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ニンジャスレイヤーTRPG入門用ソロアドベンチャー第5回:「ツキジ・ダンジョン深部へ潜れ」: リプレイ【マグロ・アンド・マーケット・ルインズ】#1

(承前)

地に伏せたままのサンシタ、フマトニの名乗る謎の男、そして彼との圧倒的なまでの実力差を理解させられ自発的に奥ゆかしく正座するサンシタを忙しなく見比べながらノーマーシーは茫然として立ち尽くすことしか出来なかった。まるでカナシバリのジツでも喰らったみたいだ、と他人事のように思った。

「ン?君も私に挑戦しますか?骨のある若者は歓迎しますよ!」張り付いたような笑顔がノーマーシーの姿を捉えた。標的にされては敵わない。先手を打ってアイサツすべし!「ドーモ、ノーマーシーです!あの、ソニックブーム=サンですよね?」「アア?そういえば、見覚えのあるツラしてやがるな……」

「おれ、任務があるとソウカイネットで知らされて駆け付けたのですが」「ああ、スカウトしたばかりのサンシタを集めて数に任せたクエストを片付けようと招集したんだが。何だ、お前も条件に含まれてやがったのか」そう呟きながらクローンヤクザが台車に乗せて運んできたプロジェクターを起動させる。

スクリーンに映し出される映像によれば任務の概要とは「ツキジ・ダンジョン深部に潜って冷凍マグロを回収せよ」ということらしい。ダンジョンの内部構造は不明。敵の所属、戦力、脅威度も不明。……それだけの説明の為に呼び出されたということか。それも新入りに❝わからせてやる❞為であろう。

「そういうワケだ。ラオモト=サンはマグロ・スシを、それもオーガニックのやつをご所望だ。お前ら、成り上がるチャンスだぞ!身支度を済ませて、さっさと行ってこい」クローンヤクザ達が慣れた手つきで倒れたサンシタどもの首にZBRを注射する。飛び上がった四人は這う這うの体で部屋を出て行った。

「で、お前も行くのか?ノーマーシー=サン」先程までのサラリマンめいた擬態と偽名を一瞬で投げ捨てたソニックブームが心の底から鬱陶しそうに問い掛ける。緩めたネクタイ、はだけたシャツ、依然として几帳面に整えられたままのヘアスタイルが異様なアトモスフィアを醸成していた。「ハイ。行きます」

「おれだってスカウトされた直後のサンシタと大差ないカラテしか無いので。それに関してアノヨのセンセイには申し訳ないとは思ってますけどね。だからこそ少しでもソウカイヤに貢献させて欲しいですよ」「そうかよ。行くんだったら、さっさと行くんだな。他のサンシタに先を越される前にな」「ハイ!」

サンシタもクローンヤクザも既に退出したトレーニング・グラウンドにソニックブームは最後まで残っていた。暗闇の中で彼が思いを馳せているのは生前、シックスゲイツの末席に名を連ねていたガーゴイルのことである。彼は野良ニンジャだったノーマーシーのメンター役を買って出た男だった……。「ヘッ」

センチメントに襲われたのは一瞬のことだった。既にヘイキンテキを取り戻しているソニックブームの表情には油断ならぬニンジャ性が回復していた。「さて、お手並み拝見と行こうか」向かう先は電算室。サンシタどもに持たせたドロイド達のカメラアイを通じて任務の進捗をリアルタイムで監視する為だ。

……五分後!唐突に、黒い風と緑の粒子がノーマーシーの体を吹き抜けた。ノーマーシーが瞼を開けると、そこは見慣れぬ閉鎖空間であった。出口は何処かにあるのだろうが(そうでなければ困る)周囲は暗く、それでいて広大で、今一つ事態を飲み込めずにいる彼を更に不安にさせるのが肌を刺す冷気である。

「もしかして、ここがツキジ・ダンジョンなのか」懐にしまった小さな相棒、❝D6❞に問い掛ける。カメラアイの明滅パターンを見るに、答えは「YES」であるらしい。「どれぐらい深い区画なんだ?標高は?」相棒が壁に投写するのは「データが取得できません」の文字列と砂嵐のみ。なんたる無慈悲!

旧時代のデッカーめいて情報は足で稼ぐしか無さそうだ。地下に潜れば無線通信は不安定になるのも覚悟していたことでもある。D6の残存バッテリーが十分にあることを確認して地図作成機能を作動する。暗闇を無数の蛍光グリーンの縦糸と横糸が薙ぎ払う!……この部屋の構造がD6の記憶に刻み込まれた。

分析した情報によれば、この部屋の出入口は一つしか無いようだ。ならば迷わず向かうだけだ。……ただ、今の操作で得られた情報といえば部屋の形状と広さぐらいのものである。念の為に隅々まで歩き回って目当ての財宝があるかどうかは別途、確認する必要があるかもしれない。そして長考する猶予は無い。

D6のバッテリーは有限である。尽きるまでに帰投せねばダンジョンで遭難ということもありえる。そうなれば餓死、あるいは凍死の危機だ。逡巡の末にノーマーシーは次の部屋へ進むことにした。この部屋の凄まじい荒廃が、その判断材料となった。既に幾度となく探索者が足を踏み入れた区画なのだろう。

……その推測が正しいと確信を得られたのは、それから間もなくのことである。部屋を後にしたノーマーシーを、背後から何かが追いかけて来ている。

(続く)


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