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[読書の記録]酒井順子『オリーブの罠』(2016-02-22読了)

 ライター酒井順子さんの2014年著『オリーブの罠』(講談社現代新書)を読んだ。

 山崎まどかさんの手になる『オリーブ少女ライフ』が私小説/エッセイ風味だったのに対し、客観的に言説分析をしていく比較的アカデミック寄りの内容だったように思う。

 サーフ⇒リセエンヌ礼賛⇒リセ/付属校カルチャー啓蒙 という、全盛期オリーブのコンテンツの変遷が良く分かったし、タイトルにもなっている「オリーブの罠」というのは、「モテの放棄」だったのだという結論にも納得がいった。

 ツッパリカルチャーがまだまだ力を保ち、バブルの萌芽さえ感じられる時代に、古着mixコーデネートで身を固め、当時オシャレ未開の地であった代官山のアンティークショップに出入りし、フランス文学やジャズ、小津安二郎の映画等について語り合う(いわゆるSavvyなかんじ)という乙女ワールドが、身内盛り上がり的な巨大な趨勢を持った理屈は理解できるし、マガジンハウスの巧みなマーケティングであったと思う。
 カルチャーとは、常に他者の属性との差分で語られるわけで、ひとつの文化圏が新しく立ち上がるときは、セミクローズなほうがある意味で勢いがつきやすいのだろう。
 したがって、「オリーブ少女」は本性的にオルタナティブな存在であり、男ウケは二の次であった。(少なくとも表面的には・・・だからこそカリスマ読者モデル栗本美和子と若乃花との結婚は衝撃をもって受け入れられたわけだ)

 オリーブが大切にしていた一種の教養主義≒Savvyな感覚というのは、同時期のベストセラー『なんとなく、クリスタル』ともリンクしているし、ゼロ年代に入ってからも、山崎まどかさんが同誌に連載した『東京プリンセス』においても表現されていた。
 つまり内面を鍛え、カルチャーに通暁した乙女にこそ手に入るアウラをまとえと指南しているわけだ。

 さて、ここで、某ブログで見つけたメンズオシャレ指南分類マトリクスなるものを紹介したい。


(出典:elastic)


 これ、見ての通りお金・時間のかける・かけない軸でオシャレの方向性を4分類している。
 もちろん、メンズ向けに作られている分類なのでこれがそのままレディースにも当てはまるわけはないが、あえて女性ファッション誌に敷衍すると、Ⅲコンテクスト教に当てはまるものが、2016年現在アクティブな雑誌の中では無いのではないか、と思い至る。
 Ⅰは、それこそ装苑だのSPURだのといったハイエンド/モード系があてはまるだろうし、ⅡとⅣの時間をかけないクラスタは、赤文字系を中心としたリアルクローズ雑誌群が、扱う価格帯のスペクトラムをもって分布していそうだ。

 そのいっぽうでⅢは、elasticにおける解説を引用すると、

バイク、サーフィン、ロック、スケート、登山など特定のカルチャーやライフスタイルを背景としたお洒落(大半がアメカジ)。 ブランドどうこうよりも思想や価値観などの理解が必要であり、 服装が板に付くまで時間がかかります。指南はいかにオリジナルに近づくかと言う背景の話が多く (当時のエポックメイキングな出来事、その時代の感覚や空気がどうだとか)、 お洒落よりむしろカルチャー語りの脱線の方がメインとも言えます。 また服が体に馴染んでいるか(使い込まれているか)という点からメンテナンスの話も多いです。

elastic

とされている。
 要はウンチク重視のLightningだとかFree and Easy(休刊しましたね…)スタイルであるが、現在アクティブな女性ファッション誌の中でこの属性を持つ雑誌はない、もしくは極めて少ないのではないか、と思うのだ。
 女性誌の中でライフスタイルドリブンというと、まずKunelやFRAUなどオーガニックBBAご用達誌が思い浮かぶが、これらは「ファッション誌」ではないだろう。
 ファッション誌の中でカルチャー重視なものを強いてあげるならば、「Fudge」や「Cluel」は近いかもしれないが、毎号ドーバー海峡を跨いでフレンチとブリットを往復している感じなので一貫性は薄い。
 オリーブと同じ発行元の『Ginza』も男性誌的な字の多さが特徴ではあるが、ハイエンド寄りだし文化的には雑食な感じだ。

 山の手付属校のお嬢にせよリセにせよ、想定読者が属する特定の文化圏を揺るぎなく強調し、常にそこを参照したリーズナブルな服装術を提案するという意味において、オリーブは特異な存在だったのだなぁ、と思う。
 私がやたらオリーブに惹かれるのも、日本の可愛いカルチャーの源流だとか雑誌信仰世代の原点だとかそういう文化史的な意味合い以上に、何よりウンチクありきの一見さんお断り的なコンテクスト教の臭いを感じるからではないかと思った。

 なんか冗長になったが、まぁそういうこと。

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