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Banraku Western Field 開発記 -コンセプト決定まで-


こんにちは。CarasOhmiです。

ご挨拶

 長らくご無沙汰しておりました。
 久々に、noteで筆を取ったわけではありますが、今回はリモート即売会の話ではありません。

 ……というか、実のところ即売会の主催をやってた時期の方が、自分の中だとイレギュラーなんですよね。
 pictSQUAREの記事を書いていた頃は、コロナ禍におけるリモート即売会の振興(一般化によるイベントへの参加しやすい空気作り)という意図もあって、ノウハウ等を熱心に執筆していました。

 さて、今回は私のホームグラウンドのお話です。
 知ってる人は知っている、CarasOhmiの真骨頂「ゲーム制作」のお話です。

どんなゲーム作ったの?

 まず、これを語らなきゃ始まらないなというところ。
 実際にPVを見ていただければ。

 VRSNSの「cluster」において開催されたゲームコンテスト「ゲーム革命前夜」に、こちらのタイトルを投稿しました。
 見ての通り、西部劇の世界で銃をぶっ放すゲームです。
 PvP要素は無し、出てくる雑魚敵を撃ちまくるガンシューティングです。
 ゲームとしては個人戦とチーム戦のどちらもいけますが、基本はチーム戦を想定して作っています。
 今回は、こちらのゲームを作り始めたあたりの経緯などをお話しさせていただければと思います。

まずclusterって?

 いわゆるメタバースってやつですね。バーチャル空間で好きなアバターで、おしゃべり、おままごと、ライブ、DJイベント、公演、そして簡単なゲームなどがあそべるプラットフォームです。

 私はVRChatよりcluster派。これはCarasOhmiの英語能力が、極めて貧弱だからです(国産プラットフォームなので完全日本語で遊べるお手軽さがあります)。
 それと、もうひとつ、clusterは「お手軽なマネタイズ手段のあるプラットフォームだから」という要素もあります。

 こちらのワールド、一見してほのぼのしたかわいい系ぬいぐるみワールドなのですが……

「お迎えの流れ」……?
WAO!売る気満々だァ……

 とまあ、clusterにおいてはアバターに付与できるアクセサリーを自作・販売できるシステムがあります。
 このワールドは、まったりくつろげる「カフェワールド」というコンセプトに加えて、「くまちゃんグッズを売るための販促ワールド」という側面も持っています。イメージとしては「お土産の買えるテーマパーク・コンセプトカフェ」みたいな感じですね。
 ……流石に、ガッポリ儲けてくまちゃん長者、とはいきませんが、そこそこご好評いただけているワールドで、ここからくまちゃんをご購入いただいた方も多数。ありがたい。

 他にも、clusterにはマイクラ感覚でユーザーがワールドを作れる機能があり、そこに配置できる家具の販売ができたりします。イベントでは投げ銭アイテムもありますし、今後はアバターも販売できるようになるみたいです。楽しみですね。

 自分的には、メタバースへの参加動機は利益第一というわけでもないのですが、無償での活動にはモチベの限界があるとは感じていたので、公式にマネタイズ手段が提供されているプラットフォームというのは、魅力的だったわけです。

 ……ちょっと脱線しましたが、今回のコンテスト応募に至った理由のひとつとして、「賞金が出る」という要素もあったのは実際のところ。
 加えて、私がclusterを始めた年は、それまであったゲームジャムが未開催になっていて、自分の本領を発揮できる場がなく、悶々としてたんですよね。

 そんなこんなで、しばらく個人開発が停滞していたのもあって、気分を一新するために頑張るぞ、ってことでコンテストに向けたゲームワールドの開発を開始しました。

 前置きが長くなりましたが、ゲーム作りの話、はじめます!!

どんなゲームを作ろうかな?

がんばるぞい!

 まずは、作るゲームの趣旨を考えます。コンテストのテーマは「撮れ高」

 …とはいえ、自分はアート専門じゃないので「美しい世界」で勝負するのは、はっきり言って無謀です。あくまで「ゲームらしさ」という、自分の土俵で戦わないと、勝負になりません。
 できる限り周囲と差別化可能なものを考えた時、くまちゃんカフェで活用した技術が候補に上がりました。

くまちゃんのふわふわ挙動を使えば、リアルな死体表現できるじゃん」

「……は?何言ってんだこいつ?頭に綿でも詰まってんのか?」と思われたかもしれませんが、実はカフェのくまちゃん、手に持って動かすと、頭や手足が遅延してふわふわ動くんです。いわゆる「ラグドール」ってやつです。

 これは、VRMのSpringBoneという仕組みを使ってます。髪やスカートに入ってる揺れもののヤツです。これを「手と足と頭」に適用することで、簡易的なラグドールが実現できるのです。
 これのメリットは、各部位を物理パーツとしてジョイントで連結する物理ラグドールと違い、通信同期を行わないため軽量かつ、全てのユーザーのクライアントで、遅延なく滑らかな動きをするんです。

 これを「やさしい表現」のために利用したのがくまちゃんカフェ。では、本場の洋ゲーFPSのように、「衝撃を受け、手足を振り回しながら飛んでいく人体表現」にラグドールを利用したら……?

 このゲームのコンセプトが確定しました。「暴力」です。
 銃をぶっ放して、敵を物言わぬ【自粛】に変えていく、そんなゲーム!!

 子供のユーザーも多く、教育にも最適なメタバースプラットフォームであるcluster……。
 そのやさしい世界の住人たちの、秘めたる獣性を呼び覚ます!!

 ……規約違反にならない範囲で!!

フレーバーの方向性を決めよう

 「銃をぶっ放して人を撃つゲーム」と決めたところで、次はフレーバーの策定に移ります。

 最初に検討していたのは「FPSらしいミリタリー的なワールド」でした。当初はPvPも想定していたため、ジャンルとして確立したFPSやサバイバルゲームの文脈に載せたゲームにしようという発想でした。
 しかし、そこには数点の問題がありました

  1. サバゲーワールドはすでにいくつか存在し、キャッチーな要素に欠ける

  2. ミリタリー方面がマニアックで難解

  3. 時世的に戦争への忌避感がある

  4. 両手持ちの銃はメタバースと相性が悪い

 まず、1についてはそこまで大きな問題ではありませんでしたが、2にも関わる話として「些細な描写の間違いが大きな違和感につながる」という面がありました。
 様々な種類の銃火器を実装し、立ち回れるのは魅力的ですが、その武器の構造や機構を正しく理解していないゆえに、自分の表現を「正解」かどうかを判断できないのは、大きなハンデとなります。
 同様に、モーションや背景・プロップの選定、サバゲーフィールドのデザインなどについても、自分の知識だけで進めていくと、違和感に気づかないままに進めてしまい、どこかで綻びが生まれそうだと思いました。

 加えて3のように、ミリタリーは「戦争」と不可分な属性であるため、銃火器の挙動をリアルにしてしまうほどに、現実の戦争を想起させてしまうことが想像でき、特に国際情勢が穏やかではない昨今においては、必ずしも多くの人に受け入れられないだろう、という懸念もありました。

 そして、これが一番大きいのですが、4に書いたように、VRとメタバースは「両手で持つ武器」と、とにかく相性が悪いです。VRは2本のコントローラーが物理的に繋がっていないため、長い銃を両手で持とうとすると実銃を持っている感が逆に損なわれてしまいます。
 PCやスマホクライアントにおいても、プレイヤーのアバターのサイズはまちまちであり、物体の保持や歩行モーションも共通の一定のものしかない(自分でモーションを用意しても操作性を損なうため採用は現実的ではない)という難点があり、両手持ち武器は厳しいものでした。

 こうした理由で、両手持ちのアサルトライフルなどを主体とする現代的な軍隊をロールプレイするゲームは、どうしてもプラットフォームにマッチしないと考えました。

 そして、ネガティブな要因を整理して精査した結果「拳銃のみで戦うゲーム」としてゲームをデザインする方向に舵を切り、そこから逆算していった結果として、「西部劇」という舞台に至りました。

表現の配慮、そして幻想

 とはいえ、多くの方の知るところではありますが、西部開拓時代は必ずしも万人に幸福だった時代とは言えません。その歴史の裏には、差別や殺戮、戦争などの凄惨な悲劇が存在していました。
 先述のミリタリーで、時世への配慮から「現代の戦争」を避けた以上、こちらの問題とどう折り合いをつけるか、ある程度真面目に考える必要はあると思いました。

 今回のゲームにおいては、設定を「アメリカ大陸の西部開拓時代」とせず、「アメリカをモチーフにした、架空の異世界の開拓時代」と定義する形に着地しました。

遥かなる絶海、クラスターオーシャンをも超えたその向こう。
海の時代の果てに待っていたのは、新世界「フロンティア大陸」。
この地で巻き起こった空前のゴールドラッシュ。
眩い黄金の輝きが人々に与えたのは、夢や希望ばかりではない。
際限なき人々の欲は、各地で暴力の嵐を呼び、大陸を駆け抜けた。
愛銃ピースクラスターを握り締め、あなたは西へ向かう。
大陸西部の玄関口、荒野の街「バンラク・ビレッジ」。
あなたは、女店主が切り盛りする、あるサルーンに足を踏み入れた 

Banraku Western Saloon 【ガンマンの集う酒場】説明文

 これは単純な固有名詞の回避もありますが、娯楽作品として現実の歴史の理想的な部分だけを切り出す虚構である以上、明確に別世界とするのが良い、という判断がありました。

 例えばですが、令和の私たちの観点で「昭和の時代」は、「治安や衛生の状態は現代より悪く、ハラスメントや差別なども横行していた」という認識を持っているものと思います。
 一方で「昭和の時代は貧しくとも人情があり、人々や町並みにも温かみがあった」と、レトロな雰囲気へのノスタルジーも掻き立てられる、そんなイメージがあるのではないでしょうか。

 同じことは時代劇や中世ファンタジーなど様々な物に当てはまり、娯楽作品として「昔の世界」を持ち出した時、史実とはまた別に、その時代を体験してみたいと憧れる、現代人ならではの幻想(ファンタジー)が介在します。そしてそれは、西部劇においても当てはめられると考えました。

 今作におけるウエスタンも、人種差別や凶悪犯罪などは、娯楽作品の枠に収められない、現実の当事者を傷つけかねない描写は控え、「銃を携えた孤高のヒーローとして人助けをしながら、悪党の跋扈するスリリングな荒野を生き延びる」というロールプレイを楽しめるよう、西部開拓時代に感じる異国情緒やレトロな雰囲気という「幻想」を強調し、凄惨な歴史はオミットする、そんな世界観として定義しました。
 そして、そうした理想化されたウエスタン世界を史実と同一視してしまうことは、歴史修正的な作品になってしまうために、シンプルな固有名詞を作って独自世界観だと明示する形式にまとめた感じになります。

(なお、購入したアセットには、ネイティブアメリカンや南北米軍のキャラクターモデルもあったのですが、適切な表現ができると確信が得られるまでこれらは封印し、あくまでプレイヤーと街の悪党という、入植者市民同士の小競り合いをバックストーリーに据えました)

 そんなわけですが、「配慮」によって表現の幅は狭まったかというと、別にそういうわけでもなく、例えば架空の世界として定義したことで

  • 「西部の荒野にゾンビが現れた!」

  • 「サムライvsガンマンの一騎討ち!」

  • 「渓谷に巣食う悪しきドラゴンを撃ち落とせ!」

  • 「ボールを撃ってゴールに入れろ!これが西部サッカーだ!」

  • 「宇宙人の侵略にリボルバーで立ち向かえ!」

 ……などと、史実ではあり得ない、それこそ幻想(ファンタジー)めいたメチャクチャな展開をやることもできるという受け皿も担保できました。
 「不自由度こそが、作品の方向性を形作る」というところで、「現代ミリタリーや史実要素を採用しない」ことによって「なんでもありの架空西部劇」という、一つの軸を手に入れた、と言えるかもしれません。

 そんなわけで、面白いネタが思いついたら、軽率に西部劇とミックスして、トンチキウエスタンゲームに仕立て上げたいですね。

出来る限り楽して作ろう

 コンセプトとゲームの趣旨は決まりました。しかしながら、状況にゆとりはありません。
 今回のコンテストは、おおよそ1ヶ月半ぐらいの時間しかありませんでした。必然的に、アセット制作にはそこまで時間を割けないということになります。
 今作は出来合いのアセットを多数使う方向で決定し、使えるものがないか探した結果、こちらのシリーズが見つかりました。

 建物とキャラがパックになってるので、これ一個で大半をクリアできました。また、同規格のアセット集がファンタジーや現代問わず多数販売されているため、先述の世界観ちゃんぽんをやりたくなった際にも便利です。

他には

  • コルトシングルアクション(西部劇のリボルバー)風の銃モデル

  • 夕焼けskybox(他のウエスタンアセットに含まれていたものを使用)

  • 発砲時のマズル・硝煙エフェクト

  • 流血・爆発エフェクト(Unity Technologiesが提供してました)

  • ハンドガンを持つキャラの各種モーション

あたりを探して使用しました。

 UnityAssetStoreの他、効果音はフリー効果音サイトの「効果音ラボ」と「On-Jin ~音人~」、BGMは「魔王魂」、キャラクターボイスには合成音声のcoeiroink、デザインには「シルエットデザイン」「Icon rainbow」、ウィンドウ素材や弾丸UIはBoothにて有志の方が提供されている、フリーのゲーム向け素材を使用させて頂きました。

 今回のゲーム、本当に自分で絵やモデルを作ってません。タンブルウィードが打たれた時に飛び散る、草の破片を描いたぐらいです。

 そんな中で、ゲームとしてのオリジナリティを出せるのかについてですが、今回のゲームにおいて、私は「自分にしか作れない」という「新奇性」を重視しませんでした

「ゲーム革命」ってなんなんぞ?

「……はァ?てめェ、『ゲーム革命前夜』って銘打ったイベントで、新奇性ないゲーム出すのかよ?許されんだろ、そんなん」と感じるかもしれませんが、今回のこのイベント名について考えるところがあって、この方針に決めました。

 まず、イベント主催であるcluster運営は「何に対して」革命を起こそうとしているのかです。
 初見の人は、革命の対象を「ゲーム業界」と読み取ってしまうかもですが、私はこれを「clusterのゲームシーン」に革命を起こしたいのだと読み解きました。
(実際のところ、配信を見に行くと、コメントの治安がかなりヤバく、初心者の心へし折り空間だったんですが、リスナーは「ゲーム業界への革命」と読んでしまったので、投稿ワールドの手作り感を見て「大言壮語だ!」と感じてしまったんでしょうね)

 現状、clusterにおける「面白いゲーム」は以下の基準で分類されると思っています。

  1. clusterにしては面白い(ゲームとして成立している)

  2. clusterなのに面白い(製品らしいゲームになっている)

  3. clusterだから面白い(clusterの仕様が楽しさの仕掛けになっている)

 私の所感ですが、clusterのゲームにおいては1が佳作、2が良作、3が傑作の部類で、大体のゲームワールドは1に分類されるものと思います。
 ……というのも、使えるアセットに制限が多いこと(c#によって実装されたものなどは不可)や、ワールド作者は必ずしもゲーム開発慣れしていないために、UIデザインやアニメーション、サウンド、フォントが雑に作られているワールドが多く、どうしても素人感が出てしまっているためです。
 せっかく面白いアイディアに立脚していても、UIや手触りがチープで、ゲームとしての完成度が高いとはい言えないような、そんなワールドが散見される印象です。

 なので、自分にとっての今回の「ゲーム革命」……すなわち「clusterのゲームシーンを一歩前進させる作品」とは、「UIと手触りを徹底して気持ちよく抑えたもの」……つまり「ゲームらしいゲーム」を作ることを開発の主たるテーマに設定しました。
 このゲームを出すことによって、及ばずながらもジャンルの「ゲームらしさ」への意識を刺激し、clusterのゲームワールドのクオリティ向上を牽引できれば、みたいなスタンスです。

 そのため、ゲームシステムは「面白い」必要はありますが「新奇性」は必ずしも必要ないという考えになりました。
 何を見せるために何を削るか。エンタメとは、足し算ではなく引き算により洗練されるものです。
 新奇性に特化した、誰も作ったことのないようなCarasOhmiのゲームをプレイしたい方は、ライジング・アーチをプレイしてください。

(はよ完成させろや)

一旦ここまで

 この記事だけで語り切れるかなと思っていたのですが、ゲームを作り始めるところまでいかず、ゲームのコンセプトを定義するところで終わってしまいました。
 この記事を読んでくださった方からも「もっと具体的な『ゲームの作り方』を説明しろや」と言われても不思議ではないと思います。

 なので、なるべく近いうちに「ゲームデザイン編」として、実際にCCKを触った上での所感や、要求挙動を実現するために行なった工夫、UIづくりなどについても執筆し、公開できればと思います。

 ぜひ、続きも読んで参考にして頂けますと幸いです。

最後に一言

 ぜひ、遊んでみてください!!!!!!!!!!!!


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