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御竜氏は竜の威を借る者を狩る

夢を見ていた。竜王の提案を呑んで竜殺しをやめた日の夢だった。表情と反応から察するに、おれ様の下で寝ていた竜王も同じ夢を見ていたらしい。彼の尻尾には、おれ様が友情の証に差し出した神剣が幾重にも鎖に繋がれて静かに明滅を繰り返している。剣の柄に染み込んだ血と汗と涙が我々の精神を仲立ちしているという。まだ眠いので暖かい彼の背中で二度寝して夢の続きを見ることにした。あの頃の竜王は多弁だった。

≪私と同盟するのだ。さすれば城をやろう。小さな城だが一匹狼の寝床には必要十分だ。武器も与える。その神剣に勝るとも劣らない魔石の槍だぞ。まだ足りないのなら、私が育てた娘をやろう。この竜王に徹底抗戦して滅んだ世界の、亡国とはいえ王家の系譜に連なる最後の生き残りだ≫

微かな煙と唸り声で目が覚めた。竜のものではない、人工物のもたらす異音。現実は分析に先駆けた。城で眠りに就いているはずの姫様が我々に向かって大型二輪車による単騎突撃を敢行しようとしているのだ。その手には魔石の槍が燦々と輝いている。

「竜殺し様、おはようございます。それから父上は死んでください」

堅牢で、雨風を凌ぐのに十分な広さが必要な竜の寝床に新しいトンネルを占拠したのが裏目に出た。彼女の突撃を遮るものが何も無い。仮に竜を殺せずとも、おれ様が死ねば世界には新しい竜殺しが生まれる。彼女の狙いは其処にあるのだろう。

≪ええい、姫を塞き止めて事態を収める。呼吸を合わせるのだ、御竜氏よ≫

そうだ、我々にはやるべきことが残されている。それは竜の名前と尊厳を消費し続けた人類にツケを払わせる大事業だ。■■■■クエスト、パズル&■■■■ズ、ダンジョン&■■■■ズ。高名な著作権者からは既に十分な和解金をせしめているが、まだ世界には竜の存在を軽んじる悪書が氾濫している。本を焼くことで竜の怒りを鎮めて、人が焼かれるのを未然に防ぐのが御竜氏に転身したおれ様の新しい仕事なのだ。【続く】

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