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ぼくは(狂った)王さま

 王さまはたまごやきが大すきで、その執着が狂気に達するまでに、そう長い時間はかかりませんでした。いつかこんな日が来ることは大臣もかくごしていたのかもしれません。

「ああ。今日こそは、ぞうのたまごやきが食べたいな」

 王さまを揶揄した道化が今日も牢屋に入れられました。それでも道化は立派につとめを果たしたのです。それにくらべて、今の自分はどうしたことだ。めいきゅうの試練を乗り越えてこのえ兵にとりたてられたアラカは王さまに意見できない自分のいくじの無さに臍をかむ思いでした。昔のアラカには多くの仲間がいました。でも今はちがいます。すっかりアラカはおくびょう風にふかれていました。みんなが唾棄したかいきゅうしょうも、このえ兵のせいふくも、アラカはよろこんでみにつけてくらしていました。でも、かれの幸せは長くはつづきませんでした。王さまが狂っていたからです。

「みんなも食べたいよな、ぞうのたまごやき」

 大臣は、さけられぬ破滅をすこしでも先延ばしにすべく愚かな提案をしました。まずはアフリカから、ぞうとぞう使いを王宮にしょうたいしようというのです。アラカはぎょう天しました。ぞうを兵器、ぞう使いを兵種だと承知していたからです。むざむざ首都にてきをむかえ入れるなんて!

「王さま。王さまには、ぞうよりも相応しいたまごがあると思います」

 王さまの双眸がギラリとかがやきました。アラカは自らのばんゆうをこうかいしましたが、このまま毎日しんだように生きるよりはマシだと自分をふるい立たせていいました。

「りゅうです。僕がりゅうのたまごを王さまのために、きっと見つけて来ますよ」

 そういうことになりました。後には引けない。だけど、めいきゅうにもぐるつもりはありません。まずは電車をのりついで、隣の県に住む知り合いの竜の女王に会いに行くことになりました。うまく機嫌を取れば一つぐらいはたまごをくれるかもしれないと思ったからです。

(続く)


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