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40. メキシコ田舎の食生活2

半径1kmの定住者5軒のうち、セサール一家がこの地域を一番長く知っている一族になる。セサールのおじいさんの所有だった土地を、お父さん叔父さんたちで分け、セサール自身も集落の入り口に、この集落を出入りする車が全て見渡せる位置に家を建てたのが約10年前。彼らの家から東に少し入ったところに、お父さんから譲り受けた農場と畑がある。畑といっても1ha弱の土地に毎年トウモロコシを植え、冬場の牛達の餌の足しにする。牛は全て乳牛で、3~40頭はいる。毎日、朝と夕方に農場に行き、3時間かけて乳搾りなどの世話をする。
 悲しいかな、都会出身の私たちは乳搾りをしたことがない。よくある映画のように「軽く田舎体験しに来た都会の人間がおっかなびっくり牛に触る」そのまんまで、というか、まともに触ったこともない。
 テラスの屋根作りをしていたクマ夫がセサールと話していて、ある朝彼を農場に訪ねることになった。目的は、搾りたての牛乳をもらうこと。

 朝8時。
 雨上がりでぬかるんだ道を歩き、彼の農場に向かう。
 ランチェロ(Ranchero 農場の男)は時間など気にしない。約束は8時だが、今が何時かなんて気にしないのがランチェロ。動物と天気を相手に生きていると、人間が勝手に決めた時間なんて意味をなさない。



 彼らは当然、手絞りしてたら明日になってしまうので機械で乳搾りをする。
でも、私たちのためにこしきゆかしい方法で後ろ足を括り、手絞りの用意をしてくれる。結構力いるのね、乳搾りって。やってみないとあれはわからない感覚。でも、知らなくもないあの感覚(大人だから)。

 チュッチュジュージューと絞り、でもあまりにも私たちの手際が悪いので後はセサールにお任せする。あっという間に5Lの牛乳を絞ってくれる。私たちはそれを3L買う。1L10ペソ(55円ほど)。ありがたい。

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クマ夫も人生初の乳搾り


 農場の奥にある畑スペースで育てているトウモロコシ。
 悲しいかな、都会出身の私たち(少なくとも私)は、トウモロコシがちゃんと育っているところを間近に見ることがなかった。大地にしっかり根を張ったトウモロコシには2本のトウモロコシがなる(ややこしいな)。日本のように甘い粒のトウモロコシにするには摘果をし、上のトウモロコシを残す(らしい)。で、摘果したものはヤングコーンとして中華料理とかに使う(らしい)。

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結構みっちりタネ蒔いたのね。

 ここでは、飼料用としてでも人間用としてでも、摘果することはない。さすがの原産国。そのまま育てて一本の植物から2本のトウモロコシを収穫する。
 そこをセサールにお願いして、育ちの遅い下のトウモロコシを取らせてもらう。50本。数千本のうちの50本。久々に食べたかったのよ、ヤングコーンの炒め物。しかも採れたて。家に帰りさっさと向いて軽く茹で、半分は冷凍に、半分はお肉と一緒にオイスターソースで炒めた。ああ、美味しい。

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右はヤングコーンとしては育ちすぎね

 

牛乳は、加熱して沸騰前の80℃で20分消毒。冷ました後冷蔵庫に入れ24時間。こうすると、上澄にクリームがコッテリと溜まる。夏場は水っぽく、冬場は脂肪分が高くなるのでクリームもたっぷり取れる。夏場は冬の半分程度。これを掬って別容器に入れておけば、メキシコ料理で日常的に使うクリームとして。蓋つき容器などに入れて根気よくフリフリすればバターとなる。セサールの牛達はほぼ一年中この辺りを自由に歩き回ってあれこれ自然の草木を食べているので、いわゆる「グラスフェッドバター」だ。超高級品じゃん?

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市販のクリーム容器にとれたてのクリームを入れておく。間違いない。

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寒くなるとクリームもコッテリ取れる。


 牛乳自体が美味しいので、クリームもバターも美味しいに決まっている。
自由にストレスなく生活している牛の乳はこんなに美味しいものなのか。飲んでみないとそれはわからない。私の語彙では伝えきれない。

 セサールの奥さんクラウディアは、この牛乳からチーズ2種、ヨーグルトを作り、家族で消費したり近所の希望者に売っている。手のひらに乗るフレッシュチーズが15ペソ(80円程度)。それを少し乾かして熟成させたものは塩気が効いて美味しい。ヨーグルトは1L30ペソ(160円程度)。自然に発酵させているのでとろっとしていて、こちらもなんとも言えず美味しい。

 早く家を完成させて、朝ごはんはテラスで、この半径1kmの草を食べて育った牛さんの牛乳とバター、ヨーグルト、チーズに、焼きたてのパンと淹れたてのコーヒーとか、想像しただけでもう幸せなんだけど、ちょっと待て、そこに行き着くまであと一年はかかる。

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