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キハ85が特急ひだから引退するらしいから名古屋近郊を大回りしてきた。

どうも。特急形気動車をこよなく愛する乗り鉄、からべるです。今回は日帰りの乗り鉄旅行記です。

往年の名車の引退

2023年3月17日のダイヤ改正をもって私が最も好きな車両のひとつであるキハ85が特急「ひだ」の運用から撤退することになりました。

これで、キハ85の運用は特急「南紀」のみとなります。

キハ85はJR東海初の特急列車で、強力なエンジンを2つ積むことで気動車ながら電車特急並の加速を手に入れた高山線高速化の立役者。

轟音を立てながら爆速で飛騨路を駆け抜けるその勇姿は、流線型の精悍な顔つきも相まって多くの鉄道ファンを魅了しました。

2022年3月 高山駅にて。

新型のデビューが昨年7月だったのでもう少し時間をかけて置き換えるものとばかり思っていましたが案外早かったですね。完全に寝耳に水でした。

今年の6月30日には「南紀」の運用からも外れ、完全引退する上に来年には受験も控えていることから乗れるのは今のうち、何とか乗れないものか。

と考えましたが、残念なことにお財布の中身には諭吉がお2人、僅かに佇むのみ。

ですが、これではあまりにも寂しすぎる。

諦めきれず、「どうにかお別れ乗車ができないか」と考えていたところ、とある裏技を使えば安く、そしてある程度の区間を乗ることができることが判明しましたので早速計画を立てていくことにしました。

名古屋地区の大回り乗車

その裏技とは、ズバリ「大回り乗車」のことです。
ご存知ない方向けに解説すると、

・「大都市近郊区間」内での移動であること
・同じ駅、区間を2回通らないこと
・乗車駅と降車駅が同じでないこと
・途中下車しないこと

これらの事を守れば、どんな経路を辿ったとしても運賃は最短距離で計算される、という制度が存在します。

大都市近郊区間の例 (出典:JRおでかけネット)

なぜこのような制度があるのかと言うと、複数経路で行ける区間が沢山あって、その計算が面倒臭いからですね。

この制度を利用し、隣合う駅どうしなど、安い運賃で乗れる駅間をわざわざ大回りして乗車することを「大回り乗車」と言います。

やりようによっては140円で1000キロを超えるルートを設定することができるそうで、乗り鉄にとっては有難い事この上ない裏技です。

しかし…

有識者の皆さんならご存知の通り、なんと名古屋には大都市近郊区間が存在しません

諸説ありますが、これは名古屋周辺に複数経路がある区間が少ないからと言われています。

名古屋近郊は鉄道不毛地帯

上の図が名古屋近郊のJR線。複数経路ができる原因となる輪状の部分が岐阜〜金山〜多治見〜美濃太田1箇所しかないことがお分かりいただけるでしょうか。

それでは、名古屋近郊では大回り乗車乗車はできないのでしょうか.…

答えはNOです。

実はICカード利用エリア内で、ICカード利用時にのみ、経路に関わらず最短距離で運賃を計算する、というルールが存在します。

出典:JR東海 ICカード乗車券運送約款

これを利用すれば、先ほど紹介した岐阜〜金山〜多治見〜美濃太田の輪状の経路を利用して大回り乗車することが出来るのです。

そして、大回り乗車は青春18きっぷ等と違って普通の切符利用という扱いなので、特急にも乗車可能。よってひだ号にも乗車することが出来ます。

思い立ったが吉日。早速計画を立てて出発です。

名古屋駅での邂逅

キハ75とキハ85のツーショット。この光景が見られるのもあと僅かだ。

別の予定(下の記事参照)を済ませ、名古屋駅に戻ってきました。

ホームには元気のいいエンジン音を鳴らしながら佇むキハ85の姿が。あと4ヶ月もすれば見られなくなると思うと悲しいですが、これも時代の流れ。

今日はのちのち後悔しないようにその勇姿をしっかりと目に焼き付けていきたいと思います。

中央西線と太多線で美濃太田へ

まだ新車の匂いがする

第一走者は中央西線快速・中津川行きの315系。去年の3月に投入されたばかりのJR東海の新型です。

まずは起点と終点が被っては行けないというルールに基づき、2駅先の鶴舞で下車。一旦改札の外に出ます。

本来ならば7分で行ける区間を遠回りしていく

ここまでの料金は190円。名古屋からはたったの7分で到着しました。

この区間を本来ならば1980円かかるルートで3時間かけて進んでいきます。なにか悪いことをしている気分です。

いつの間にか大増殖していた315系

それでは改札をICカードで通過し、下車したホームに戻ります。

第二走者は普通・高蔵寺行き。平日の昼間なのに結構お客さんが乗っていて驚きました。なんかイベントでもあったんですかね。

列車は先程と同じ315系電車です。2022年12月の大量増備以降、逆に今まで居たはずの従来型の211系を見つけることの方が難しくなった気がします。

211系。

現在中央西線で使用されている211系5000番台はキハ85と同世代で、国鉄が民営化された直後に製造された車両です。

もうかれこれ35年ほど使用されているため、315系の配備が完了し次第引退するとのこと。

勝川駅。フェンスが取り払われる日はやってくるのだろうか。

しばらく走ると列車は勝川駅に到着。
ホーム階の中央には鉄道が乗り入れられそうなスペースがありますが、何故かフェンスで塞がれています。

長くなるので詳しい説明は省きますが、これは城北線という名古屋の北部を走る路線の乗り入れ予定地です。
が、色々な要因が重なり、あと10年くらいは乗り入れできないそうです。

ちなみに城北線はここ以外でも名古屋近郊の路線なのに非電化であったり、毎時一本しか列車が来なかったりと散々な目に遭っている可哀想な路線で、一部の物好きたちから絶大な人気を誇っていたりします。

ガーラ湯沢

ガラガラの車内。鶴舞で乗ったときは立ち客ができる程度には人が乗ってたんですがね。
都心だけが都会な名古屋の実情が垣間見えます。

 

高蔵寺駅に到着。後続の列車に乗り換え、先を目指します。
第三走者は快速・瑞浪行き。車両は従来型の211系です。列車の解説はさっきしたので省略します。

ここから先は山間部。渓谷とトンネルを交互に眺めながら風光明媚な区間を進みます。

風光明媚な県境付近

10分ほど走ると県境をまたいで岐阜県は多治見駅に到着です。

特急形と同等の性能を持つ

第四走者は太多線・普通美濃太田行きのキハ75形。かつては「急行かすが」に投入された実績もある車両ですが、今は「快速みえ」の他、JR東海の非電化路線の普通列車として活躍していることが多いです。

特筆すべきはその性能。なんと特急形であるキハ85系と同等の性能を持っており、電車顔負けのパワーで加速するバケモノ気動車として有名です。

なんか北海道にもいたよなそんな奴・・・

転換クロスしか勝たん

座席は転換クロスシート。最高ですね。5時間くらいの乗車までなら余裕で耐えられそうです。

ローカル線特有ののどかな雰囲気がたまらん。

列車は田舎ののどかな雰囲気の中をゆっくり進んでいきます。
特急列車と同等の性能を持つキハ75ですが、完全に力を持て余してしまっています。

ドクター東海

のんびりと走っていたところ、到着直前にとんでもないものを目撃。「ドクター東海」ことキヤ95系気動車です。

現在乗車しているキハ75をベースに作られた検測車で、世界に2両しか存在しません。そのうちの一両に意図せず遭遇してしまった訳ですから、かなりツイてます。

美濃太田駅に到着。

発車案内を見ると、特急ひだ16号/36号の文字が。

2種類の列車名が纏まっているのは岐阜駅まで連結し、ひとつの列車として走るから。岐阜で名古屋行きの16号と大阪行きの36号に別れます。

そう、実は今回乗車するひだ号は一日一本の大阪行き36号、通称「大阪ひだ」です。一日一本のロングラン列車ということで鉄道ファンから絶大な人気を誇っています。

今回は大回り乗車ということで岐阜までの30キロだけの乗車となりますが、大阪ひだでしか見られないレア要素は十分楽しめると思うので、無問題です!

新型

列車が来るまでしばらく待っていると先発のひだ号が15分ほど遅れて到着。新型のHC85系です。

エンジンで発電し、モーターで駆動するハイブリッド方式としたことでキハ85の性能を受け継ぎつつ、環境負荷を大幅に減らした次世代の気動車です。

電車と気動車を混ぜたような聞いたことがないような音を鳴らしていたのが印象的でした。

「大阪ひだ」で岐阜へ

夕日に染まる美濃太田駅

ひだ36号の到着予定時刻まで30分くらいありますが、お客さんがぞろぞろとやってきたので早めに並んでおきます。

気がつけば10人程のまぁまぁ長い行列になっていました。
皆さん鉄道の話題を話していらしたので同業者と見て間違いないでしょう。

今回は自由席利用ですので座れるかどうか非常に心配です。

本日の主役

そして17時24分。約6分遅れて本日の主役、ひだ36号が入線。
前面展望が拝める先頭車が自由席ということで平日にもかかわらず車内は大盛況。ほぼ満席のようです。

引退間近ということもあり、ある程度混雑しているだろうとは予測していたのですが、まさかこれほどまでとは…

ワイドビューの名は伊達じゃない

辛うじて通路側の席をゲット。キハ85名物、フカフカシートに身を預けます。程よいやわらかさが魅力的なシートです。

通路側というと普通の列車なら残念席ですが、かつてワイドビューの名を冠していた列車ということで、全体的に窓が大きく作られており、前面展望も相まって視界は良好。

客層は3割一般客7割鉄道ファンといった雰囲気。
最前列の方では多くの方々が通路に乗り出して前面展望に釘付けになっていたのが印象的でした。

前面展望に張り付くオタクと
高山線名物・Y字分岐器

そういえば、高山線といえば高速で通過できるY字分岐器で有名です。

通常、列車が分岐器を通過するということは急カーブを曲がるのと同じ状況になることから、大幅に減速して分岐器を通過することが普通ですが、高山線のものは110キロで通過できる仕様になっており、減速をする必要がありません。

ただ、列車は安全に通過できても車内は尋常じゃないほど揺れます。それがオタクたちにウケている理由の一つでもあるんですがね。

高山線を110キロで疾走すること20分。

大阪行き幕が見られるのもこれで最後

岐阜駅に到着。

「特急ひだ大阪行き」の行先幕をパシャリ。この幕を掲げて走る姿はもう二度と見ることはできないでしょう。

さらば大阪ひだ

この駅で大阪行きと名古屋行きが切り離し。

このイベントを一目見ようと多くの方々が連結部に集まっていました。

切り離しが完了した後は後ろに繋がっていた名古屋行きのひだ16号に乗り移り、いよいよ名古屋へと戻ります。

後面展望を眺めながら名古屋へ

さらば、大阪ひだ

ひだ号は5分の遅れをもって岐阜を出発。

この駅からひだ16号は進行方向を変え、バックするような形で名古屋に向かいます。

自由席は最後尾の車両。ひだ36号から離れていく様子を撮影しようと最後部に向かったところ、運良く最後列の座席が空いているのを発見。

という訳で後面展望かぶりつき席をゲットです!

速すぎ

大幹線・東海道線に入ったひだ号。自慢のエンジンを唸らせながら最高速度である120キロまで気動車とは思えないようなパワーで一気に加速します。

手元のGPS速度計は123.7キロを表示。遅れを取り戻すべく全力疾走で夕日の沈む尾張の大地を駆けてゆく様はまるで「走れメロス」のクライマックスのよう。

名古屋まではノンストップ。愛知の北の中心都市である尾張一宮の駅すらも容赦なく通過していきます。

ここからどれくらい遅延を取り戻すことが出来るのでしょうか。

あっという間に名古屋に到着

とんでもない速さで流れていく車窓を眺めること15分。車掌氏が来て、運転室、もとい車掌室の中へ。

そして「ワイドビューチャイム」を鳴動。名古屋到着のアナウンスを始めます。すっかり忘れていましたが、最後列って車掌さんが目の前でアナウンスをする姿を見られる席でもあるんですよね。

大阪ひだとは色違いのフカフカシート。
これよりも快適な普通車があるだろうか、いやない。

列車は遅れを3分も回復し、2分遅れで終着・名古屋駅に到着。最後の最後でキハ85の真骨頂が見られて感無量です。

そして、名残惜しいですが、ここでキハ85とはお別れ。古めかしい車内の雰囲気、唸るエンジン、フカフカシート…

もうこれに乗って高山に向かうことは無いんだな…

後ろ髪を引かれる思いでホームに降り立ちます。

今回の交通費は運賃190円×2+特急券1200円で合計1580円。

さすがにJR東海に申し訳ないので今回はやりませんでしたが、岐阜で特急券を分割購入すれば760円+330円で1090円となり、合計1470円となります。

1500円未満でここまで楽しい思いができるだなんて…大回り乗車し放題な都民が羨ましいです。

さいごに

名古屋駅に佇むキハ85と乗務員さん

2023年3月17日をもってひだ号としての34年の歴史に幕を閉じるキハ85ですが、臨時列車としての運用や、南紀号としての運行は先述した通り6月末まで続けられるそうです。

もし興味があればそれまでに乗りに行かれることをおすすめします。

また、京都丹後鉄道への一部列車の移籍が決定しており、それによると特に改造はしないとのこと。ファンとしては嬉しい事この上ないニュースです。

受験が終わったらキハ85に会いに丹後まで行ってきたいものですね。


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