09/21 禁書の囁き
アストレアの肉体は、12階層に到達した。
そこは、とても地下とは思えない広さの美しい庭園だった。色とりどりの花々が咲き乱れ、清らかな水が流れる小川がせせらぎ、鳥たちのさえずりが響き渡る。
アストレアの自意識は、禁書の中にあった。
「…探知」
彼女は、虚ろに呟く肉体を通して禁書の中で周囲への分析を続けていた。
アストレアは、肉体に指示を出し、進路を決定するべく探知魔法を使った。
探知魔法によって、彼女は庭園の罠を回避し、深層へと進もうとしていた。しかし、アストレアの思惑通りにはいかなかった。
庭園には、リリスが配置した植物系モンスター、森乙女が潜んでいたのだ。
長い髪で背中を隠した全裸の美しい女性の姿をした森乙女は、アストレアの移動先を予測し、大量に待ち伏せていた。
アストレアの肉体は、数十体もの森乙女の長い髪に絡みつかれ、捕縛される。
禁書の中で、アストレアは舌打ちした。
油断していたわけではない。だが、禁書に主導権を移したことで、肉体の反応速度が鈍っていたのだ。
「闇を喰らい尽くせ猛る炎…照炎」
彼女は縛る髪を蒸発させ迫る蔓を灼き、縛りから抜け出した。
しかしその間にも生け垣のように迫る無数の魔物の波は止まらず、森乙女は連結しながらその環を縮め、環は絡まって上方に伸び、巨大な樹木を形成していた。
「かかった」リリスはわずかに微笑む。
いつの間にか巨大な木の洞の中にいる!赤熱化するアストレアは周囲を灼き焦がすが水分を含んだ生木は燃えず、巨樹の洞は圧力を強め烟っていた。
アストレアはを禁書を振り上げるとその力を開放し、反撃を開始した。
「…転移」
RPには観客が必要
ウルティマオンラインを始めとするインターネット初期のMMORPGにもロールプレイは存在したが、特にゲーマーには疎まれがちであったと記憶している。今でもそうなのかもしれないが、ことストリーマーのRPというのは視聴者に見られている前提のプレイなのできっちりとその役割が守られ、守られたうえでプレイの自由が確保され、理想的なロールプレイになっている。当時のPKやPKKはゲーム外での情報のやりとりが基本的に秘匿対象であり、スパイとして両陣営に参加するなど、ガチのマジでの犯罪行為のようだった。
その上RPは恥ずかしいプレイヤーとして掲示板で晒されるほどだった。システムが付ける赤ネームなどものともせず、犯罪に走ることを楽しみとするプレイヤーも多く、システム制限は本末転倒な効果を生み、果てはサーバを分けることになったのは、バランス取れた世界構築のためには非情な要素もあってこそだと思う私にとって本当に残念だった。しかし平和に暮らす生産職が襲われてゲームを辞めたりするのを見るにつけ、当時はそれほど凄惨だったと思い出せる。
ロードブリティッシュ、制作者のリチャード・ギャリオットが演じる世界の王が討たれるに至ってはありえない自由さに興奮とともに虚しさも覚えた。
PKシステムを持つタイトルはほとんど消え失せ、大縄跳びをする程度のマルチしか期待できなくなったことはMMO衰退と無関係ではないと思っている。
現代においてMMOと言われるタイトルはそうした社会構築までをさせるつもりはないようで、ストーリーを追ったり狩りをして最期にレイドするだけになり、シングルプレイのRPGを皆でやるというのに収まったのを諦観とともに見ていた。それまでにも様々なタイトルが生まれたが、王を殺せるダイナミズムと悪意のプレイヤーを含んだままバランスは取れないのかという諦めがついてまわった。
でも必要なのはバランスのためのルールなどではなかったのかもしれない。見られてエンタメにできるストリーマーの自覚、そのためのシステム。いつも誰かが見ているかもしれないという可能性。これを全てのプレイヤーが持つのは難しいだろうか。そして似たような効果をローグライクのリーダーボードとリプレイは持ち得るだろうか。
進捗について。石をもっとフューチャーすることにした。アイテムの基本構造についてはいずれまた。鑑定システムとの兼ね合いで生成しやすくかつ分かりやすい構造にした。あれ、動画撮るとか言って撮ってないな。なんとかします。また明日。
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