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[5分連載小説]CARD MASTER-氷結の植物と最強のワンペア-

あらすじ

国内最大手のエネルギー企業、energyエネルギー社の、事案を解決した、公正取引委員会の、17歳の、カジノ・賭博分野審議官カードマスターの少女、マレに、審議院は、負傷した肩を癒す、3ヶ月の、休暇を与える。
休暇を得たマレは、相棒の猫、オーケアヌスと、共に、故郷、港町フォンスにて、かつて、経営していた、バーを、再開業する。
マレたちの、過ごす、バーに、1人の、老人が訪れるが...

カバー写真

高山集落、ニックス

CARD MASTER-氷結の植物と最強のワンペア-

公正取引委員会の、17歳の、カジノ・賭博分野審議官カードマスターの、少女マレは、国内最大手のエネルギー企業、energyエネルギー社の取締役会決議を受け、臨海副都心、オーケアヌスの、審議院に戻り、energyエネルギー社と、超大国ベルルムの諜報部員エージェント、執行官ヴァニタスの、報告をする。帰ってきた答えは、意外なものだった。
「審議官マレに、3ヶ月間の休暇を、与える。負傷した、肩を、癒しなさい。」
「休暇など、要りません。」
マレの相棒、AI内蔵スマートスピーカーで喋る猫、オーケアヌスが、割って入る。
「俺たちは、十分、頑張ってきた。少しくらい、良いじゃないか。」
審議院を出て、マレは、愚痴をこぼす。
「休暇なんて、いらないって言っているのに。何で、話を聞いてくれないの。」
オーケアヌスが、マレをなだめる様に、提案をする。
「マレ、君は、負傷の身だ。気分を変えろ。バー、ポルトゥスに戻ってみよう。昔の様に、バーで、休暇を、過ごすんだ。」
審議院からの、休暇の提案が、腑に落ちないマレ。オーケアヌスは、マレに、バー、ポルトゥスを、休暇中、再び開業しようと言い出す。バーポルトゥスは、元々、マレの先代のマスターの、老婆が、1人で、運営していたが、引退を機に、プレゼントされた、マレの、たった一つの、居場所だ。ガラスの立方体の、Apple storeの様な、外観をしており、女性客でも、気軽に入れる様に、外からは、内部が、透けて見れる様に、なって居る。
オーケアヌスの問いかけに、マレは、渋々、返答する。
「分かったわ。帰る場所は、一つしかないわ。」

マレとオーケアヌスは、バー、ポルトゥスのある港町、フォンスに、帰った。
埃の被った看板と、掃除されていないカウンターを除けば、バー、ポルトゥスは、昔のままだった。
マレは、1日掛け、掃除して、お酒を新しく買い揃えた。
再開店初日、1人の老人が、訪れた。
「今晩は、お嬢ちゃん。わしの名前は、プリームス。このバーは、昔の様に、お客の、悩み事を、解決してくれるのかね?」
マレは、戸惑った。マレには、記憶がない。昔のポルトゥスを、知らない。客の悩みを、解決するとは、何だ?
「悩み事とは、何ですか?」
「ある花を、取って来て欲しいんだ。」
「...ある花とは?」
「黄金百合と、言われる、アウルム・リーリウムの花だ。この港町、フォンスの何処かに、生えている筈なんだ。未だ、付き合い初めの頃、少女だった妻に、髪飾りとして、付けてあげた事があってね。それが、今では、滅多に見なくなった。どうか一つ、老いぼれの願い事を、聞いてくれんかね。」
マレは、少し考えた。目の前の、困っている老人を、助けたい。マレは、熟考して、口を開いた
「お引き受け、しましょう。探してみます。」

次の日、マレはsolar notebook®︎ソーラーノートブックで、検索をした。以前は、フォンスにあったが、現在は、生息していないとの事だった。solar notebook®︎ソーラーノートブックは、2025年頃に、登場した、ディスプレイに、太陽光パネルが内蔵され、自然光や照明で自家発電が出来る、ソーラーPCだ。マレは、呟いた。
「もう、ないのか...。」
マレが、がっかりしていると、モンス山脈の高台にて、最近発見したとのニュースが、news watch®︎ニュースウォッチと、our media®︎アワーメディアに、載っていた。モンス山脈は、city train®︎シティトレインで2時間、農業都市アグリクルトゥーラを超えた、先にある。
オーケアヌスが、断りを、入れた。
「俺は、寒いのは駄目だ。同行出来ない。」
マレは「気にしてないわ」と言う風に、回答する。
「1人で、行ってくるわ。店番を、宜しく。」
マレは、2020年代に、始まった、定額で、アウトドア用品一式を、貸し出す、アウトドアパッケージレンタルサービスのoutdoor®︎アウトドアを利用して、衣服を揃えた。
奇妙なのは、都市に生えていた花が、雪山に生えている事だった。生育環境が、違いすぎる。
マレは、city train®︎シティトレインに乗り、未だ見ぬ花に、思いを馳せた。
「なぜ、厳しい寒さに、適応できたのだろう?港町フォンスと雪山では、気温も、湿度も、違いすぎる。」
モンス山脈に入ると、緑が生い茂る、楽園だった。2030年代に、登場した、動物型ロボット、drone animal®︎ドローンアニマルや、drone bird®︎ドローンバードたちが、独自の生態系を作り上げていた。マレは、新鮮な空気を、吸い込んだ。

「空気が、綺麗。」
木々は生い茂り、命で溢れていた。山の中頃迄、来た所で、雰囲気は一変した。
雪が辺りを包み、気温が、一気に下がった。マレは、1人で登山した事を、少し後悔した。ガイドを、つけるべきだった。
雪山の中で、遭難してしまった。吹雪が吹き荒れ、マレは、力尽き雪に倒れ込んだ。
「電波が、ない。此処では、paper phone®︎ペーパーフォンear phone®︎イヤーフォンも使えない...どうすれば良いの?」
マレの体を、白い雪が覆っていった。命運尽きたと、思われた。雪が、マレの体を、覆っていく。凍える様な、寒さが、マレの体を、動けなくしていた。此の儘では、命に、危険が、及ぶ。マレは、瞳を、閉じてしまった。瞼が、凍っていく。
マレは、目覚めると、暖かい部屋の、ベッドの上にいた。此処は、天国だろうか?それにしては、やけに、生活感のある、部屋だ。少しすると、初老の男性が、部屋に、入って来た。
「目が、覚めたかね。私の名前は、アルビテル。私の、登山介護ロボット、mountain support®︎マウンテンサポートが、君を見つけ、家まで、運んで来てくれたんだよ。」
マレは、アルビテルに、「此処は何処ですか」と、問う。アルビテルが、答える。
「此処は、山の麓の、高山集落ニックス。そして君が寝ているのは、我が家の、客人用の、ベッドだよ。」
マレは、アルビテルに、ある花を探している事を、伝える。
「私は、黄金百合、アウルム・リーリウムの花を、探しにこの山脈に、来ました。貴方は、何処にあるか、知っていますか?」

アルビテルは、「ふむ」という様に、少し考えて、返答する。
「君の、持ち物の、審議官の、身分証明書を見たよ。君は、公正取引委員会の、カジノ・賭博分野審議官カードマスターなんだね。如何だろう?此処は一つ、ポーカーで、私に勝てたら、教えてあげよう。なに、カジノ・賭博分野審議官カードマスターと、人生で一度は、ギャンブルで、勝負してみたくってね。」
マレは、この職業では、人々が最も興味を持つのは、ギャンブル対決なのだと、理解している。カジノ・賭博分野審議官カードマスターと、戦ってみたいと思う者は、多い。半ば、諦め気味で「分かりました」と、答える。
ポーカーのルールは、次の通りだ。
使用カードは、ジョーカーを除く、52枚。
この52枚から、5枚を拾い、強い役を揃えた方が、ゲームの勝ち。
役は強い順に、(i)から(ix)まで、9種類ある。同じ役ではA 、K 、Q、J、10、9、8、7、6、5、4、3、2の順に、強さが違う。
(i)ロイヤルフラッシュ。最強の役だ。マークが同じで、数字が1番高い順位で揃えた役。(例 ❤︎10❤︎J❤︎Q❤︎K❤︎A)」
(ii)ストレートフラッシュ。2番目に強い役だ。マークが同じで、数字が順番に並んでいる役。(例 ❤︎6❤︎7❤︎8❤︎9❤︎10)
(iii)フォアカード。3番目に強い役だ。マークが違う、同じ数字が4枚そろった役。 (例 ♠︎Q❤︎Q♦︎Q♣︎Q❤︎2)
(iv)フルハウス。4番目に強い役だ。マークが違う、同じ数字3枚と、マークが違う、同じ数字が2枚の役。 (例 ♠︎K❤︎K♦︎K♠︎A♦︎A)
(v)フラッシュ。5番目に強い役だ。同じマークが、5枚揃った役。  (例 ♦︎6♦︎8♦︎J♦︎Q♦︎3)

(vi)ストレート。6番目に強い役だ。マークに関係なく、5枚のカードの数字が続いている役。  (例 ❤︎2♠︎3♦︎4♣︎5♠︎6)
(vii)スリーカード。7番目に強い役だ。マークが違う、同じ数字3枚の役。  (例 ♠︎J❤︎J♦︎J❤︎10♦︎4)
(viii)ツーペア。8番目に強い役だ。マークが違う、2枚ずつの同じ数字が2組の役。  (例 ♠︎2♦︎2♦︎8♣︎8♦︎6)
(ix)ワンペア。9番目に強い役だ。マークが違う、同じ数字が2枚揃った役。(例 ❤︎A♦︎A❤︎J♦︎9♣︎5)
各プレイヤーの行動は、(i)から(vi)まで、6種類ある。
(i)べット。最初に、チップを出すこと。
(ii)コール。先のプレイヤーと、同じ枚数のチップを出して、ゲームを続けること。
(iii)レイズ。先のプレイヤーよりも、多いチップを出して、賭けを大きくすること。1人1ゲームで1回しかできない。
(iv)ドロップ。ゲームを、棄権すること
(v)ドロー。場に捨てたカードの枚数だけ、カードを貰う。
(vi)チェック。2回目(ドローの後)に行う、パスの一種だが、レイズはできない。
「人生初の、ギャンブルだ」と、喜ぶアルビテル。カードを5枚引き、幾つかの、カードを、交換をする。

マレは、スリーカード(7番目に強い役)を、揃える。マレは、分析する。アルビテルの、カードは、恐らく、ワンペア(9番目に強い役)か、ツーペア(8番目に強い役)。普通にやれば、マレの勝ちだ。しかし、初めてギャンブルを楽しむ彼を、がっかりさせたくないと、マレは、ドロップ(ゲームを、棄権)する。
マレの、負け。
アルビテルの、カードは、ツーペア(8番目に強い役)。アルビテルが、マレに、問いかける。
「君は、何で、勝負しなかったんだい?」
マレは、少し困った顔で、返答する。
「貴方が、幸せそうだったから。初めてのギャンブルを、楽しむ、貴方の幸せそうな姿を、壊したくなかった。」
アルビテルが、感心して、答える。
「君は、優しい子だ。君に、見せたいものがある。今日は休んで、明日の朝、山に登ろう。」
翌日、マレは、登山介護ロボット、mountain support®︎マウンテンサポートに乗った、アルビテルと、登山する。
山頂で、マレは、信じられない光景を、見た。無数の、氷漬けの植物たちが、辺りを、埋め尽くしていた。山頂は、氷の結晶で、氷山の様に、なっていた。これらの植物は、冷凍保存されているのだ。
アルビテルが、白い息を、吐きながら、答える。
「高山集落ニックスの人々は、私を含めて、皆、生物保護師ライフパッカーだ。生物保護師ライフパッカーとは、絶滅危惧種を、保護する仕事だ。この山は、聖なる山。余所者に見せる事は、殆どない。だが、君の優しさに負けて、連れてきてしまったよ。隅っこに凍っている、あの花を、ご覧。アウルム・リーリウムだよ。優しい君への、プレゼントだ。」

マレは、アルビテルの自宅に、戻る。アルビテルは、クーラーボックスに氷漬けの花を入れて、マレに渡す。「何故、生物保護師ライフパッカーをしているのか」と、マレは問う。アルビテルが返す。
「動物は、生態系ピラミッドと、本能で、生きている。人間だけだ。絶滅を防げるのは。山を、見てご覧。数千年前から、あの形の、ままだ。氷結させておけば、これからも、植物たちは、数千年は保存される。また、時期が来たら、繁殖させ、元の状態に、復活も出来るだろう。命の輪を、氷に閉じ込める様に、永久保存しておけるのは、人間だけ、なんだよ。」
マレは、「命を助けて頂き、花までも、本当に、有難うございます」とアルビテルに、礼を言い、登山介護ロボット、mountain support®︎マウンテンサポートと、握手し、下山し、オーケアヌスの待つ、バー、ポルトゥスに、戻る。
3日後、老夫婦が来店する。プリームスと、妻、ウェールだ。2人は、幼馴染であり、まだ、少年少女の、中学生の時に、交際を、スタートさせた。その後、60年近く、人生を、共にして来て、結婚生活も、50年に、及ぶ。2人は、港町フォンスの、出身であり、プリームスは、漁師だった。プリームスは、夏になると、自慢のボートで、妻ウェールを、海に、案内した。時に雨が降り、時に嵐が来る、夫婦生活も、船旅の様に、忍耐強く、睦まじく、やり過ごして来た、2人は、一心同体の、かけがえの無い、パートナーだ。プリームスが、マレに、話しかける。
「今日は、妻のウェールと、一緒に、来たよ。」
マレの、バーの、カウンターで。老人プリームスと、老婦人ウェールは、語り出す。
「2人で、歩いてきた半世紀、色々、あったね。一緒に、海に行ったり、ピクニックをしたり、色々な場所に、行ったね。人生はあっという間で、夢のようだった。」
プリームスは、目を細め、思い出している。
「でも、君に出会った、初夏の日の午後が、昨日の事のようだよ。」
ウェールが、返す。
「2人とも若かったわ。貴方、最初のデートの時、緊張して、手も握れなかったもの。」
「君だって、未だ少女のようで、初々しかったよ。とても、可愛らしかった。花の、妖精かと、思ったよ。」

「子供が出来てから、どうしても子育てが、2人の中心になったわね。それでも、2人だけの時間を、何時も大切にして来た。」
プリームスが、ウェールを、見つめる。
「僕は、未だ若かった頃の君を、覚えて居るよ。思い出は、今も、色褪せない儘ままだ。結婚して、50年経っても、僕は、未だ、君に初めて会った日の、少年の様だ。」
ウェールが、プリームスを見つめ、答える
「私も、貴方で良かったわ。」
老人プリームスは、マレが、山の村で、ポーカーをした話を聞き、自分も、マレと、ポーカーがしたいと言い出す。自分が勝ったら、約束のアウルム・リーリウムの花を、渡して欲しいと言う。
「良いですよ」とマレは答え、プリームスと、ポーカーをする。
「こんなに楽しいギャンブルは、初めてだ」と、プリームスは語る。
マレの、手札は、フラッシュ(5番目に強い役)。普通に戦えば、先ず、負けない役だ。
しかし、マレには、高山集落ニックスの老人、アルビテルの、ギャンブルを楽しむ、幸せそうな顔と、プリームスの、嬉しそうな顔が、重なって見えた。マレは、思う。この人の幸せを、壊したくない。大切なのは、勝敗よりも、過程なのだ。
マレは、ドロップ(ゲームを、棄権)した。
マレの、負け。マレは、最近、ギャンブルで、負け続けている。カジノ・賭博分野審議官カードマスターとして、これで良いのだろうか?とマレは、思ったが、マレは、考える。これで、良いんだ。

プリームスの、カードは、ワンペア(9番目に強い役)。プリームスが、驚く。
「ワンペアで、勝ってしまった。」
マレが、微笑み、答える。
「そのワンペアは、プリームスさん、貴方と、奥様のウェールさん2人の、ペアです。どんな運命や、試練の前にも、絶対に切れない絆。何よりも、強い、2人です。何があっても、絶対に、離れる事のない、2人の絆は、ロイヤルフラッシュよりも、強い。揺るがない絆で結ばれた、『最強の、ワンペア』です。」
「有難う」という、プリームスの、横で、マレが、ウェールに、プリームスから、頼まれていた、黄金百合、アウルム・リーリウムの花を、渡す。ウェールが、声を出す。
「この花は...。黄金百合、アウルム・リーリウム。」
「君との、結婚50周年の、贈り物だよ。」
「貴方、覚えていてくれたのね。未だ付き合い初めの頃、貴方が、髪飾りにしてくれた花よ。少女だった私は、嬉しかった。だって、貴方からの、人生で、最初の、プレゼントだったもの。でも、もう、今は、咲いてなかった筈...一体どうして?」
「このお嬢さんが、見つけて来てくれたんだよ。」
ウェールの、頬を、うっすらと、涙が伝う。
プリームスが妻のウェールに「僕たちは、最強の、ペアに、なれたかな?」と問い掛ける。プリームスが、恥ずかしがって、妻の手も、握れないのは、少年の頃から、変わっていない。
妻のウェールはそっと、プリームスの、皺の刻まれた手を、優しく、握る。永久氷結の、花の様に、年月を経ても、変わらないものが、其処にあった。

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