キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事講座(21)攻撃は最大の防御

 人事屋さんの愛読書「労政時報」3636号に、少し古いのですが東京労働局が2004年に行った「ほっとウィークアンケート」の結果が出ています(註:今にしてみれば、ちょっと古いどころか相当古い‥‥)。内容は夏休みの長さや過ごし方に関わるものですが気になる記事が一つありました。「仕事ぶりと年休取得率から見た4人の部下の評価傾向」というものです。
 仕事ぶり(目標達成率)と年休の取得率から順位をつけるというもので、

部下A「目標達成度100%、年休取得率100%」
部下B「目標達成度100%、年休取得率 30%」
部下C「目標達成度 70%、年休取得率100%」
部下D「目標達成度 70%、年休取得率 30%」

 の、4人の部下がいます。この人たちに序列をつけます。1位だったのはどの部下でしょう?
 調査結果では

部下Aが1位である・・・78.8%
部下Bが1位である・・・19.8%
部下Cが1位である・・・ 0.5%
部下Dが1位である・・・ 0.9%

 でした。休みもきっちり取って、目標を達成しているというのがよいというわけですね。一昔前なら、Bさんの方が「目標を達成したからといって休むんではなくて、次の期に向けて顧客への浸透を深めたり、あるいは他の人を支援したりするのがいい社員だ」ということで評価されたような気もします。理解のある上司が増えたのでしょうか?
 ちなみに、4位を見ると

部下Aが4位である・・・ 0.6%
部下Bが4位である・・・ 3.5%
部下Cが4位である・・・42.8%
部下Dが4位である・・・53.1%

 目標未達なのに休んでいる奴はゆるせん! ということになるのかと思えば、意外! 目標未達でも年休を100%取得している方が、休んでいない人よりも評価されるんですね。いたっていなくったて同じなんだったら、目の前にいない方がよいということなんでしょうか?(冗談です)
 調査対象が、労働基準監督署が行った説明会などに出席した人なので管理職とは限らないからなのかもしれません。なにせ、部下Aでも4位だという人が0.6%はいるのですから。
 それにしても、上司によってばらつきはあるものです。あ~ぁ、これだからなぁ、部下はつらいよ‥‥とお嘆きのあなた。今回は上司についてです。

★Managing Up!

 カウンセリングの場面でもよくあるのですね。うちの上司は・・・という話。しかし、上司は○○してくれないということを、いくら言いつのってみても、あまりよい展開にはなりません。交流分析ではよくいわれますね、「過去と他人は変えられない」。「何かの拍子に上司が悔い改めてよくなってくれる」というのはクリスマスにサンタクロースからのプレゼントを待つのと同じくらい難しいことだと思いませんか?
 では何ができるのか? それがManaging Upです。受け身ではなく、自分から上司との関係を変えていくのです。攻撃は最大の防御、先手必勝です。
 たとえば、先の休みの件にしても、いきなり休んでいいですかと聞くのと(さすがにそんな人はいない?)、進捗状況を説明してから切り出すのとでは結果は違ってきます。そんなことはやっている! でもうまくいかない! という声もありそうですね。そうです。こうやればうまくいくというのはありません。相手次第でやり方は変えなければいけないんです。場合によっては、あるいは上司の機嫌によっては、やり方を変えなければいけないということもあるかもしれません。
 いずれにしても必要なのは次の2つ。

 1)上司を観察すること。
 2)いろんな手立てを持っておくこと

 まず2の方から言えば、どんなときでも誰にでも通じる策はありません。そんな方法があるのならみんな使っています。書店に行ってみてください。 「上司学」だとか「こんな上司の部下になりたいといわせる法」など様々な、管理職のための本が出ています。これは意外と使えます。そうしたものを読むことで、上司がどのような思考プロセスを経るのかが分かります。それに管理職のための本といっても、コミュニケーションのことは必ず触れています。ハウツーみたいなものもあるでしょうし、ちょっとトレーニングをしな
ければ難しいのもあるでしょう。これならできるかもしれないというものから身に付けてみてはいかがでしょうか? 自分を変える努力をしないでおいて、相手が変わってくれるのを待つのは虫がよすぎます。
 身に付けたら試してみましょう。その時カギになるのは1です。そう、上司を観察すること。
 学生の時、こんな経験ありませんでしたか? 「あぁ、試験が近いから勉強しなくちゃなぁ。よし、次のCMになったら消そう」と思いながらテレビを見ているとき、親に「○○ちゃん、試験近いんじゃないの? いいの? テレビ見てて!」といわれて、むかっ!。分かってるよ、だから消そうと思ってんじゃないか・・ぶつぶつ。言われなかったら次のCMで本当に消したかどうか分からないんだけれども、あんな言い方しなくてもと頭にくる・・・
 これも、子供の様子を見ていれば違った対応ができるんですよね。相手の状況を無視して言いたいことを一方的にいうというのはとても危険なことです。うまい方法でも上手くいかなくなってしまいます。先の休みの話でも、上司がやたらと忙しそうなのに、進捗説明なんか始めたら、「このくそ忙しいときになにいってんだ。後にしてくれ」ということになるかもしれません。
 上司を観察するには人間理解のための枠組みを知っておいた方がよい
かもしれません。分類する手がかりがないと観察しようがありませんから。そう、図書館で本を探そうというときに、図書分類を無視していきなり片っ端からタイトルを見ていくようなもんです。人間理解の枠組みとは心理学、パーソナリティ理論です。巷にはいろいろな枠組みが紹介されていますから、自分で使いやすいものを修得しておくとよいでしょう。これも一つといわずに複数持っている方がよいようです。

★ 彼を知り己を知れば百戦危うからず

 孫子は言いました。彼を知り己を知れば百戦して危うからず。上記の1と2とは、このことです。

 1=敵を知り
 2=己を知れば

ということです。
 孫子はこの後こう続けます。

 彼を知らずして己を知れば一たびは勝ち、一たびは負く。
 彼を知らずして己を知らざれば戦うごとに必ず危うし。

 なにもやらないというのは全戦全敗ということです。上司との関係は上手くいかなくて当然かもしれません。

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