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『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-74

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あのお方

 「は、はい・・・、す、すみません、だ、大丈夫です・・・」
 明らかに涙ぐんでおり、声もうわずっている。そんな受験生に白髪のご老人が優しく声をかける。

 「ゴメンなさいね。急に声をかけてしまって。あなたを見て心配になったものでね。ちょうど孫と同じ年ぐらいだから、気になってしまって」
 どこの誰かは分からないが、とても丁寧に語りかける雰囲気に安心し、受験生は今の気持ちを語り始める。

 「す、すみません、わたしこのビルのある勉強会に参加してたんですけど、怖い目にあってしまって・・・」

 「そうだったんですか、怖い目にあわれたんですね。無理はしなくていいけれど怖い目というのは・・・」

 「は、はい、わたしいつもその勉強会では言われるがままでずっと自分を抑えて我慢してたんですけど、今日初めて勇気を出して気持ちを押し出してみたんです・・・」

 「勇気を出して気持ちを押し出したんだね」

 「そうなんです!そうしたら、その勉強会の代表って人に恫喝されてしまって・・・」

 「・・・恫喝ですか・・・そう思われたんですね。言える範囲で構わないけど、どんなことを言われたんですか」

 「はい・・・・」
 白髪のご老人が受験生の思いを傾聴している最中、会場では未だ代表とイチジョウの睨み合いが続いていた。そして、冷静なサオトメが周囲を見渡している。

 (イチジョウさんの言い分も分かるが、今日のところは潮時かもしれない。会場にいる資格保持者も受験生も残り時間が気になり始めているようだ。それに、ここまでのやり取りですっかり忘れていたが、今日はあのお方がいらっしゃるはず。時間的にはいついらっしゃってもおかしくはない。それまでに何とかこの事態を収束させておかないと)
 そんなサオトメの思いも知らずにワカバがまた忘れていたことを口走ってしまう。

 「そういえば、あの言った言わないの件ってどうなったんだっけ」
 確かに既に退出した資格保持者と現在も留まっているスネオが受験生にひどいことを言っていたというイチジョウの主張に対して、まだ結論が出ていない。その時、イチジョウの意見に賛同し、最初に手を上げてくれた受験生は先ほど退出してしまった。もうひとりの受験生はバツが悪そうに先ほどからずっと下を向いたままだ。

 「親方、よく覚えていたな。俺もこれからそのことをまたテーブルに上げようと思っていたんだよ」
 サオトメは思った。これ以上、長引かせるのは辞めてくれと。この状況であのお方がいらっしゃったら、どのように説明すればいいのかと困り果てていた。
 
 そんな時、会場の扉が開いた。 

次回の更新は2023/5/5予定です。

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