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NSTE-ACSのリスクスコアについてまとめてみた 2020.9.20

このマガジンでは、循環器領域で皆さんの「こまった」の解決に役立つ(?)情報を、独断と偏見で勝手にまとめています

今回は別のnoteで書いた急性冠症候群の初期対応についてまとめてみたで、ボリューム的に盛り込めなかった『非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)のリスクスコア』について書きます。

本題に入る前に、急性冠症候群(ACS)の初期対応で重要なポイントをおさらいしましょう。

・急性冠症候群(ACS)の初期対応では、10分以内にST上昇型心筋梗塞(STEMI)かどうかを判断し、STEMIであればすぐに循環器内科にコンサルトする。
・STが上昇していない、つまりNSTE−ACSの場合は焦らずリスク評価を行う。


NSTE-ACSはスペクトラムが広い

NSTE-ACSに含まれる病態は幅広い(スペクトラムが広い)ことが特徴です。STが上昇していないACSは、すべてNSTE-ACSに分類されるわけですから当然といえば当然です。

実際NSTE-ACSの中には、今にも心停止しそうなほど血行動態が不安定な症例もいれば、症状が軽く徒歩で来院する症例もいます。それほど病態的・重症度的に幅の広いNSTE-ACSをすべて一律に扱うのは非現実的ですので、各症例のリスクに応じて対応する必要があります

そして、そのリスクを層別化する際に便利なツールが、リスクスコアです。

『急性冠症候群診療ガイドライン 2018年改訂版』(以後、ACS-GL 2018)に掲載されているACSの診断・治療フローチャート(p18)では、NSTE-ACSのリスクスコアとして、TIMI、GRACEスコアを挙げています

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TIMIリスクスコア

「TIMIリスクスコア」はAntmanらが2000年にJAMAに発表したリスクスコアで、NSTE-ACSの予後判定に用います。

TIMIリスクスコアは7つの項目で構成され、該当する項目が多いほど14日後の有害イベント(全死亡、心筋梗塞、緊急血行再建を要する重度虚血)の発生率が高くなります。

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上表:ACS-GL2018, p28より引用

Antmanらの原著論文(JAMA. 2000;284:835-842)の要約から一部引用します。

Event rates increased significantly as the TIMI risk score increased in the test cohort in TIMI 11B: 4.7% for a score of 0/1; 8.3% for 2; 13.2% for 3; 19.9% for 4; 26.2% for 5; and 40.9% for 6/7

TIMIリスクスコアが「0もしくは1点」の場合、14日時点の有害イベントの発生率が4.7%に対して、「6もしくは7点」では40.9%となっています。

同じNSTE-ACSでもこれほどイベント発生率に差があり、このことからもNSTE-ACSのスペクトラムの広さがよくわかります。


GRACEリスクスコア

GRACEリスクスコアは、Grangerらによって2003年に報告されたスコアで、NSTE-ACSだけでなくSTEMIも含めたACS全体のリスク評価が可能です。  (Arch Intern Med. 2003;163:2345-2353)

GRACEリスクスコアには8つの項目があり、各項目ごとに下表(ACS-GL 2018, p28)のような重み付けがされています。

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表を見るとおわかりいただけると思いますが、GRACEリスクスコアは計算するのが大変です。そのため、私はGRACEスコア計算用のサイトを用いて、スコアを計算しています。

Grangerらの原著論文ではGRACEリスクスコアは値が高いほど院内死亡率が高くなります。GRACEリスクスコアと予後について、ACS-GL2018では以下のように本邦のデータを引用しています。

大阪急性冠症候群研究会のデータでは,生存退院時のGRACEスコア100 点未満,101〜120 点,121〜140 点,141 点以上の患者の長期(中央値3.9年)死亡率は, それぞれ2.0%,6.3%,11.8%,16.8% であった。

またGRACEリスクスコア>140点のNSTE-ACS症例は高リスク群に該当するため、早期の血行再建がすすめられています。(ACS-GL2018, p46)※1

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実際の使い方

TIMI、GRACEリスクスコアとも問診と身体所見、心電図、採血だけで算出が可能で、専門的な検査、スキルが必要ないところが一番のメリットでしょう。

TIMIスコアは点数の算出が簡単なので、救急の現場で患者さんを治療しながらリスク層別化することが可能です。

一方、GRACEリスクスコアはTIMIリスクスコアより細やかなリスク層別化が可能ですが、点数を算出するのにスマートホンなどのデバイスが必要ですので、患者さんを診療しながらというよりは、入院後落ち着いた段階で計算して患者さんへの病状説明に用いたり、重症度の指標として研究に用いるたりするのに有用と思います。


以上、NSTE-ACSのリスクスコアについてまとめました。このまとめが、少しでも皆さんの日常診療のサポートになれば、嬉しいです。

今後の励みになりますので、スキ、フォロー、サポートをよろしくお願いします。


注釈

※1:この推奨の根拠となったのは、VERDICT試験(Circulation 2018; 138: 2741–2750)です。

本研究はNSTE-ACSに対して「早期に侵襲的治療を行った群」と「待機的に侵襲的治療を行った群」に分けて予後を比較しています。

症例の「ランダム化から侵襲的治療までの時間」の中央値は、早期治療群で4.7時間、待機的治療群で61.6時間。primary endpointは全死亡、心筋梗塞の再発、心筋虚血や心不全による入院の合計。

結果は以下のとおり、両群間でprimary endpointに有意差がみられませんでした。

The median follow-up time after randomization of the patients was 4.3 (interquartile range 4.1–4.4) years. There was no significant difference in the primary composite end point

しかし、GRACE risk score>140の症例に限ると、早期治療群で有意にprimary endpointを改善したとの結果でした。

a very early invasive treatment strategy improved the primary outcome compared with a standard invasive treatment strategy (hazard ratio, 0.81; 95% CI, 0.67 to 1.01; P for interaction=0.023).



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