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オムツ卒業に寄せて

その夜,

「あーちゃん,もうお姉さんだから,オムツいらない」と,3歳の子どもが高らかに宣言した。3歳になる子どもは2歳になった頃には紙オムツを卒業していたが,時々,おもらしを夜間にするのでこの夏だけ紙オムツを履いていた。

 「え?そうですか。わかった」と,内心は「おいおい,そう言っておもらししてんじゃん」と思いながら,3歳の自尊心を傷つけてはいけない。なので,母であり,発達の専門家たるわたしは快諾した。

翌朝,「ママ!ほら!あーちゃん,言ったでしょ!おもらししてないよ!」と,誇らしげに起きて来た。

わたしは,ああ,オムツからの卒業を自分で決めるってこんなにあっけなく,そして,子どもにとって最大の達成感をもたらし,また自信をつけるものなのだと,理解した。

そして,母である自分の利便性(防水シートを引いているけれど,シートの切れ目におねしょをするのでここ3ヵ月ほど紙パンツを復活させていたという母の都合と怠慢だ)だけで,子どもの自立を阻害してはならぬと悟った。

そう,子どもの自立というのは,自律である。自立とは,経済的自立や精神的自立のニュアンスがあるが,自律には,排泄(オムツを卒業してトイレでできる)や食事(自分でお箸で食べられる)など,年齢に応じた身体的機能の成熟の意味がある。このあーちゃんのように,身体機能の成熟は,精神的自立に繋がるのである。

であるがしかし!さっきも書いたように,つい自分の利便性を優先して,子どもの自立を阻害しようとしてしまう自分がいる。「それ,お母さんの都合ですよ」と,何度,子どもの発達相談で,ちらりとそして婉曲にお母さんたちにお伝えしてきたことか・・・。

 「それ,みたことか。自分ではできないことを人に言えるなんて」と,葛藤するが,心理士として伝えなければいけないことなので,はっきりと伝える。心理士は,自分の思いや思想とは別に,自分の思想をどこか棚上げして,伝えるべきことは伝えねばならないのだ。それが心理士であると,教育されてきた。

時折,3歳児健診に心理判定員として出勤していると,身体測定会場でオムツをしている子どもさんに出合う。お母さんたちは,一様に「外出の時だけ履かせています。普段は布パンツです」と申し訳なさそうに言う。わかるよ,うんうん。でも,それ,子どもの自立を遅くしているかもよ・・・。

厳しい幼稚園だと,3歳の年少さん入園時にオムツが取れていないと,入園ができないところもある。だが,大抵の園は,オムツが取れていなくても入園を許可しているところが多い。だもので,園によって違い,とても心配しているお母さんとまったく頓着しないお母さんに別れる。

また,アジアは欧米に比べてオムツ外しの年齢が早いというデータがあるが,わたしが学生だった20年前から日本のオムツ外しの時期が遅くなっていることが話題になっていた。

確かに,わたしが法で定められている乳幼児健診に従事するようになった10年以上前の時から,3歳児健診でも紙パンツもたまに見かけていた。子どもと言葉で意思疎通ができるようになってから,子どもがオムツを辞めたいと言うのを待ってからオムツを外した方が速くパンツに移行できるという説もある。

 保育園の場合,トイレットトレーニング(以下,トイトレ)を1歳半頃から始めるので(4月生まれの子もいれば3月生まれの子もいるので,その子の発達に合わせてすすめるが),4月の年長児のトイトレが始まると年下の早生まれの子もつられてやりたがる。

だから,保育園に0~2歳の未満児(3歳未満の子どもをそう区分する)の内に入園させると,お母さんたちは園と一緒にトイトレが完了できて非常に助かるシステムだ。もちろん,わたしも3人ともこの保育園との共同トイトレで助かっちゃった部類だ。

このように,オムツ外しの時期は,親のスタンス,文化や国など,子育ての環境によって異なり一様ではない。けれども,身辺自律は精神的自立に繋がるので,年齢と子どもの個性に見合ったオムツ外しの時期は確実にある。オムツ外しのタイミングは,子どもを丁寧に観察しているとサインがあるのでわかる。このことは,また別に書こう。

だけども,この保育園でのトイトレは助かる反面,オムツの取れていない未満児が保育園に通うことは親にとっては少々の労力がいる。というのも,使用した紙オムツの処理問題があるからだ。

園によってこの使用済みオムツの処理は違っている。わたしの経験では,①使用済み紙パンツは持ち帰り,②レンタル布オムツなので持ち帰りなし,③使用済み紙パンツは園で処理

という3パターンがあった。

①は公立の保育園でのことで,年齢によって枚数が異なるが,0歳の初めの頃は一日8枚くらいのテープ式の紙パンツを毎日名前を書いて持参し,お迎えの時に持ち帰っていたので,保育園バックはずっしりと重かった。あまりに重たいので,途中のスーパーのゴミ箱に捨てる人もいるらしく,「家庭用のゴミ,オムツは捨てないでください」という張り紙もよく見かけた。

②は私立の保育園で,ここはレンタル布オムツを採用していた。布オムツうんぬんは,長くなるのでまた別のページにまとめようと思うが,家では布オムツを使っていたので,このレンタルオムツシステムは非常に助かった。レンタル代も月800円くらいだった。

③は②とは別の私立の保育園で,3歳の子どもが現在通っている保育園だ。1歳4月入園だったのでオムツは取れておらず,紙パンツにお名前を書いて1日5枚補填していた。園によってはオムツの54枚入りパック(結構重い)をロッカーに入れていてもいいところがあるが,場所を取るので,毎日持参した。レンタル布オムツは衛生を考えて採用はしていないとのことで,家では布オムツ,園では紙オムツだった。

このように,オムツ持ち帰り事情は園によって違うし,もっと言えば,国によっても違うらしい。フランスの子育て事情を書いた本「なぜフランスでは子どもが増えるのか」(中島さおり著)によると,フランスでは使用済み紙パンツの持ち帰りはないそうだ。嗚呼,とことん,フランスって少子化対策に親の子育て負担をかけないスタンスなのね!

☝12000円?びっくり。古書でいいじゃん・・・。図書館のリクエストサービスで読めるじゃないかぁ。

こうして,娘は1歳の終わり頃にはトイトレが始まって,2歳クラスになると分厚くておもらししてもOKなトレーニングパンツを卒業して,普通の薄さの「お姉さんパンツ」に移行した。お昼寝の時だけ,紙パンツを履く時もあるが,紙パンツを履かない日が多いので,紙パンツは減らなかった。

そして,今,ついに,紙パンツを買うことから卒業がやってきた!やった!母は嬉しい!そして,少し寂しい。ああ,もう,赤ちゃんじゃなくて,幼児さんなんだな,と実感するからだ。

だがしかし!子どもはそんな親のおセンチな心情なんぞ無視して,どんどん活動範囲を広げて外へ外へと向かって自立していく。それが成長だ。

外の世界に立ち向かうための準備期間が子ども時代だ。安心して,親の期待を裏切って,のびやかに外へ向かって欲しい。親のことなんて忘れたみたいな顔して,外へ向かえばいいのだ。自分の心は痛くても,子どもの自立を引き留める親にだけはなりたくないなと思うのだ。


 





論文や所見書き、心理面接にまみれているカシ丸の言葉の力で、読んだ人をほっとエンパワメントできたら嬉しく思います。