15. みんなにご飯を作ってみる

建築が始まってからすぐにタマレスを振る舞った。
本来なら、十日に一度くらい、ゴッツリ食事を作ってみんなに振る舞いたかったのだが、単発の通訳の仕事やらなんやらが入り、それどころではなくなった。でもまあいいか、その分、近所のエルビラおばはんの商売になるんだから。
　おばはんには、儲けているとかそういうのとは別なところでありがたいと日々思っていたので、ごっそり食材を持って行った。彼らの２日分ぐらいの材料。保存の効くパスタやパスタソース、缶詰の野菜やチーズやなんやかんや。もちろん、これはそのままおばはんのご自宅用にしてもらってもいい。そうすることぐらいこちらもメキシコに12年も住んでいるので容易に想像できる。

仕事が一息つき、こちらも家作りのあれこれに全力を注ぐ用意が出来た。出遅れてごめんねの思いで、一度、彼らの昼食を用意した。三種類のタコスにフリホーレス。野菜と牛肉の炒め煮、緑色で深い味わいの唐辛子チレポブラノとマッシュルームのクリーム煮、豚皮チチャロンのトマトソース煮。前日までにフリホーレスと合わせて４種類を作っておけば、当日、昼ごはんのころにエルビラおばはんのキッチンを借りてトルティージャを温め、そこに一種類ずつ具を乗せて彼らに供することができる。
　お肉をパイナップルと一緒にすると柔らかくなる、というのは結構知られた話。なので、刻んだパイナップルをお肉と数時間、寝かせてみた。調理。どんどんお肉が溶けていくよ、待って、待ってよ、そこまでしなくてもいいよ。時すでに遅し。フライパンの中には、80%ドロドロに溶けてしまった元タンパク質の皆さんと野菜のかけら。見るに堪えない姿。が、味は良い。どうしよう。クマ夫の「肉の味するし、タコスにしちゃえばなんでも大丈夫」の言葉を信じてやけっぱちで出してしまおう。温め直しを横で見ていたエルビラも「それは何？」と。私も問いたい。「これは何？」

それでも、職人さんグループはお腹が空いているので食べてくれる。
フリホーレスと、クリーム煮と、チチャロンと、わけわからん何か。肉の味がするからか、わけわからん何かもちゃんとお代わりしてくれる。頭数の４割り増しで用意していたものが、結局全て完売となった。

そのほか、半年ほど前からメキシコに進出、販売開始となっていたポカリスエットも「コーラ飲むより体には良いから」とおすすめし、こちらもかなりの好評をいただいた。メキシコのこの地方の３月といえば、一年で一番暑い季節の始まり。湿度も毎日20%以下だし、何しろ日差しがきつい。水分補給が一番大事。彼らが水のように常飲しているコーラは糖分で体力持つかもしれないが、やはり健康に良いわけが無い。エルビラおばはんのところで５Lバケツに作ってもらうフルーツの水（メキシコでは一般的で、季節の果物をミキサーで水と砂糖と混ぜる）も１日に３回はみんなで買って飲んでいる。まっさらの水だけを飲む人の方が少ない。

小腹が空いた時の足しになるようにと、クッキーやフルーツバー（みっちりとした生地の真ん中にフルーツのペーストが入っている）なども箱にごっそり詰めて差し入れした。それらもちゃんと、消費されているようだった。

なんとなくそれっぽくなってきた

そんな日々の中、メキシコでもコロナウィルスの感染者が出始める。一般的なメキシコ人はまだ海外のニュースに目を向けることはしない。けれど、私たちは毎日のように中国や日本からのニュース、友人家族からの話を聞いて、これは早めに準備しておいた方がいいな、と行動し始める。実はすでに、２月初旬のうちにマスクと除菌ジェルは買っておいた。ここからは備蓄食材を買い置きするようになる。
私とクマ夫は、毎日現場にマスクをして行く。現場のアルバニール達は誰1人としてマスクはつけていない。まあここでは三密になるはずもなく、ようやく一回の天井コンクリ流し込み用の足場や支柱が組まれ始めていたのでアウトドアといえばアウトドア。大半が同じ場所で働き、同じ場所で泊まり込みをしているので全く危険を感じていない様子。というか、「そんなの俺らにゃかんけーねー」と言う感じ。
クマ夫は毎日現場に通い、作業員と同じ仕事をしながら彼らの仕事ぶりを観察している。学びつつ、疑問のあるところはどんどんヘスス１に確認をしている。私はその間、自宅でデスクワークをしたり、遅かれ早かれ始まるであろうロックダウンに備える。
３月の終わり。
私達の住む州でも本格的なロックダウンが始まる。（学校はすでに３月の半ばから休校措置をとっていて、ヘスス１のいとこの小学６年生も現場に手伝いと言う名の暇つぶしに来ている。）

コロナ休校で暇なダビが手伝いに来始めた

いつもは観光客で賑わうこの街の、静まり返った異様な景色を横目に、毎日Arkadiaに通う。