見出し画像

ニンジャスレイヤーTRPG入門用ソロアドベンチャー第5回:「ツキジ・ダンジョン深部へ潜れ」: リプレイ【マグロ・アンド・マーケット・ルインズ】#2

(承前)

「ラー……」「何だ?」ここへ出入りする探索者の声だろうか?それとも自分と同じようにダンジョンに送り込まれたサンシタの声だろうか?もしかしたら世捨て人か。あるいは狂人。「ゾオラー……」確かに聞こえた。聞き間違いではありえない。その声は背後から聞こえてきている。「……スッゾオラー!」

背後からの声の主の正体はクローンヤクザ!ドスダガーを構えて果敢にもニンジャへの突撃を敢行しているのだ!「……これだけ騒がしいと暗殺には使えないだろうな」ノーマーシーは思案する。走って振り切るべきだろうか?しかし自分より弱い相手から逃げ回る理由も無い。却下だ。後顧の憂い、断つべし!

ノーマーシーは悠然と振り返り、落ち着き払ってクナイを構える。刻一刻とクローンヤクザとの距離は狭まっている!タタミ六枚!「よく狙えよ……」タタミ五枚!「おれもお前を」タタミ四枚!「狙っているからな……」タタミ三枚!「……ウオーッ!」投げるというよりも、叩きつけるような軌道のクナイ!

ワザマエ判定……3,4,4,5で成功。

ニンジャの手から離れたクナイが襲撃者の額に突き刺さる!クローンヤクザの勢いは止まらない!タタミ二枚!「……やはりセンセイのようにはいかないか」遂に両者の距離はタタミ一枚!ノーマーシーは往来ですれ違う人に道を譲るように奥ゆかしく脇に退くとクローンヤクザが通り過ぎるのを見送った……。

「……アバッ」前方から襲撃者の断末魔と、床に倒れる音が聞こえた。クローンヤクザを仕留める度に両手を合わせて祈っていた時期が自分にもあったことを思い出す。うつ伏せに倒れたクローンヤクザを蹴飛ばして仰向けにして額に刺さったクナイを回収する。「通路の真ん中で寝るんじゃない。邪魔だ」

この個体は見るからに装備が貧弱だ。一見して略奪できそうな金品は持ってなさそうである。時間があれば念入りに確認してもいいが今はそれどころではない。自分の他にも同じようなサンシタニンジャ達がマグロを巡って今まさにダンジョンを攻略中なのだ。それに一刻も早く地上に戻りたいというのもある。

(寒い、寒い、実際寒い……)クナイの汚れを手早く拭き取り、ノーマーシーは先を急ぐことにした。クローンヤクザが単独で徘徊するような区画ならば、既に本格的な探索チームが金目のモノを奪いつくしているだろう。通路の構造とドアの位置だけ記録して、思い切って更に奥へ奥へと突き進むことにした。

……それから、どれほど走り続けただろうか。体を覆う冷気が更に強くなったように感じてノーマーシーは思わず足を止めた。ニンジャ第六感がもたらす悪寒ではない。実際に寒いのだ。壁沿いの謎めいた配管も密度を増している。冷凍倉庫エリアに辿り着いたのであろうか?前方には誘導灯が生きている。

四角い枠の中にドアをくぐる人間のシルエットが描かれた、見慣れた意匠の誘導灯だ。これを辿れば出口は問題なく見つかるであろう。安堵の溜息が漏れるのを止められなかった。D6に今の位置情報を記録する。目当ての冷凍マグロがあろうと無かろうと、数時間後にはここに戻って来なければならないのだ。


ここからの探索は慎重に動かねばなるまい。D6の残存バッテリーも残り半分に近い。何より、空腹と寒さがサンシタニンジャの気力を蝕み始めている。マグロを発見したとて、復路で倒れれば犬死にである。まずは行動の指針を立てなければ。……その時である。突き当りのT字路を何者かが横切ったのだ。

(誰だ?まさかオバケではあるまい。おれと同じように送り込まれたニンジャか?)ニンジャ視力が捉えたおぼろげな人影は、しっかりとした防寒着を着込んでいるように見えた。それでいて盗掘団のメンバーのような物騒な装備は確認できなかった。ここに住むと言われる世捨て人、あるいは狂人であろうか。

ここの住人ならば周辺に財宝が残っていそうな部屋にも詳しいだろう。ならばインタビューだ。少し手荒になるかもしれないがニンジャがモータルに気兼ねすることはあるまい。しかし彼の足は動かなかった。かつては自分もモータルであった。身勝手なニンジャどもに襲われ、命を奪われるその夜までは……。

(惰弱だ。怯懦だ。救いがたいセンチメントだ……)しかし、それでも彼には罪の無いモータルを苛んで自らに課せられた使命を果たそうと心を決めることが出来なかった。襲い掛かるクローンヤクザを返り討ちにすることには慣れた。武装アナキスト集団と化した市民を手に掛けたこともある。……それでも。

(センセイ、やはりおれはいつまで経ってもサンシタニンジャのままです。おれは落第ニンジャです……)視界が滲むが、ニンジャに涙は許されない。上を向いて堪えようとした彼の視界に灰色の古ぼけたパネルが現れた。壁に掛けられた案内板である!経年劣化か、住人あるいは先駆者による毀損が著しい。

そこから断片的に読み取れる情報には、この先にUNIX室があることが示されている。これはブッダチャンスかもしれない。それも垂らされた蜘蛛の糸に縋るようなチャンス。

>選択肢1:旧世紀UNIXを探してハッキングし、周辺情報を得る

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?