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マルチピッチクライミング 三大左稜線

数あるマルチピッチクライミングルートの中でも「左稜線」と名のつくルートには特別な魅力があります。今回は、日本が誇る3つの名門左稜線ルートを紹介します。

ルート名の命名方法

初登者による独自の命名

クライミングのショートルートと同様に、マルチピッチルートでも初登者やその後整備を行った人が独自の名前を付けることがあります。これはフリークライミングのルートに多く見られる慣習です。岸壁に複数のルートがある場合、後述する名称では特定が難しいこともあり、初登者の思い入れを反映した名前が付けられることがあります。

場所や形による命名

一方で、場所や形状から一般名称を組み合わせた名前も多数あります。例えば「〇〇稜線」「〇〇カンテ」「〇〇右ルート」などです。バリエーションルートやアルパインクライミングのルートではこの命名法が一般的です。フリークライミングルートのようにラインが明確ではなく、地形から見た大まかな範囲を示していたり、長大なルートが多いのが特徴です。

「左稜線」の由来と魅力

場所や形状による命名の中で、「稜線」は山を形作る重要な要素です。「南陵」「北陵」のように方角を表す場合は、その方角に伸びる稜線を指します。一方の「左」「右」は、特定の視点から見た位置関係を表しています。しかし、どの視点からでも「左」と呼ばれるのは、その山を最も象徴的に表す角度から見た際の左右を基準にしているためです。つまり、スカイラインを形作る美しいラインが「左稜線」と呼ばれるのです。

興味深いことに、右左の稜線が存在するはずなのに、「左稜線」の名は多く見られる一方で、「右稜線」は少ない傾向にあります。この理由として、日本の伝統文化で左が尊重される影響が考えられます。つまり、「左稜線」は山の最も魅力的な稜線として名付けられていると言えるでしょう。

以下では、そんな憧れの的ともなる左稜線をマルチピッチクライミングで登る代表的なルートを紹介します。。

烏帽子岩左稜線(小川山)

クライミングの聖地、小川山にあるマルチピッチの中でも人気のあるロングルートで、「小川山クライミングガイド」のトポでは18ピッチと紹介されています。

後述の2つに比べるとアプローチや登攀の難易度という点では最も取り付きやすいルートとなっていますが、ナチュラルプロテクションで長いピッチ数をこなす必要があり、それなりの経験が必要だと思います。

特に最終18ピッチにワイドクラックが出てきて、そこに到達するまでの疲労もあり、慣れていない人にはかなり難しく感じるでしょう。

16ピッチまでで敗退する記録も多いですが、ここまで来たら最後まで登ってもらいたいです。

大面岩左稜線(瑞牆山)

こちらもクライミングの聖地、瑞牆山にあるマルチピッチで、瑞牆の中ではグレードは低めかつプロテクションはほぼボルトで登れるので、フリークライミング経験がある程度あれば取り付きやすいルートだと思います。

「瑞牆山クライミングガイド」で10ピッチ、5.10c。グレード的な核心部は高度感を感じながらのヒリヒリするスラブクライミングです。

ただ、ここでも最終ピッチに5.10aとグレーディングされているワイドクラックが出てきます。リングボルトが打ってあり、カムは使わずに登れるので、5.10aワイドとしては易しく感じますが、やはり慣れてない人にとっては鬼門となるでしょう。

大面岩頂上は瑞牆山の岩峰の大パノラマを一望でき、これを見るだけでも登る価値があると思います。

チンネ左稜線(劔岳)

日本三大岩場の一つ、剣岳の北方稜線にある「チンネ」と名付けられた岩峰の最も長い稜線を行く左稜線界のドン。「アルパインクライミングルートガイド(北アルプス編)」では13ピッチと紹介されています。

グレード的にはRCCでⅢ級程度までのピッチがほとんどで、核心にⅤ級があるものの、ハーケンが連打されているので、プロテクションをしっかり取っていけば登攀的な難しさはそこまで感じないかも知れません。しかし、ここは劔岳。小川山や瑞牆山のようなアクセスの良さはなく、アプローチに1日以上はかかります。

また、登攀グレードとして難しくはないとはいえ、後半は両側が切り立ったリッジでミスは許されません。残置ハーケンは多いものの、数十年前に打たれたものがほとんどなので、緊張感のあるピッチが続き、標高による空気の薄さも相まって、鼓動が高まります。

アプローチは剱沢、熊の岩、三ノ窓のいずれからでも可能ですが、前泊はほぼ必須となるため、否が応でも「岩の殿堂」にどっぷり浸かることになり、山好き、岩好きにはたまらない経験となるでしょう。

おまけ:太刀岡山鋏岩左岩稜

惜しくも「左稜線」とは言いづらいルート。たまに「太刀岡山左稜線」と書いている記録もありますが、太刀岡山の左稜線でないことは明らかなのでこれは間違い。

駐車場からのアプローチでは、太刀岡山山頂は見えず、鋏岩への稜線がスカイラインとなっているので「鋏岩左稜線」と言っても良さそうではありますが、、、

序盤にハンド~フィストのクラック、ワイドクラックが出てきてやや難易度を上げていますが、「マルチピッチスーパーガイド」で1Pの5.9がこのルートの核心で、4ピッチめ以降はリッジを歩くようなピッチが多く、ピッチ数も7Pと前述の3ルートと比べると取り付きやすいルートです。

中盤の里山を見下ろせる切り立ったリッジはかなり写真映えするので、それ目当てで登ってもいいかもしれません(もちろん十分な準備をした上で!)

まとめ

左稜線ルートは長大で難所が多く、ワイドクラックやスラブ、切り立ったリッジなど、さまざまな試練があります。しかし、それらを乗り越えた時の達成感は格別です。そして、頂上からの大パノラマに酔いしれられるでしょう。

独特の魅力溢れるこれら「左稜線」ルート達に、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

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