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私は
「パソコンを持っていく。
 引越し業者も手配した」
という言葉を、未だ家に置いてある荷物を
全て回収するということだと認識した。

だから家にある細々したものは
忘れないように、というか
置いていかれないように全部袋にまとめて
準備しておいた。

彼は引越し業者が来る前日家に来て
細々したものが入ってる袋やら何やらを見て
「全部、持って行かなきゃダメ?」
と聞いてきた。

その問いに「パソコンを持ってく」は
本当に言葉通りの意味だったのかもしれないと
気付いた。

パソコンとパソコンデスク、その周辺機器だけ
持っていくと。

だけど私はその問いを聞いて
「なんて自分勝手な人なんだろう」
と感じてしまった。
自分から別れを切り出しておいて、それなのに
荷物は中途半端に残したままにしたいなんて。

そして翌日、荷物が全て運び出され
彼が出て行く時に、彼は泣いた。
「普通泣くのは逆だと思うけど。ごめんね」と。

彼からひしひしと、離れがたいといった感じを
受けて、私ももらい泣きしそうになった。

けれどそこで泣くことは
私のプライドが許さなかったし
そのままなし崩しになるのも嫌だったから
泣きはしなかった。

「たくさん話したいことがある。
 今度泊まりに来てもいいか」と聞かれて
「何を言ってるんだろう、この人は」
と思っていた。

私には話すことなどなにもないのに。
これまで散々
夜は一緒にいられないとか言ってたくせに。
たくさん私を傷つけておいて虫が良すぎる。

けれど、寂しいんだろうなとも思った。
私は離婚問題が勃発してから離婚成立までずっと
「別れなくない」と言ってたから、彼の中には
それが残ってるんだろうな、とも感じた。
私の気持ちがまだ彼にあると思ってるのだと。

だけどもう私にとって彼は「他人」に
なってしまっていて、私の中に彼に縋る気持ちは
もう残っていないようだった。

見送りながら私は
「さっさとこの閉塞感から解放されたい」
と思ってたのだから。

そして彼を見送り
彼の荷物が全てなくなった部屋を見て
何を感じたか。

「あー、すっきりした」

これがその時の率直な感想だ。

もちろん多少は「喪失感」もあった。
けど、解放感の方が大きかった。

そうだな「ようやく、私が私として生きられる」
そんな風な感覚もあったかもしれないな。

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