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ニンジャスレイヤーTRPG入門用ソロアドベンチャー第5回:「ツキジ・ダンジョン深部へ潜れ」: リプレイ【マグロ・アンド・マーケット・ルインズ】#3

(承前)

>選択肢1:旧世紀UNIXを探してハッキングし、周辺情報を得る

そこから断片的に読み取れる情報には、この先にUNIX室があることが示されている。これはブッダチャンスかもしれない。それも垂らされた蜘蛛の糸に縋るようなチャンス。彼は今まで、任務の為にUNIXのハッキングに挑んだことが何度かある。そして現状、そのいずれもが失敗に終わっているのだ。

ヤクザの事務所、ザイバツの隠れアジトでの苦い記憶が甦る。だが、考えようによってはUNIXへの苦手意識を払拭する好機かもしれぬ。(おれもあれからウブカタ=サンの下でハッカーの修行をしている……。今回こそは上手くいくかもしれない!いや、やるのだ!)旧友のハッカーの横顔が脳裏をよぎる。

(アトウダ=サンは生体LAN端子をインプラントしないの?)表の顔はオーエル、裏の顔はハッカーである旧友から、何かの機会に訊かれたことがあった。ノーマーシーは自分がニンジャになったことを彼女には伏せ、カイシャが爆発四散したのをきっかけにハック&スラッシュに手を染めたと伝えている。

(今日日、生体LAN端子ぐらい一発市民だって付けているのに)(おれはハッカーじゃないからな)(なのに私の部屋を訪ねて、ハッカーの修行をしているのは何故?)(アー……ハッカーは戦闘能力が無いだろ?クエストの途中でくたばっちまうことだってある。そうなれば誰かが代わりを務めにゃならん)

(そう。じゃあアトウダ=サンはスラッシャーをしているの?)(そうだ)(武器は何を使っているの?)(カタナ)(チャカは使わないの?)(使う)(型番と年式は?)(なぁ、今日はどうしたんだ?おれの仕事がそんなに気になるのか?)(気になる。だって、アトウダ=サンにスラッシャーは無理だよ)

「おれにスラッシャーは無理だと?非ニンジャめ。お前に、おれの何がワカル……」忘れろ、考えるな。集中力を総動員してニューロンにわだかまる旧友の姿を駆逐する。侮られたのは自分の失点だというのは理解している。カタナの目利きにもチャカの種類にも無頓着なスラッシャーなどいるはずもないのだ。

ニンジャであることを隠して生きる以上は、イクサと鍛錬のみにて生きるわけにはいかない。これは大いなる教訓だ。「ウナギとドジョウが混入騒ぎで何とやら、だ」無事に帰れたら、一般的なスラッシャーが使う武器のことを勉強するのもいいだろう。ニンジャの中にもモータルの武器を使う者は珍しくない。

今は素手のカラテで戦うノーマーシーだが、これは彼のポリシーによるものではない。モータルの武器を軽視しているわけでもない。ただ、武器の良し悪しが分からないのだ。今までも任務の途中で銃器を拾ったことが何度かあったが、彼は任務から帰投する度に換金し、トレーニングの費用に充てていた。

(今度、カタナでも拾ったら売らずに手元に残しておくべきか。素手で戦い続けるのも遠からず限界にぶつかるだろう。しかしカタナと言えば繊細で、力に任せて振り回す武器ではないだろう。大体、倒した敵の落としたカタナなど耐久度も消耗しているかもしれない!そんな武器に命を預けられるだろうか?)

未来について思いを馳せながら歩くうちに目的地に辿り着いていた。集中力が散漫になっていたようだ。襲撃者に遭遇しなかったのは幸運と言う他あるまい。「築地電脳中心」の看板が見えた。朽ちかけた案内板に残されていた、ほぼ唯一の地図情報が、この区画までの経路であった。いよいよ大詰めである。

ハッキング出来そうなUNIXを探す。そして実際にハッキングする。完璧な作戦だ。この遺跡、あるいは廃鉱めいた区画で求めるものを探り当てられるだろうか?空腹と寒さも限界に近い。無駄に歩き回れば消耗するだけだ。冷静に周囲を確認すると、さほど荒廃が進んでいない一角があることに気付いた。

(あれなら使えるかもしれない)ハッキングへの苦手意識は使命感でねじ伏せ、目星を付けたUNIXへと近づいていく。まだ生きているらしい。凄まじい威圧感。電源を入れるまでもなく正面に立つだけで分かる。彼が今までに見た、どのUNXよりも確実に手強い。(ニンジャが機械に気圧されてどうする)

(こんな時に生体LAN端子があれば……せめてウィルス入りフロッピーでもあれば……)彼は徒手空拳のニンジャである。ニンジャとなる前は、肉体のみを資本としてネオサイタマに暮らす水運労働者であった。実際サイバネに対する忌避感、恐怖が自分の中にあるのは否定できない。しかし死ねば終わりだ。

そうこうする間にUNIXが起動した。地図情報を奪うべくログインを試みる。段ボール箱に腰掛けるウサギとカエル、そして「ログインする」「パスワードを忘れた方はこちらから」の文字列が表示された。 「……見たことの無いインターフェースだ」市場に訪れた見学者を案内する為のコマンドだろうか?

(続く)


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