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ニンジャスレイヤーTRPGソロアドベンチャー3:リプレイ【インヴェーダー・フロム・ザ・ウェスト】

(承前)

ドンブリ・ショップでネギトロ丼を黙々と口に運ぶノーマーシー。すると懐で眠っていた小さな相棒、モーターロクメンタイが激しく鳴動!緊急IRCである!ナムアミダブツ!ニンジャは静かに食事を摂ることさえ許されないというのか!?「うるさい」素早く小型ドロイドを掌握!「食べ終わるまで待て」

小さな相棒を左腕で黙らせ、右手のスプーンでネギトロを口に運び続ける。(久しぶりに来た店だけどネギトロ丼の美味さは変わらないな)最後にチャをイッキに飲み干すと500円トークンを二つ、イタマエに手渡してノーマーシーは慌ただしく店を出た。「ゴチソウサマ!」「ドーモ、また来てね」

左腕のニンジャ握力で握りしめたままのモーターロクメンタイからはミシミシと何かが軋むような音がする。食事を邪魔された恨みからか、無意識に力を込めてしまっていたらしい。手を離すと与えられた自由を謳歌するようにノーマーシーの周囲を旋回し始めた。「それでヘルカイト=サンがどうしたって?」

【インヴェーダー・フロム・ザ・ウェスト】

……ヘルカイト。シックスゲイツのナンバー6。斥候役ニンジャ。……噂によれば、前任者であるガーゴイルを謀殺、その地位を奪ったとか。率直に言えば、危険を度外視したとしても気が進まない任務であった。「……そうは言っても、センセイのカタキはネオサイタマの死神だ。それが客観的な事実だ」

モーターロクメンタイのナビゲーションが始まった。「ニンジャだから、きっと何とかなる」と来たか。……確かに今までは何とかなってきた。それもひとえに、ニンジャと戦わずにいられたからである。ソウカイヤに所属している以上、ソウカイニンジャと戦わずに済むというのはありがたいことではあった。

さりとて、ネオサイタマに潜む全てのニンジャがソウカイニンジャというワケではない。ネオサイタマの死神は言うに及ばず、イッキ・ウチコワシの戦闘エージェント、ディセンション直後の野良ニンジャ、利害の対立する企業に雇われた傭兵ニンジャ……。敵対ニンジャと事を構えるリスクは常にある。

……15分後!暗闇の中をホタルめいて発光しながら先行する相棒を追跡しながら走り続けるノーマーシーの前に物々しいアトモスフィアを放つ廃工場が現れた。なるほど、ただの廃工場とは思えぬほどの天を衝く威容。無論、彼らソウカイニンジャの本拠地たるカスミガセキ・ジグラットほどではないが……。

「……マルノウチ・スゴイタカイ・ビルぐらいの高さはあるかもな」入口の前には武装したクローンヤクザ。何やら物騒な機関銃を携えている。冷静に考えなくてもクローンヤクザが警備をしている時点で、ここが単なる廃工場などでないことは一目で分かる。装備が何であろうと些末な問題である。……だが!

そいつを始末して侵入しなければならない……となれば敵の装備など些事だと言い切ることも出来なかった。深呼吸してリラックス。「おれの任務は調査……単なる先行調査……」まだ敵はこちらに気付いていない。加えて、立ち止まったまま動き回る様子も無い。ならば生成クナイで仕留める好機である。

ワザマエ判定5,3,4,5

「ウオーッ!」カラテシャウトと共にノーマーシーの両手の間にニンジャの投擲武器、クナイが生成される!「アッコラー!?」叫び声に気付いたクローンヤクザがマシンガンを構える!しかし既にクナイは投げられているのだ!先んずれば人を制す!「アバーッ!」クナイ的中!警備ヤクザ撃破!

「悪く思うな。所持品を調べさせてもらう」クローンヤクザの懐には万札が一枚。サンシタ・ニンジャの彼にとっては貴重な軍資金である。その他には特に目ぼしいアイテムも無かった。……奇妙な意匠のバッジを除いては。モーターロクメンタイに聞いたところ、これは敵対ニンジャ組織の紋章であるらしい。

ノーマーシーも西のザイバツ・シャドーギルドについてはセンセイから聞いたことがあった。それでも心の何処かでは自分には関係の無い、遠い世界の出来事であると思っていた。……キョートと言えば外国である。ネオサイタマから一歩も外に出たことのない彼にとっては、異次元にも等しい別世界であった。

その異次元からの侵略者が、このネオサイタマに橋頭堡を築き上げようとしているとなれば穏やかではない。ヘルカイトの生死に関わらず、この件を深く調べる必要がある。そう考えると、任務に対する意欲が少しだけ湧いてくるような気さえしてくる。首尾よくやれば、インセンティブもあるかもしれぬ。

ヘルカイトの生死など興味は無し。だが、もし生きていたのならば確かめたい。「おれのセンセイだったガーゴイル=サンを死なせたのは本当にアンタなのか」と。確かめた後は……どうなるだろうか?率直に「俺が殺した」とでも吐いた後は?ヘルカイトは今の地位を追われるだろうか?否、そうはなるまい。

真実を知ったノーマーシーを生かしておく理由がヘルカイトには無い。濡れ衣をかぶせた後に口封じをして一件落着とするであろう。ならばノーマーシーにもヘルカイトを生かしておく理由が無くなってしまう。まるでゼンモンドー、あるいは醜悪な喜劇だ。「頼むから死んでいてくれよな、ヘルカイト=サン」

呟きは闇に消えた。忍び足で内部を歩いていると、探照灯を持ったクローンヤクザが立っているのが見える。銃火器は持っていない。そしてマシンめいた正確なペースで決められたルートを巡回しているようだった。(ははぁ。おれと、こいつの足音が偶然にも同期していたお陰で気付かれずに済んだのだな)

カラテ判定1,5,1,4

足音を消してカラテを叩き込む手段を吟味する。すると巡回するクローンヤクザが背中を向けた瞬間に、激しいシャウトと共にノーマーシーは一足飛びに距離を詰める!そう、大ジャンプである!「ウオーッ!」その長さ、実にタタミ12枚分はあろうか。「アッコラー侵入者!」当然、シャウトに気付かれた!

しかしノーマーシーは既に己がカラテの間合いに敵を捉えている!先んずれば人を制す!「アバーッ!」クローンヤクザが完全に振り向くよりも早く、ジャンプ大パンチ炸裂!L字になって壁に叩きつけられる!「アババーッ!」それにしても、もっとスマートな戦い方を覚える必要があるのかもしれない。

死体の懐を漁る行為にも対しても何も感じなくなりつつある自分自身を自覚しながら、万札を一枚を回収する。そして例のバッジ。ザイバツ。このまま探索を続ければ、必ずやニンジャと遭遇するだろう。そうなれば戦って勝てるだろうか?(否、おれの目的は先行調査。逃げて生き残ることを考えろ)

冷静さを少しだけ取り戻す。そうとも、調査を続けなければ。おれはニンジャだ。遅かれ早かれ、いずれニンジャとは戦わなければならないだろう。来るなら来い。おれの足音が聞こえているはずだ。今すぐにでも襲い掛かってきてもいいはずだ。あるいは、暗闇の中に身を潜めておれの隙を窺っているのか。

どうした、おれの歩みを止める者はいないのか。お前らが手をこまねいている間に、おれは謎めいた部屋を見出したぞ。中に入ると、暴れる人間を固定するのに丁度いい椅子が置かれている。部屋の隅には、何かが弾けた痕跡だ。ああ、やはり遅かったのだろう。ヘルカイト=サン、地獄で会うことにしようぜ。

ここで「ヘルカイト=サンは、既にくたばっておりました!」と報告する為に撤退を選ぶのも悪くはない。だが折角ここまで来たのだ。上位者に対する手土産が、あと一つは何か欲しいところでもある。おれもいつまでもサンシタのままではセンセイも浮かばれないだろうという気持ちも無いわけでも無かった。

改めて室内を眺める。立派な椅子の他に置かれているものと言えば手酷く痛めつけられた趣味の悪いカイト、そして机の上には……UNIXデッキだ。それも手強そうなヤツ。あるいは、キョートから持ち込まれたものだという先入観が、おれに威圧感を与えているのかもしれなかった。機械のくせに生意気な。

しかし今のおれは、機械を見る度に尻込みしていた昔のおれとは違う。テンサイ級ハッカーの下での修行の成果を試す絶好の機会では無かろうか。おれのゼン・ドライブを喰らわせてやる!まずは電源を入れる!すると画面にドット・グラフィックのウサギとカエルが現れる!機械が眠りから覚めるプロセスだ。

ニューロン判定4,3,4

つまり、このUNIXデッキは人間で言うならば意識が完全に覚醒していない状態であると言えるだろう。この瞬間に、矢継ぎ早に無意味な質問を繰り出しマシンの処理速度を越える負荷を与えてやれば……おれの勝ち……なのだが。「指紋認証システムな」「画面にタッチ重点」「あと5秒以内」何だ、これ?

画面にタッチだと?触ればいいのか?ダメだ。探索の順序としては施設の管理者あるいは責任者をやっつけてから、脅すなり何なりしてデッキを立ち上げさせればよかったのか。ディスプレイには不吉なカウントダウンが進行中だ。このままでは良くないことが起こる。それだけは嫌と言うほど伝わってくる。

認めるしかない。ハッキングは失敗。やはり生体LAN端子、あるいはウイルス入りフロッピーが必要だったか。悔やむのは後だ。電源に手を伸ばす。このままでは取り返しのつかない事態を招きかねない。「不正な操作を検出しました」ディスプレイにはウサギとカエルの凶相。それは俺を嘲笑うかのような。

最初に閃光があった。その後に爆音。「グワーッ!」最終戦争、世界最後の日が訪れたかと思わせる大爆発がおれの目の前で発生した。「グワーッ!」全身を焼かれた。熱さに耐えかねてのたうち回る。「グワーッ!」おれは、ここで死ぬのか。転がり続けて椅子に頭をしたたかに打ち付けた。「グワーッ!」

痛い。頭を打った痛みで冷静さが戻って来た。起き上がる。どうやら体は自由に動くようだ。それにしてもUNIXデッキが爆発するとは思わなかった。流石はザイバツの設備だ。それほどまでに重要な情報が守られていたということであろう。警報が鳴り響いている。長居は無用か。撤退するしかあるまい。

おれはガラスの砕け散った窓から飛び出した。闇夜のネオサイタマに溶け込むように。落下中、後ろから凄まじい殺気が感じられたような気がした。ザイバツの高位ニンジャであろう。悔しければ追ってくればいい。おれはトコロザワ・ピラーに帰還せねば。後は互いの高位ニンジャ同士でケリを付けるだろう。

この街はどうなるのだろう。東のネオサイタマ、西のキョートでニンジャ同士の戦争が始まるのだろうか。そうはならないような気がする。きっと何らかの形で手打ちになるだろう。無論、両組織間での抗争が完全に終わることも無いであろうが。昨年のクリスマスの、マルノウチ・スゴイタカイビルのように。

我らがボス、ラオモト=サンへのお目通りが許された。おれのようなサンシタには身に余る光栄だ。おれのウカツで敵施設のUNIXは爆発四散、重要な情報は得られずじまいであったのだ。ケジメを強いられてもおかしくはない。だが、元より期待などされていなかったサンシタが最低限の成果を上げたのだ。

ボスに侍るオイランの一人が聖徳太子の肖像画を五枚、白い封筒に入れると胸の間に挟んでおれの方に進み出た。おれの働きへの報酬らしい。ありがたく受け取ってラオモト=サンへと深々と頭を垂れる。「……アリガトゴザイマス!これからも励みます!」「ムッハハハ!斥候の働きとしては十分だったぞ!」

斥候か。おれのセンセイだったガーゴイル=サン。そして今回、消息を絶ったヘルカイトも斥候役ニンジャであった。おれも、何時かはセンセイのような……いや、今は考えないようにしよう。ぎくしゃくしながらトコロザワ・ピラーの天守閣を辞去すると、狙い澄ましたかのようなタイミングで通信が入った。

誰だろう。端末を開いて確認すれば、ウブカタ=サンからのIRCだった。「お腹が空いていませんか?」だと。生憎、任務の前にネギトロ丼を腹一杯かき込んだのだ。「今は特に空いていません」と返信する。……また返信が来た。「お前からせしめたお金でスシを注文しました。一緒にどうですか?」

いつでもスシは大歓迎だ。「可及的速やかに向かいます」と返信しながら歩きだす。「早くしないと無くなりますよ」とのメッセージ。こうしてはいられない。本気を出したおれは色の付いた風めいて走り出すと、爆発の痛みも何処へやら、重金属酸性雨の降りしきる夜のネオサイタマを駆け抜けたのであった。

【インヴェーダー・フロム・ザ・ウェスト】終わり

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