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あなたの組織の症状は?~その2キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講(29)

 先回に引き続き、M.F.R.ケッツ・ド・ブリースとC.ミラーの「神経症組織」(亀田ブックサービス刊、1995年)から、精神分析学的経営組織論を「あなたの組織の症状は?」と題してお伝えします。
 ケッツとミラーは、精神医学の世界で得られた知見、フレームワークを経営組織の中で応用し、機能不全に陥っている組織の症状を5つに分類しました。
 先週はその中の妄想症組織と強迫神経症組織でした。
 思い当たる節はありましたか?
 それでは残りの3つの組織を・・・
 (なお、用語は「神経症組織」での記述を引用しています)

★躁病組織

<躁病>
☆性格特徴☆
 自己の劇化(ヒロイズム)、感情の極度の表出、自己に対して不断に注意を引くこと、自己愛的な没頭、活動・刺激の渇望、他者を理想化したり評価を下げたりの繰り返し、搾取、注意散漫
☆幻想☆
 私の人生に重きをなす人から注目されたいし、その人たちを深く感動させたい
☆危険性☆
 皮相的、被暗示性、実際には存在しない世界で仕事をする危険-すなわち予感に基づいた行動、些細なことに対する過剰反応、他人が役に立つと感じたり、役に立たないと感じたりする可能性

 業績不振に陥りつつある組織では、特に経営層に神経症の5つのタイプのうちの1つが強まり、それが組織全体へ影響し、組織の機能不全を招くというのがケッツやミラーの考え方でした。
 躁病組織ではどのようなことが起こるのでしょうか?

 躁病の会社は活動過多で衝動的、きわめて冒険好きで、危険なまでに抑制が効かなくなります。
 より多くの人から注目されたい、感動させたいという経営者の、勘と経験に基づくひらめきで、さまざまな、場合によっては全く関係のなかったサービスや製品、市場に、手当たり次第に取り組んでいきます。
 ひらめきを持つのは一部の人間(多くの場合は経営者)に限られますから、その人に意志決定をゆだねることが多く、権限が集中することになります。
 なぜなら論理的、客観的な帰結ではなく、「ひらめき」が主体ですから、他の人が代わって行うことができないからです。
 それがまた向こう見ずな多角化に歯止めをかけられない原因になります。
 躁病組織の経営者のひらめきは、人から注目されたいというところに根ざすものですが、あくまでも本人の捉え方であって、マーケットのニーズを満たすものではなく、経営者が勝手に「こういう市場があるはずだ」(実在しない世界)という思いこみで戦略を展開することになり、それが一貫性のない野放図な投資を招くことになります。
 こうした結果、経営者にさまざまな事業の意志決定が迫られるようになり、ひらめきを生む経営者は個々の判断への注意が散漫になります。
 重要な判断が、浅い状況分析のままで、鶴の一声でなされてしまうようになります。
 この時点では重役やスタッフは経営者が何をしようと考えているかはもう分からない、とにかくいわれたことにその場その場で対応するしかないと思っているので、次々と打ち出される、どちらかというと脈絡のない、朝令暮改も少なくない組織の状態に対応することに没頭してしまい、結果として彼らも直感で動くようになってしまいます。
 躁病組織では皆が忙しく立ち振る舞っていますが、その忙しさとは「忙殺される」というにふさわしい忙しさであり、建設的なものではないのです。
 やたらとにぎやかで、活気もあるのだけれども、それが業績には必ずしもリンクしていなくて、多くのものが無駄に終わっているような感じなのです。

<妄想症組織の特徴>
☆潜在的な強み☆
 会社の創業期の困難を乗り越えられる勢いがあること
 疲弊した会社を活性化するのに適したアイデアのあること
☆潜在的弱み☆
 一貫しない戦略によって極めて高いリスクが発生し、資源が不必要に無駄に使われること
 肥大化した組織の管理運営と収益性の改善に問題が生じること
 性急で危険な拡大政策が見られること
 二番目の階層の役員に適切な役割が与えられないこと

 かつて関与したソフトハウスは折からの技術者派遣のニーズ拡大を受けて、どんどん発展していた時期にありました。
 株式公開を視野に入れた創業者でありオーナーであった経営者は本業の技術者派遣だけでなく、受託開発、ハードウエアの販売へと事業を広げ、さらには業界団体のとりまとめ役を買ってでるなど、それこそ八面六臂の活躍でした。
 しかし、役員層はそれについていくことができず、担当している事業分野を経営者から発破をかけられながら何とかとりまとめているという状況でした。
 広がる事業領域に対応するため、新入社員を既存社員の20%に相当するくらい採用するという時期もありましたが、バブル崩壊で技術者派遣事業が一気に冷え込んでしまい、その後何度かにわたって整理解雇をすることになってしまいました。
 まさに躁病組織であったと思います。

★鬱病組織

<鬱病>
☆性格特徴☆
 罪悪感、無益感、自責感、不全感、諦め感と希望喪失-事の成り行き任せ、明晰な思考の欠落、興味と動機の喪失、禁欲性
☆幻想☆
 私の人生の出来事の道筋を変えるという気持ちはない、私は有能ではない
☆危険性☆
 過度に悲観的な見通し、注意散漫、業績達成の困難、活動の停止、優柔不断

 鬱病の組織は、極度の消極性と、無目的感に覆われ、不活発、自身の欠如、極端な保守主義、官僚制に裏打ちされた狭量さという特徴を持ちます。
 全てがプログラム化、マニュアル化され、そこで働く人の創造性などは要求しません。
 多くの場合、同じ技術で、同じ消費者の好みに応え、同じような競争のパターンができあがっている業界、談合、馴れ合いなど、「何事も協議によって決める体質」がある業界に存在するとされています。
 なにも変わらない、変えられないので、鬱病組織は官僚主義的になり、ほとんど自動的に組織が運用されていきます。
 躁病組織とは対極的に、新たな市場に出ることもありませんし、ひらめきのあるリーダーがひっぱっていくようなこともありません。
 変わらない市場、変わらないサービスで自動的に動いていける組織なので、その意味ではリーダー不在でも構わないのです。
 変革を起こそうとすると、かえって大きな抵抗に直面することになります。
 重役陣にはあきらめと無気力が蔓延し、中間管理職も組織を再活性化させる手段があるとは感じません。
 それでも変えようとする人たちは、その壁の厚さを前にして、やがてほかの組織へ(自分にあった風土の組織へ)移っていくことになります。

<鬱病組織の特徴>
☆潜在的な強み☆
 組織の内部の運営が効率的であること
 戦略がはっきりしていること
☆潜在的弱み☆
 戦略が時代錯誤的で、組織が停滞していること
 成長の可能性がないマーケットにしがみついていること
 魅力のない製品ラインアップのために、市場競争においてひ弱な組織力しかないこと
 管理者が不活発で無気力であること

 鬱病組織のコンサルテーションに入ったことはありません。
 なぜなら、コンサルテーションとは変革を迫るものだからです。
 熱意のある担当者の依頼によりとともに提案書を作ってみても、「検討中」で長い間待たされ、やがて忘れ去られているという経験が数社でありますが、確かにそれらはケッツとミラーが指摘しているとおり、既得権益で守られた業界でした。

★分裂病質の組織

<分裂病質>
☆性格特徴☆
 孤立、無関与、退却、疎遠な感覚、無感動、賞賛や非難に無関心、現在や将来に興味がない、冷たく無感情な外見
☆幻想☆
 現実の世界は私になんの満足も与えない、他人と交流することは結局うまくいかなくなって傷つく、だから、距離をとっていれば安全だ
☆危険性☆
 感情的な孤立が他者の依存欲求を満たさないことにつながる、当惑と攻撃性が結果として生じるかもしれない

 分裂病組織のトップは優柔不断で影が薄く、権力が分散し、ほとんどの意志決定がトップの次にくる役員たちによって行われます。
 しかも役員たちの間には個人の目標達成や、そのための権力抗争、政治的駆け引きが横行しています。
 この結果、内部抗争の連続に終始するか、あるいは部署間が隔絶あるいは非協力的な縄張り意識をむき出しした状態にあります。
 このようなことなので、情報は権力を支える資源となり、本来の目的のために活用されることは期待できません。
 それぞれのセクションが、お互いに連係を取り合うことなく独自にサービスや商品の提供をおこなうため、市場の変化に対して全く変化しないか、あるいは脈絡のないものとなってしまいます。

<分裂病質の組織の特徴>
☆潜在的な強み☆
 トップの次の階層の役員たちが、戦略の策定を分担すること。
 それによって多様な観点が戦略に反映される
☆潜在的弱み☆
 戦略に一貫性がなく、変動が大きいこと
 現実よりも政治的な駆け引きによって物事が決定されること
 リーダーシップの不在
 疑惑と不信の風土が組織内に蔓延し、互いに強調できないこと

 これがまさに分裂病組織-という組織に関わった経験はありません。
 いってみたいような、でも関わるときっとヒアリングの段階から大変なことになってしまいそうだなぁという予感がします。

★診断したらどうするの?

 ケッツとミラーは、健全な組織とは多様なパーソナリティーを持つ重役によって構成されるべきであるとしています。
 先に挙げた5つのタイプの組織は、重役が共同幻想に陥っていることで機能不全に陥っているのです。
 「組織は変わらない、変えようがない」「どんな些細な外部環境の変化でもすぐに対応しなければならない」「俺たちは何でも上手くやってきたし、これからもうまくいく」‥‥いろんな幻想、思いこみに重役たちが揃ってとりつかれているというわけです。
 これを解消するためには、本当の姿に気がつかせることが必要だといいます。
 その方法は、討論を通じてきちんと現状認識をさせること。
 つまり、思いこみであることに気づかせることだといいます。

 現実問題として、経営層がきちんと現状認識を持つことはとても大切なことです。
 多くの場合、自分たちに問題があるのではなく環境や社員の方に問題があると思っていますから、変革を進めていこうとするならば、今の組織の状態を招いたものはなんであるかを、因果が分かるように、データなども使ってきちんと伝える必要がありますね。

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