かえってきたウルトラマン

今日は何やら暖かい日だったらしい。「らしい」というのは、午前中歯医者に出かけて、昼前には帰って昼食を済ますと、うとうとと昼寝してしまい、昼間は外出していないからである。

夕方に起き出して、近所の町中華に出かけて、ピータン豆腐と回鍋肉を注文する。ビールでも飲みながら、町中華をつまむつもりだったが、どういうわけか、未だに「アルコール類提供なし」という店の方針だったらしく、それも注文を終えてから告げられたので、やむなく、ピータンをウーロン茶でつまむ羽目に陥ってしまった。

いつだったか、コリドー街のオイスターバーでも似たようなことがあり、そのときはウーロン茶で生牡蠣を6ピースほど食べて、なんとも微妙な食感を味わったことがある。ピータンといい、生牡蠣といい、アルコールとの相性が抜群なだけに、この立役者がいなくなると一挙に未知の食べ物に変化するようで、えらいことになる。

とはいえ、入った町中華はとても趣があり、中国人が経営しているから、味も本格的。そのうえ、値段も大衆的で、メニューが豊富なのも気に入っている。酒が飲めないのは残念だったが、BGMに昭和歌謡が流れているのも悪くない。

回鍋肉を食べ終わった頃、懐かしい曲が。ウルトラマンのテーマ。僕らの世代にはこれは条件反射的に懐かしさがこみ上げてくる。幼い頃の素晴らしい思い出である。

「ウルトラマンがかえってくるんだって!!」

たしか、ウルトラマンシリーズはいったん中断して、絶妙のタイミングで再開したと記憶している。西宮の自然の中ですくすくと純朴な幼少期を過ごしていた私にとって、トノサマガエルやトノサマバッタの美しさに夢中になったり、田んぼの畦道や用水路でドジョウやザリガニを捕まえることと並んで、ウルトラマンは欠かせない存在だった。そのウルトラマンが、最終回を迎え、一抹の寂しさを覚えていたところに、再び勇ましく「かえってくる」という。こんな嬉しいことはあるだろうか。友達との会話もそのことで持ちきりとなり、私は歓喜の声を上げた。「かえってきたウルトラマン」というわかりやすいタイトルが、額面通りそのまま、一直線に子供心に響いた。あの強くて格好いいウルトラマンがかえってくる、怪獣にもまた会えるんだ、さびしかったよ、ウルトラマン!!かえってきてくれてありがとう!!

二品だけ、しかもアルコール抜きの夕食では普段の私の胃袋には物足りないのだが、今日はBGMのおかげで胸一杯となったので十分だった。誰にとっても幼少期の思い出ほどその人を形作るうえで大切なものはないと思う。私の場合は幸運なことに、実に楽しく純粋で、美しい思い出ばかりである。子供心だけでは世の中は渡っていけないけれども、子供心を傷つけることは絶対にあってはならないと思う。その意味でも、昨今の世の中で起きていることには言葉を失う。

やはり酒が恋しくなってきたので、二件目は近くのバーに立ち寄って、ビールとカクテルを少々。それから家に帰ってまたニュースを観ていたら、深夜になってしまった。歯医者の待合室で読んでいた本は明日には読み終わるだろう。明日はジムで泳いで、本読んで、この休みは終わり。

違和感さえ感じるほどの平和ぶりである。

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