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Dilla studies

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ご覧いただきありがとうございます。いま私的プロジェクトでJ Dillaに関するZINEを作っているので、執筆のモチベーション維持のために原稿のパーツができ次第シェアしていくという…
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J Dilla聖地巡礼地図(3):ロサンゼルス編

イントロ ロサンゼルスはこれまでみてきたデトロイト、ニューヨークと比べて温暖で穏やかな気候を特徴としている。逆に他の2都市の気候が厳しすぎるともいえる(特に冬は)。Jディラがこの街に引っ越したのは2004年のはじめで、死因となった狼瘡の症状が出始めてからすでに1年以上が経過していた。そこで、年間を通して暖かく、雨も少ない環境で体力の回復をはかりたいという目的が第一にあった。  もちろんロサンゼルスは多くの映画制作会社やレコード会社が本社を置くエンターテイメントの街でもあり、

J Dilla聖地巡礼地図(2):ニューヨーク編

イントロ 『Dilla Time』でも繰り返し強調されている通り、Jディラが音楽活動を始めた1990年代初頭のヒップホップといえば完全にニューヨークあるいはロサンゼルスのものであり、まだまだ地域性が強い音楽だった。音楽面ではDJプレミアやピートロックといったニューヨークのビートメーカーの影響が色濃い初期Jディラ(ジェイ・ディー時代)が、活動を本格化するにつれて拠点を徐々にこの都市に移していくのは必然だった。  デトロイト育ちのJディラがニューヨークと縁を持つことになったき

🍩J Dillaをよりよく知るためのAtoZ

はじめに 本記事では、J Dilla / ジェイディラや、Jay Dee / ジェイディーなどの呼び名で知られているアメリカ人の音楽家(以降ディラと記す)の生涯と音楽に関連する豆知識的なトピックを25個のアルファベットごとに1つずつ選定し、概説した。Aから順に並べているだけなので、トピックの内容に前後の繋がりは無い。また、順番はバラバラに書いたので、情報の重複や相互参照の欠落には目を瞑ってもらいたい。  ディラの本名はJames Dewitt Yanceyといい、1974年2

[読書の記録] Dan Charnas "Dilla Time: The Life and Afterlife of J Dilla, the Hip-Hop Producer Who Reinvented Rhythm" (2023.06.22読了)

 著者のダン・チャナスはニューヨーク大学ティッシュ芸術校で教鞭をとる音楽史の研究者だ。特にヒップホップの歴史を商業的な側面から読み解く研究を専門としており、主著にはヒップホップビジネスの一大年代記である”The Big Payback”(2010, Berkeley)がある。  本書は、チャナスが巧みなストーリーテリングの技法を駆使して、Jディラ(本名James Dewitt Yancey 1974年-2006年)の人生を切り口に、ポピュラー音楽におけるリズムの進化史について

J Dilla聖地巡礼地図(1):デトロイト編

イントロデトロイトは2020年時点で人口約439万人という米国中西部の大都市で、Jディラ出生の地である。ダン・チャナスによる評伝『Dilla Time』は、はじまりの場所としてのデトロイトをたいへん重視しており、同書はデトロイトの発展史に関する詳細な記述からはじまる(第2章)。  エミネムを筆頭に、D12、ビッグ・ショーン、ダニー・ブラウン、ティー・グリズリーら、いまや多くの著名ヒップホップアクトを輩出する街となったデトロイトだが、Jディラがキャリアを開始した1990年代

Jay Deeの未発売ビート集『Another Batch』(1998)について

 以前、ジェイ・ディラ/J DillaについてA to Zのエンサイクロペディア方式で紹介した記事を作った。そちらは主に伝記的な内容で埋まってしまったので、今回は彼の音楽的特徴を凝縮した未発売のビート・テープについて紹介してみたいと思う。  ジェイ・ディラが残した生涯最高傑作は何だろうか?録音芸術としての完成度や、プロデューサーとして関わった楽曲のセールスの観点などから選んでも、いろいろな作品があげられるだろうが、現在に至るまで各所でみられる影響力という点で、1998年、彼