうのがよくわからない」という人もいるだろうから、そういう人の参考になればと思う。私自身、モデレーターになったときは、ネットで色々なものを読んで参考にした。なので、いくらかは参考になるかなと思う。
 一応全体の構成としては、2がモデレーターとして必要最低限のこと、3は+αで私がやっていることを書いている。2で書いたことを抑えておけば、必要十分かなと思う。4はまとめ。

2.モデレーターの基本

(1)モデレーターの本質

 モデレーターは何をする人なのか。これは、モデレーターの権限から逆算して考えるとよいと思う。
 YouTubeのモデレーターは、コメント削除、タイムアウト、非表示(永久BAN)する権限を与えられている。したがって、モデレーターは、コメントを削除したりBANすることが求められていることになる。
 そして、モデレーターは自分の勝手な判断でコメントを削除したりしているわけではない。配信者から言い渡された基準に従って、コメントを削除したりしている。
 これは、モデレーターというのは配信者の代理だということを意味する。つまり、配信者がゲーム中などで手が離せないときに、配信者の代理でコメントを管理する役割だということになる。
 このように、モデレーターの本質は配信者の代理だということが、何よりも大事だ。そこを外すと、すべてがおかしくなってしまう。
 同時に、モデレーターはあくまでいち視聴者にすぎない。場合によっては、配信者のリア友だったり、同業者であることもあるだろうが、それはあくまで特殊な例外であって、基本的には視聴者だ。モデレーターというと、神格化されがちなところもあるが、基本的には単なるいち視聴者に過ぎず、ただ配信者に代わってBANする権限が与えられているにすぎない。これがモデレーターの本質である。

(2)モデレーターは特別ではないけど特別視される

 (1)で述べたように、モデレーターは単にBAN権限が与えられた視聴者にすぎず、特別な存在ではない。
 とはいえ、他の視聴者からみれば、スパナアイコン🔧(Twitchなら剣のアイコン)がついているし、名前の色は青色になってるし、見た目からして明らかに別格である。したがって、特別視されることは避けられない。
 モデレーターが不適切な振舞いをすれば、当然それは配信者の評価にも影響する。したがって、模範的な振舞いをする必要まではないかもしれないが、やはり不必要に人を不快にさせるような振舞いは避けるべきだ。注意をするにしても、不必要に罵倒したり攻撃すべきではないし、感情的な対応をすべきではない。
 自らマナー違反するようなことは論外だ。コメント欄で会話する、伝書鳩をするなど。他のリスナーが「あ、こういうコメントしてもいいんだな」と勘違いしてしまうし、初見のリスナーなどが「モデレーターがこういうコメントをするような配信なのか、嫌だな」と思って敬遠してしまうからだ。
 その意味で、モデレーターは、特別視されているという自覚は必要だろうと思う。私自身、(単なるリスナーであれば問題ない行動であっても)「モデレーターの立場でこれやったらまずいな」と思って自制することは少なくない。

(3)モデレーターになるために必要な資質・能力

 モデレーターになるために必要な資質・能力というのは、大体以下の3点かなと思う。

  1. 配信にある程度来る人

  2. 自分の感情で動かず、公正に事態を把握して対応できる人

  3. バランス感覚に優れていて柔軟な判断ができる人

 2点目は、配信者に思い入れが強い人ほど、難しいポイントだったりする。「(自分の推しに対してこんなことをして)許せない」っていう気持ちになっちゃう人が結構多い。でも、それは百害あって一利なしだから、気持ちを抑え込むか少し距離を取った方が良い。それができなさそうだったら、モデレーターにはちょっと向いてない。
 3点目は、配信とかコメント欄の空気をうまく感じ取って、良い塩梅でやることが大事ということ。なぜそれが大事かというと、コメント管理の基準があるとしても、それを機械的に適用すれば良いという話ではないため。たとえば、「配信に関係ない話題は禁止」「他の配信者の名前を出すのは禁止」という配信は多いが、「このネタだったら配信に関係ないけど大丈夫」「この配信者の名前をこういう文脈で出すならOK」というのはケース・バイ・ケースで存在するのだ。にもかかわらず、機械的にBANをしてしまうと、視聴者も「え、これもBAN?」ってなって白けてコメントしなくなってしまう。あるいは、表面的には暴言のようにみえても、何かの動画のネタだったりすることもある。不適切なコメントがなされないことは大事だが、萎縮してしまうのも良くない。だから、普段の配信などを視て、空気感や流れを掴んでおくことも大事だ。1点目の「配信にある程度来る人」という条件は、その意味でも重要なのだ。
 そして、この3点目とも関連するが、「多くの視聴者は、実はコメントをしない」ということも理解しておく必要がある。釈迦さんの切り抜き動画「BANリスナー達の裁判をする釈迦」(3:55~)でも触れられているように、コメントせずに見てる人が実はすごく多いのだ。だから、コメントをしている人というのは、視聴者の中のごく一部にすぎない。コメントしている人の意見だけを見ていると、それが多数の意見であるかのように思えてしまうが、コメントせずとも色んなことを感じている視聴者は多いのだ。そういった視聴者が何を感じて何を考えているのか。そういったところも想像することが必要になってくる。

(4)モデレーターとして真に重要なこと

 (3)でモデレーターになるために必要な資質・能力について書いたが、モデレーターとして真に重要なことは信頼されることだ。これは、モデレーターになるための資質というより、モデレーターになった後に重要になる資質といえるかもしれない。
 モデレーターは、配信者から信頼されることは当然だが、視聴者から信頼されることもすごく重要だ。
 モデレーターというのは、配信コメント欄の治安を良くするための存在だ。そこでは、結局のところ、視聴者の人の協力が重要になってくる。荒らされているときも協力してくれて、不適切なコメントがあっても反応せずにスルーしてくれればすぐに沈静化するし、逆に不適切なコメントや荒らしコメントなどに反応したり、モデレーターを批判するようなコメントが出てくると、どんどん荒れてしまう。だから、視聴者の人の協力がすごく重要になってくるのだ。
 ここでいう「信頼」というのは、人格的な意味での信頼ではない。「この人がいるから、コメント欄は適切な状態に保たれるはずだ。」という能力的な信頼である。不適切なコメントは過不足なく削除・BANし、適宜注意を促す。その積み重ねによって、「今日はこの人がいるから安心だな」と思って貰えるようになる。そうすると、「自分が反応しなくても、モデレーターの人がちゃんと対応してくれるから放っておこう」となるのだ。
 私の場合も、最初の頃は、不適切なコメントがあるとそれに反応する視聴者が多かった。人間だから、反応したくもなる。それは仕方ない。しかし、不適切なコメントに反応すると、どんどんコメント欄の雰囲気が悪くなる。だから、「モデレーターが対応するのでスルーして下さい」とお願いし続けてきた。その結果として、今は皆がスルーしてくれるようになった。なので、コメント欄が荒れることもなく、粛々と不適切なコメントが消えて何事もなかったかのように流れていく。これは、視聴者の方々が信頼してくれたからだろうと思う。
 健全でにぎやかなコメント欄というのは、視聴者の協力が不可欠なのだ。そのためには、日頃の行いの積み重ねにより、信頼を得ることが必要となる。

(5)モデレーターになることのデメリット

 モデレーターになることのデメリットもここで書いておこう。
 モデレーターになると、配信を純粋に楽しむことは不可能だ。コメント欄を常時注視する必要があるし、場合によってはコメントに対応しなければならない。そのため、決定的シーンを見逃したりする。私自身、何度も決定的シーンを見逃してきている。また、どうしても「監視」という側面が出てしまうので、100%楽しむという気分にはなれないのが実情だ。
 なので、モデレーターになることにはデメリットもあることを踏まえ、勧誘したり受諾すべきだろうと思う。ここは、モデレーターを実際にやらないとなかなか分からないデメリットなので、きちんと指摘しておきたい。
 実際、私はモデレーターになっていない配信者の配信を見に行くと、気が楽だ。何もせず、何も考えなくていいのだから。やはりモデレーターは、それなりの負担ではあると思う。

3.私がモデレーターとして考えていること+α

 以上が、モデレーターとして最低限行わなければならないこと・意識しなければならないことだと思う。それ以上のことはやる必要はないが、私は以下のようなことを行っている。

  1. BANされた人に対して説明をする

  2. 配信者にとって有益なコメントをする

  3. 他の視聴者にとって有益なコメントをする

  4. 配信を盛り上げるコメントをする

 それぞれについて、以下で敷衍していこうと思う。

(1)BANの説明

 常に説明しているわけではないが、削除したりBANした場合、場合によっては説明をすることにしている。それは、色んな意味合いが含まれている。
 まず、①対象者を納得させるためだ。なぜ納得させる必要があるかというと、対象者も善良な視聴者になるかもしれないからだ。人は誰しも間違いを犯すものだ。あからさまな害意に基づく行為であればともかく、特に悪気もなく行ってしまうこともあるかもしれない。そういう場合は、理由を説明し、納得してくれれば、行動も改善してくれるだろう。そして、善良な視聴者になっていくかもしれない。せっかく、視聴者を獲得できる機会になるかもしれないのだから、問答無用で排除する必要もないだろう。したがって、ちゃんと相手が納得するように説明をするようにしている。「他人に迷惑だから」などといった紋切り型の回答ではなく、何がどうまずいのかを理解して貰えるように説明することが大事だ。
 次に、②他の視聴者にも理解を共有するためだ。なぜなら、「なんでこれBANされてるの?」と他の視聴者が思えば、他の視聴者は萎縮してコメントできなくなるだろう。それは避けなければならない。何が問題なくて何が問題なのか。これを視聴者の間でも共有する必要がある。その意味でも、理由を説明して、他の視聴者とも理解を共有することが重要になってくる。
 そして、③自制のためでもある。モデレーターというのは、BAN権限を有しており、権力者なのだ。権力というのは、往々にして暴走させがちである。「俺が悪いと思ったからBANしたまでだ」となりかねない。だから、常にその権力行使に自制的であるために、「なぜBANをしたのか」をきちんと言語化し、説得的に説明できるようにする必要がある。自ら暴走を防ぐために、説明責任というのは重要だと思う。

(2)配信者にとって有益なコメント

 要するに、配信者の役に立つ情報提供ということ。大会の情報をきちんと把握していないだとか、大会の現在順位を把握できていないといったような場合に、それを伝達することがある。
 これも、別にモデレーターの義務でもなんでもないが、配信者にとって有益なことは割と行うようにしている。たとえば、グッズ販売などの販促コメントなど。有益なことはした方がいいというのもあるが、モデレーターが行った方が波が立たないからだ。普通の視聴者が行ったら、「なんだあいつ、しゃしゃり出て」と反感を持たれることもあるかもしれない。けれども、モデレーターがやれば、そういった反感を持たれることもないだろう。ということもあって、余力があるときは私がやるようにしている。もちろん、視聴者が行うことを排除する意図ではないし、むしろ情報提供してくれたりしたらありがたいのは言うまでもない。

(3)他の視聴者にとって有益なコメント

 他の視聴者にとって有益なコメントは、たとえば大会であれば大会の情報、なにか配信者にトラブルが起きている場合は状況説明、直近で大会に参加するようであればそのアナウンス等だ。あるいは、視聴者から疑問が出されたときも、なるべく回答するようにしている。
 これも、モデレーターとして行う義務はない。けれども、そういった情報があれば視聴者にとっても助かるだろう。視聴者にとって快適であれば、配信を見続けようという気持ちになるのだろうし、最終的には配信者にとって有益な行動となる。 

(4)配信を盛り上げるコメント

 配信を盛り上げるコメントというのは、配信者をいじったり、配信者に会話のネタを提供したり、視聴者が盛り上がるようなコメントだ。
 たとえば、ニコニコ動画のプレミアムの値段が値上がりしたニュースが入ってきたので、その話もコメントしたりした。TIE Ruはかつてニコニコで活動していたこともあったので、食いつくと思ったからだ。実際、そこから同行者との間で話が色々広がっていた。
 あるいは、TIE GianがBFVをやってたので、「じゃいがBFVやってますよ」とコメントして、「マジか、Gian, BFVやってるんか」とBFVの話題になっていったこともある。
 「別にモデレーターでなくてもできるでしょ」と言われたらそのとおりなのだが、配信に関係ない話題提供や、他の配信者の名前を出したりすることは基本的にマナー違反なので、一般リスナーだとかなりやりづらい(私自身、他の配信ではその手のコメントは躊躇する)。なので、モデレーターとしてコメントしたりする。
 この辺は、配信をかなり視ていないと難しいが、ずっと視てると、どういうことで盛り上がるのか、どういうコメントを好きなのかが分かるようになってくる。それを踏まえてコメントをすると、配信が盛り上がる。

(5)「ギリギリセーフ」のラインを示す

 (4)とも関連するが、配信者いじりなどのコメントが「どこまでセーフか」も体現して示したりもする。
 たとえば、クソエイムをかまして撃ち負けて「クソみたいなエイムかましたわ」と言っていたら、「うーん今のはモザイクエイム案件」などといじったりする(動画化するとき、ひどいエイムの場面はモザイクをかけたりするので、そのこと)。そうやって、モデレーターが「この辺まではOK」というのを示すことで、他の視聴者も「このくらいのコメントは大丈夫なんだな」と分かるだろう。
 そういったラインを具体的に分かりやすくするのも大事かな、と思ったりする。そうでないと、BANを恐れて萎縮してしまい、コメント欄が活性化しなくなってしまうと思う。
 

4.モデレーターに正解はない

 ここまで散々偉そうに書いてきたので、「お前はそんなに自信をもってモデレーターをやっているのか」と思われるかもしれない。
 正直なところを吐露すると、毎回毎回配信が終わるたびに、「もうちょっとこうすればよかったんじゃないか」と思う。先ほど書いたように、モデレーターは状況に応じて柔軟に対応する必要がある。だからこそ、もっと違うやり方があったのではないか、といつも思ってしまう。
 その意味で、モデレーターに正解はないし、いつも悩むしいつも迷う。ただ、それでも決断は必ずしなければならない。迷いながらも決断し、決断した後に「もうちょっとうまくやれたんじゃないか」と悩む。3年経ってもそれは変わらないので、たぶんずっとそうだろう、と思う。そして、先にも書いたとおり、やはりモデレーターはそれなりに負担ではある。ただ、だからこそ「Ruさんの配信が一番安心する」というコメントが何よりもの励みになる。それが一番の報酬かもしれない。

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