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売買交渉の裏側:古ビルの1年

最後の入居者との退去交渉


よく言えば歴史の息吹を感じる、否定的に捉えれば古びたビル。
私たちの会社が昨年、その売買仲介に関わったのがこの話の始まりだ。
人々はしばしば"売買"という言葉の持つ表面的な意味にだけ目を向けがちだけど、その裏には入居者との難解な交渉が隠れている場合があることを理解する必要がある。

今回の取引は、最後の入居者との退去交渉まで、1年という時間を要した。
その最後の入居者からは、必要な退去書面は無事にゲットし、転居費用と賃料は無償にするという手続きも整えた。
これで万全、と胸を撫で下ろしていたのだが…

ところが


期日が来ても、入居者は一向に退去の気配を見せない。
さらには、賃貸人に対して不法だと主張。
そこから、弁護士を介した訴訟が始まった。
その結果はもちろん、賃貸人が全面勝訴。
賃借人はすでに退去に承諾していたため、不法占拠者とされたからだ。
それまでの賃料は、最終的な判決、その後の和解時に支払われたものの、売買が遅延したことによる損害賠償は一切行われなかった。
係争中は賃借人も徹底抗戦の姿勢だったし、その間は何の支払いも行われなかった。
最後の最後になって退去して、未払い家賃を精算しただけであり、それ以外のことについては補償も謝罪もない。
僕たちも、ただただ泣き寝入りするしかなかった。

1年遅れたために事業化も遅れた

裁判というのは本当に時間がかかるもので、1ヶ月毎にしか事が進まない。
その間、取引そのものが白紙撤回される恐れも十分にあった。
購入者はこの古ビルを取り壊し、新たな分譲開発を予定しており、そのスケジュールが進まない場合は、違約金無しで撤回となる旨の特約となっていたからだ。
そして上記のように入居者が退去しないため、古ビルの引渡しが出来ず、分譲開発の事業化が1年遅れてしまった。

驚いたことに

なんと、その入居者は一部上場企業だったのだ。
コンプライアンスを遵守するとされる企業がそんなふるまいをするなんて信じられなった。
今回の遅延で、関係者全員が本当に深い不利益を被った。
裁判費用も無駄な出費だった。

こんなことってあるのか、と驚き、決済の日を迎えるまで安心できなかった。

そうして全てが終わったとき、強烈な精神疲労感が襲った。
ここ数日間も、何度寝ても疲れが抜けない。
でも、この経験が、新たなビジネスの現場で僕たちに何を教えてくれるのか、それを見つけ出すのも僕たちの仕事だ。

とはいえ、不動産売買だけでなく、交渉の難しさと、その後の精神的なダメージは全てのビジネスに共通しているのかもしれない。



<記事を書いた不動産会社>
合同会社カレン
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