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マドレーヌ

九月末で退職する女性からマドレーヌを貰ったので、わたしはお礼のつもりで「パンがなければマドレーヌを食べればいいんだよね」と言った。

でも、言いながら、(そうじゃない、マドレーヌはプルーストだろう)と心の片隅で叫ぶ声が聞こえた。

マリー・アントワネットは「ブリオッシュを食べればいいじゃない」と言ったのだ。

しかもそれはケストナーが『点子ちゃんとアントン』の中で語ったおとぎ話で、そんな史実はないのだった。

マドレーヌはプルーストの『失われた時を求めて』の重要な小道具のひとつである。過去を思い出すきっかけとして物語の初めのほうに現れる。

紅茶に浸して食べたら過去の記憶が突然思い出されてくるのだろうか、とぼんやり考えていたら、再び彼女が現れて、今度はフィヤージュ(葉っぱ型のお菓子)を渡された。

(今度はO.ヘンリー?)と思ったが二枚入りだったから違うだろう。

渡された紙の袋には「Merci(ありがとう)」とフランス語で書かれてあった。


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