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『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-81

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改札

 ワカバはサオトメの勉強会に参加した翌週の土曜日の午前中にイチジョウから都内のとある駅に呼び出されていた。改札の前でイチジョウを待つワカバ。

 「よし、10分前には着いたぞ」
 イチジョウのおかげで10分前行動がすっかり身についたワカバだったが、イチジョウがまだ来ていない。

 「あれ、おっさん珍しく遅いな。自分から呼び出しておいて遅刻かよ」
 自分の立場を分かっているようで分かっていないワカバであった。腕時計をもう一度確認しようとしたら、イチジョウが階段を下りてきて、いきなり怒鳴りつけてきた。

 「おい、親方!改札を出たら地上に上がって案内板の前で待てと言ってたろ。分かりやすく改札口と地図まで送ってやってんのに、何やってんだ!」
 
 「はい、はい、そんなこともありましたねー。次から気をつけますよーだ」

 「『はい』は一回だと教えたはずだ!それに何だよ、その態度は・・・」

 「おっさん、今日はいつになくカリカリしてんなー。電車の中で切符でも落としたか」

 「いや、パスモだし、落とすわけねえ。うっかり者の親方と一緒にすんな。つうか、相変わらず会うなり、悪態ついてんじゃねえよ。全くこれだから親方は・・・」

 「はい、はい、はい、分かりましたよー。で、なんです、こんな休みの日の朝イチから」

 「それはこっちのセリフだ。あと、何度もいうが『はい』は一回な」

 「で、これから新しい勉強会に連れてってくれるんでしょ。早く行こうよ」
 
 「ちょっと待て。ここから会場までは歩いて2分くらいだ。それに約束の時間まであと45分以上ある」

 「おい、おい、おっさん!時間ありすぎだろー。どれだけ今日早起きしたと思ってんだよー。ああ、あと30分は寝てられたのにー」

 「こいつは・・・まあ、いいか。早く来たのは俺の都合だしな。おい、散歩がてらお参りに行くぞ」

 「お参り?何それ、聞いてない」

 「ん、そら言ってないからな。ここから10分もかからんから、少し話しながら行くぞ」

 「もう、勝手に・・・仕方ないなー。しょうがない付き合ってやるかー」

 「このやろ・・・、ここは我慢だ・・・。よし、俺も大人になったもんだ」

 「おっさん、お参りってどこ行くのさ」

 「ああ、強運の神社にな」

 「神社?え、なんで」

 「いや、親方、受験生だろ。合格祈願しといたほうがいいだろ。せっかくだから。あと強運の神社には全く食いつかないのな」

 「だって私そんなに信心深くないよ。クリスマスのあと初詣に行くぐらい」

 「いや、それは大抵の日本人はみんなそうだから。俺だって普段はそんなにお参りとか神頼みはしねえし。初詣に行ってもおみくじ引かないタイプだし」

 「いや、行ったら引けよ。だったら何でわざわざ行くわけ」

 「まあ、いろいろあるんだよ。前にも来たことがあってな。親方は合格祈願、俺はまた別のお願いがあるんだよ」

 (ほほお、そんなこと言いながら私の合格祈願をしようって魂胆ね。素直に言えばいいのに)

 「いや、それ本当に違うから」

 「そこ、心の声システムで読むの反則じゃないの。もう個人情報何とかとかコンプライアンス何とかに違反してるんじゃない」

 「何とか多いな。まあ、せっかくここまで来たんだし、行ってみようぜ。お参りしたって別に損はないだろ」
 お賽銭分は損しますけどね、とでも言いたげなワカバを無視してイチジョウは神社に向かって歩き始めた。

次回の更新は2023/5/17予定です。

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