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#DarsanaPrimeTokyo 20190323

久々に会った馴染みのヤツは、まるで昨日別れたばかりかのように僕の肩を叩いて、『やっ』と声をかけてくれた。
少しばかり季節を巻き戻したような寒さと、時より肌を打つ雨粒、そしてあまりに久々すぎるIngressのイベントに、まだエンジンのかからない僕は、なんだかよそよそしく、声を返した。

『ご無沙汰してます』

彼と少し話す。彼も僕もここのところTelegramにもIngressにも顔を見せていなかった。
最近は全然ですよ。いやいや僕も。そんなしょうもない話の中で彼は

『同窓会だね』

と言った。
その顔はなんだか少し嬉しそうで、今から始まる半日を前に、俺の冷えた体の内側にある、スロースターターのエンジンがうなり始めるのを感じた。


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2014年のDARSANAから始まった俺のアノマリーは、もっとガチな人からみれば他愛のないものかもしれないけど、今にしてみれば自分なりに日常を削り、日々を費やし、魂を燃やしてIngressと、その仲間たちへ向かった時間だった。悪ふざけのような他愛もない会話も、真剣に語り合う時も、DARSANAの勝利から始まった激しいスラッシュメタルバンドのライブのような、それはそれは熱い日々だった。

だが、そんな日々は、引っ越しと転職というリアルイベントによってあっさりと止まってしまった。

2016年夏のAegisNovaTokyoをピークに、僕のIngress熱は急速に冷えていった。
なれない土地でのIngressに面白さを感じられなかったとか、純粋に自分のためだけの時間が減ったとか、色々理由はあるけど、結果、僕はIngressをやらなくなっていた。

ホーム画面の一番下、特等席に鎮座していたIngressは2ページ目のフォルダの中の1アプリになり、SlackもTelegramも通知を切ってしまい、僕はただただ流れていく、日常に身を落としていた。

Ingressは僕の思い出になったのだ。


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2018年11月 みたび東京でアノマリーが開催されるとアナウンスがされた。
しかもあのDARSANAなのだという。
僕はもう半年もHackをしていないようなエージェントだったけれども、思い出はまだ暖かく、僕の体を動かした。まだ先の予定をさっそく抑えて、行くぞ!という事だけは決めた。でも、当時のような熱い、『熱』は中々湧いてはこなかった。

Ingressから離れていたのは僕だけではなかったのだ。

2年前の夏に比べると、なんだか静かな時が流れていく界隈。G+の終了も告知され、中々気持ちに熱が入らない。

自分のインベントリを見てみれば、赤から色が変わっていた増えるカプセルで、ぶくぶくと膨れたアイテムでいっぱい。かつての自分なら必死でアイテムを掘って準備をしていたところも、すでに準備は万端ときた。
アクティブな仲間が作戦を練るのをつまみ食いで眺めながら、当日はやってきた。


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曇天の空、時より頬を打つ雨、冷えた空気。
徐々に集まる仲間たちに、なんだかうまく溶け込めない自分。
顔は覚えているけど名前を思い出せない。無理もない、2年だ。

空気と相まってエモい気持ちに満たされていく、今日はどうなるのだろうか。


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『同窓会だね』

遅れてやってきた彼はそう言ったあと、飄々と作戦のおさらいを始めた。
とにかく今回のルールは忙しく、そしていつもと違いすぎる。
僕は触りを理解するだけで精一杯だったけど、彼の説明が俺の理解を促していく。

ポータルを維持し、リンクを引き、ハックをする。

Ingressの基本を高度にやる。
いい年した大人たちが大真面目に、ゲームをやる。
固まっていた思い出に熱が入り、融解し、グツグツと音を立て始める。
体に血が巡り、エージェントが動き出す。

なんてことはなかった。
やっぱり俺はエージェントcarbon0000だったんだ。

午前5時に家を出て、朝の7時から渋谷に降り立つような、俺はやっぱりエージェントだった。

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足を攣りそうになるほど走ったのはいつぶりだろう?
忍者のように隠れながら、宝物を交換したのは?
最後の最後まで全力で走ったのは、いつぶりだろう?

16時02分。その最後の時まで走り抜けたアノマリーだった。
ツーマンセルを組ませてもらった、アノマリー初参加のエージェントさんに、何度も『俺の知ってるアノマリーはこんなに走らない!』と言いながら、息を切らして、白いオーナメントを追いかけて、赤いオーナメントを追いかけて、走った走った。

本当に今回のルールは最後まで勝てるか不安だった。
ドイツの結果でも分かる通り、フィールドを支配したとしても、負ける可能性があるルールだった。
仲間を信じて、自分を信じて、それでも確信はできない。
最後駅を探すのを諦めてタクシーに乗るほど、走り回ったこの時間が報われることを信じて、その瞬間を待った。

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勝利の瞬間。
この瞬間をこの仲間たちと迎える、この喜びを忘れられなかったんだ。
思い出が色褪せなかったのは、体が覚えていたのは、この仲間たちとのこの一瞬があったからなんだ。

昼、感じていたような疎外感はもう無い。
2年前、いや、4年前のあの12月と同じように、仲間たちとバカな話をしながら、真面目にゲームの事を話しながら、勝利の時が過ぎていく。

ハリーポッター、最高に楽しかった。

そして最高の一日が、こうして終わった。


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翌朝、足を攣って目を覚ました。
太ももの筋肉痛は3日たった今も消えていない。
すっかり日常は戻ってきて、またIngressをしない一日が始まる。

あの日体を巡った熱い血潮は、また色を変えて、僕の中の思い出になった。

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次はいつになるかわからない。

そして次があったとして、次もまた勝てるとは限らない。
でも、この仲間たちとなら、たとえ負けたとしてもそこに向き合って、またその次へ行ける。そう思える。

この2年の空白を経て、きっとこれが最後だと思っていた。
でも、今回のアノマリーで、この仲間たちとなら、俺はこの先もエージェントでいられると、そう思った。

Ingressはどうやらやめられないようだ。

これからもエージェントでいよう。また、一緒に遊ぼう。

これからも、どうぞよろしく。

#Ingress

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