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中高年フリーターについて… キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(48)

 つい先日の新聞でUFJ総合研究所の「増加する中高年フリーター ~ 少子化の隠れた一因に」が一斉に取り上げられていましたね(くどいようですが、これは2005年4月のメールニュースの記事なのでデータは古いです。ただお伝えしようとしている「センセーショナルな記事と数字には留意」という趣旨は変わらないのでそのまま掲載しました…)。
 2001年には46万人いた中高年フリーターが(これでも文字だけ見ると驚きですが)、2011年には132万人、2021年には200万人を超えるとか。
 この200万人という数字がどれだけ大きいかというと、「団塊の世代」といわれる、昭和22年~24年生まれの方々の人口が800万人強といわれていますから、その1年分弱(分かりにくい?)。
 また、最近の出生数(1年間で生まれた赤ちゃんの数)が110万人ほどですから、2年分の赤ちゃんということになります。

 レポートではこのシミュレーションから、国の税収が1兆1400億円、社会保険料が1兆900億円減少するほか、2021年のGDP(国内総生産)成長率を1.2%押し下げる要因にもなると指摘しています。
 またフリーターは所得が少ないため結婚する割合が低く、子供の出生率を年間1.0~2.1%押し下げ、少子化を加速させるなどとも指摘しています。

 これは大変 (-_-;) ?

★一言でフリーターといっても・・・

 ただ、注意しないといけないのは「フリーター」とは何か? ということです。
 このレポートで定義をするフリーターとは

1)パート、アルバイト、契約社員、派遣社員、請負など非正規の職員・従業員
2)失業中(休職中)
3)働く意志はあるが職探しをしていない者

を指しています。
 えっ? それなら自分もそうだという人は少なくないかもしれません。
 特にカウンセラーの方であれば、契約社員として掛け持ちしている方も少なくありません。
 そう、あなたもフリーター! (◎-◎)
 人事の方、あなたの隣で採用業務をしてくれている契約社員の方がいらっしゃいませんか? その方もフリーター!
 ちなみに私の父はとうの昔に定年退職して、第二の人生と勤めた会社も定年して、いまやその次の会社でアルバイトしてますが、この父もどうやらフリーターに区分されることになります。
 父よ! あなたもか!

 なんだかここまでくると、一言で「フリーター」と括ってしまうことに躊躇しませんか?

 フリーターという言葉を使い始めたのは、かもめのマークでおなじみのかのリクルートさんですね。
 そのころは高度成長期でもあって、自由な(フリーな)生活を謳歌するアルバイター、パートタイマーという、どちらかというと前向きな明るいイメージでこの名前が用いられ始めました(映画もあったんですよね)。

 ところが、最近はどちらかというとネガティブで、内閣府が2003年に発表した「国民生活白書」で、「若年フリーターが417万人」というショッキングな数字が新聞紙面などを賑わせるやいなや、フリーターが「問題」としてクローズアップされました(これ以降ややこしいので「問題」とカギ括弧を付けませんが、フリーターという生き方に関わる個人の問題と、フリーターという就労形態をとっている人が増えることによって発生する社会の問題は、別に論議をする必要があると思っています。ここで取り上げているのは後者の方ですので、敢えて「問題」と表現しました)。
 この417万人の定義は、15歳から34歳で学生と主婦を除く、

 1)パート、アルバイト(派遣などを含む)
 2)働く意志のある無職の人

を指しています。

 その後、厚生労働省では217万人という推計値を発表しています。
 200万人も違えば、大違いです。
 さては監督官庁だから少なめに見積もったのか? と邪推する方もいらっしゃいますが、こちらの「フリーター」は15歳から34歳で卒業者であって、かつ女性については未婚の人のうち

1)現在勤務している場合は、勤め先における呼称が「パート」「アルバイト」
2)勤務していない者の場合は、家事も通学もしておらず、アルバイト、パートの仕事を希望する者

を指しています。

 国民生活白書と厚生労働省との違いは、
 1)派遣社員や契約社員をフリーターに含めるかどうか
 2)正社員希望の離職者(求職者)をフリーターに含めるかどうか
という点にあります。
 国民生活白書の方は、派遣社員・契約社員については身分の保障が不安定であることを理由にフリーターに含めているようです。
 カウンセラーの方やうちの父がフリーターにはいるのは1に該当するからなのですね。
 厚生労働省統計だとフリーターではないわけです。


 では、今回の中高年フリーターについてはどうでしょうか?
 派遣社員、契約社員だけでなく、休職中の人も、働くつもりはあっても活動していない人も含まれています。
 最後の働くつもりはあっても活動していない人とは、いわゆる「NEET(ニート)」の方々と重複するであろうことがレポートでも指摘されています。
 ここまで広げて「フリーター」と呼んでしまうのは、ちょっと行きすぎのような感じがしますがいかがでしょう。

 ついでにいえば、「中高年」フリーターというとき、どのくらいの年齢層を皆さんは想像なさいますか?
 このレポートでは35歳から60歳未満を指しています(分かっていたことなんですけど、中年なんですね私も。分かっているけれどズバリ言われるとどきっとしてしまいますね。不惑を過ぎたというのに・・)

 マスコミの傾向として「大きな数字」には反応しやすいということがあります。
 えっ、こんなにいるの? という関心を高めるという意味では、数字は大きい方がよいかもしれませんが、その「問題」に取り組もうとする側から見ると、大きな迷惑ともなるのです。
 なぜなら、「問題」となれば、これを解決するための対策を考えなければならないわけですが、いろいろ括って数を増やしているために、様々な事情を持っている人が含まれてしまい、議論になりにくくなってしまうのです。
 簡単にいえば、「特殊なスキルを持っていて引く手あまたの派遣社員」と「明日のバイト先も見つからなくて困っているんだけれどまぁなんとかなるだろう、親の家もあるし」という人たちを、同じ集団と捉えて議論することになるんです。

 今回のレポート、そういう意味では「警鐘」はならしていますが、実際の議論を始める前には、もう一度、一言でフリーターと括らずにどんな階層を対象にしているのかを確認しておかなければならないということに注意しておきたいものです。

★もう一つの統計のマジック

 もう一つ、このレポートを読む上での留意点を。
 所得についての検討を行い、それが税収や経済に与える影響を予測していますが、次の点を考慮しておかないと誤解することになりかねません。

 1)フリーター(契約社員や派遣社員を含んでいることに注意)の所得を厚生労働省の「賃金構造基本調査報告」のパートタイム労働者の平均年収を用いていますが、賃金構造基本調査報告でいうところのパートタイム労働者とは「1日の労働時間が一般の労働者よりも短い、または1日の所定労働時間が一般の労働者と同じで1週の所定労働日数が一般の労働者よりも少ない」労働者を指しています。
 一般労働者と同じだけ(あるいはそれ以上に)働く契約社員や派遣社員は含まれていないことになります。
 もとより就労時間の短い人だけで算出された平均年収を用いれば、低い数字になるのは当然といえます。

 2)対比して示されている正規労働者は、これまでの通り加齢に応じて平均年収が上がっていくことを前提としています。
 しかし、このめるまがの読者の方であればお気づきのように、徐々に浸透してきている「職務給」「役割給」制度下であれば、仕事の内容が変わらない限り年収は増えませんから、加齢に応じた上昇カーブがこれからも保障されるとは限りません。
 正規雇用だから大丈夫というわけではないのです。

★フリーターという生き方の問題

 であれば、そんなに心配しなくてもよいではないかといっているのかというとそうではありません。
 先に、フリーターという生き方と、フリーターという就労形態をとる人が増えることによる社会的の問題は別である-ということを記しました。
 ここまではその社会の方の問題に触れてきたのですが、個人にとっても問題はあります。
 このレポートでも指摘されていることであり、この点こそがこのレポートの読みどころです(所得に関わるシミュレーションなら「フリーター亡国論」を読んだ方がよいと思います)。

 一つはやはり、パート・アルバイトを主体とするフリーターを無自覚に続けることはよくないということです。
 なぜなら、派遣社員や契約社員以上に活躍の場は限られているからです。
 フリーターをヤリながら職務能力を引き上げていこうとするなら、本人が主体的に仕事の内容を選択してパート・アルバイトをやっていく必要があります。
 これはかなり大変なことだと思います。

 もう一つは前項にも関係しますが、フリーターになるとその後の人生にかなりの影響をもたらすようになってきているという点です。
 内閣府が行った2003年の調査では、学校を出て最初の仕事がフリーターだった人の54.6%がその時点でもフリーターをしていました。
 正社員になっている人は31.4%です。
 一方、新卒時に正社員だった人が正社員のままでいるのは62.5%。
 フリーターになっている人は16.9%で、元からフリーターだった人に比べる3分の1以下です。

 このレポートに取り上げられている慶応大学の樋口教授らの調査では、特に男性の場合、25歳から29歳の間でフリーターであったか正社員であったかで、5年後に結婚している比率が、それぞれ28.2%と48.3%と明らかに異なっていることが分かっています。

 フリーターという選択-それは個人の生き方の問題ではあるのですが、それを安易に選ぶと、その後に大きな影響をもたらします。
 逆にいえばだからこそ、フリーターにならないような支援が若年者には必要なのです。
 この点は中高年も同じです。
 いや、中高年の方が再就職は一層難しくなりますし、なにより、中高年になってからフリーター(厚生労働省の定義の方)になることが、家族のあり方そのものを直撃することも少なくないようです。
 決して「本人の自己決定、自己責任」だといって放っておいてよいということではありません。その人がおかれている(おかれてきた)環境やその後の意向に合わせた支援の準備は必要かと思われます。

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