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『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-59

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やりがいの搾取(2)負の連鎖③

参加者のひとりが声を上げた。

「あ、あの、わ、私・・・」

「何なのかね」
代表が聞き返した。

「わ、私も聞きました」

「一体、何をだね」

「き、喫煙室でお二人が話していること」

「・・・!!あなた自分が何を言っているか分かってますか」
代表がキツイ口調で参加者に問い詰めた。

「は、はい、もちろん、分かっています。もしこの勉強会の意に反することを言えばどうなるのかも」

「分かっていれば宜しいんですよ。では、それを踏まえてもう一度お尋ねしましょう。何を聞いたというのかね」

「えーと、えーと・・・」

「そうでしょうとも。言えませんよね。だから当然、あなたは何も聞いていないのですよ。さあ、それでは続きを始めましょうか」

「ま、待ってください!」
もう一人の参加者が声を上げた。

「ぼ、僕もき、聞きました」

「はあ、一体何をです。あなたも今日初めてここに来たわけではないでしょう。だったら分かりますね」

「ぼ、僕だって、分かっています。今までもこうして言いたいことが封殺されてきたことも」

「封殺?随分、大げさな表現を使いますね。聞く人によっては勘違いしてしまうかもしれませんよ。今のあなたにそれだけの覚悟があるんですか!!」
代表は全体を見回し、他の参加者も含めて威圧するように声を荒らげた。

「これってパワハラじゃないの」
ワカバは空気を読まずに思ったことをつい口に出してしまった。

「バカ野郎!誰が見ても分かるこんな絵に描いたような幼稚園児にでも分かるパワハラのことをいちいち指摘するんじゃねえよ」
イチジョウが慌ててワカバを静止した。

「いや、そこまで私は言ってないけど・・・これ私が言ったことになるのかな」

「空気読めよ、親方!」

「あっ、幼稚園児をたとえに出したらコンプライアンス的にはNGかな」

「そこはどうでもいい!ほら、見ろ!皆さんあっけに取られてるだろ」

「いや、それはおっさんの例えがマズかったんじゃないの」

「いや、いや、いや親方がそこは・・・」

「二人とも!」
サオトメが興奮しているイチジョウとワカバに声をかけた

『はい』
二人は声を揃えてサオトメを見た。

「今日初めて来たのに申し訳なかったね」

「えっ、サオトメさんどうしたんですか」
ワカバが謝るサオトメを見て驚いている。

「いや、参加者の皆さんが本当に話したいことも全然聴けてなくて」

「サオトメくん、自分が何を言っているか分かっているのですか」

「はい、代表。私は今まで間違っていたのかもしれません。受験生のことを第一に考えて、一生懸命やってきたはずなのに・・・。まさか皆さんが思っていることをひとつも聴けていなかったなんて」

「サオトメくん、ここの勉強会はこれまでの伝統に則って、ずっとこのやり方で続けてきたではありませんか。今更、それを反故にしようなどと、考え違いも甚だしい」

「ですが代表、今日私は気づいてしまったんです。このままではいけないのだと」

「サオトメくん、あなたにはほとほと呆れましたよ。もし今の話が本音だとしたら、もうあなたの席はありませんよ」

「おい、そこまでにしとけ!」
イチジョウがしびれを切らして声をあげた。そしてサオトメに声をかけた。

「あんたは何も間違っちゃいない。人間はいつからだってやり直せる。気づいたんなら変わればいい。それだけだ」

「イチジョウさん、ありがとう」

「まったく上に立つ人間がこれだから負の連鎖が止まらないんだよなあ。改めて教えてやるよ、その理由を」

次回の更新は2023/4/12予定です

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